第七章「招かれざる」4
結局あの後、リアは見回りに出ると、俺からの追求を避けるように外出してしまった。
残された俺はといえば、広すぎるダイニングで食事をそそくさと済ませ、城の使用人に案内されるまま客間へと入る。
内装はいたってシンプル。
全ての調度品が俺が使うには大きすぎることを除けば普通の部屋である。
いや、もう少しダークな部屋を予想していただけに以外と言えば以外だ。
これで実はリアが少女趣味だったなんて展開でもそれはそれで面白かった気がするが、まあ、流石に自室はともかく、客室をそういう風にするやつではないだろう。
「さて……何もすることがねぇな」
窓の外を見て呟く。
普段ならば訓練をしているところだが、今日はその相手がいない。
そしてリアがいない現状では、あまり城の中をうろつくのは控えるべきであろう。
リアのことは信頼しているが、その家来まで信頼できるわけではない。
万が一のことを考えると、たった今ここに居る間も命を狙われている可能性がある。
可能性にすぎないが、見過ごしてしまうには分の悪い賭けでしかない。
そう考えれば考えるほど、疑心暗鬼になってくる。
敵は誰で味方は誰だ。
てか、こんなことを考えていておちおち休むことはできるのか?
いや、無理があるな。
「そうなるとこの手段しかないわけか……」
俺はエスシュリー(仮)を操作してコンタクトを図る。
その相手はもちろんリリィだった。
……
…………
………………
……………………
覚悟していたが、肝心のリリィは通信に出なかった。
まだこの時間では寝ているというわけではないだろう。
うわ、一気に不安になってきたぞ……
「メッセージ──リリィ」
俺はアプローチの手段を変えることにした。
何がなんでもリリィが連絡を取らざるを得ない状況を作ればいい話である。
そうなるとことは簡単に進むものだ。
『今すぐ部屋に来て欲しい。リリィが来ないならば────』
脅しも似た言葉を並べてリリィへメッセージを送る。
そしてそれから数秒後。
部屋の中が白い光に包まれた。
「…………マスター、それは卑怯です」
「だって、こうでも言わないとリリィは来てくれなかっただろ?」
「それはそうですけど……」
やはり強行策に出ただけはあり、リリィは複雑な顔をしていた。
それでもどこか嬉しそうな表情が戻って来ていることはいい展開だと思いたい。
「ほら、リリィこっちこいよ」
俺は膝の上を叩く。
リリィは戸惑いながらもその誘いに乗って、俺の膝の上に座った。
「なんかいつもやってることのはずなのに人が変わると印象が違うな……」
「私も羨ましいと思っていましたが、実際やってみると恥ずかしいですね」
照れてるリリィもやっぱりかわいいな。
なんてそんなことを考えている場合でもないか。
「それで、やっぱり昔のことは話してくれないのか?」
優しく頭を撫でながら問いかける。
しかしリリィは黙ったままだった。
沈黙。
聞こえてくるのは密着したリリィの早鐘のような心音のみ。
まだダメか。
そう諦めかけたとき、ようやくリリィが口を開いた。
「もしもの話ですけど、マスターは私が他の男性の元へ嫁ぐと言ったらどうしますか?」
「どうもしない……かな」
「そうですか」
俺の答えが気にくわないのか、リリィの表情は曇ってしまう。
まあ、そうなることは最初から分かっていたことだ。
「俺はリリィが幸せになってくれるならそれでいいと思う。ただ、リリィが幸せになれないっていうなら絶対に許さないけどな」
「幸せにするとは言ってくれないんですね」
「そんな保証はできないからな」
「女の子は、嘘でも幸せにするとは言ってほしいものなんですよ」
「知ってるよ」
他愛のない会話の応酬。
しかしこれはこれで心地よいものだ。
彼女がそれを望むなら、それだけで安心すると言うのならば、そういう言葉を口にするのも悪くはない。
けれど、俺はその選択は取らなかった。
「それで、どうして急にそんな話になったんだ?」
「…………」
核心をつく。
腕の中の彼女はわずかに震えている。
そして何かを割りきったように口を開いた。
「実は私、マスター以外に婚約者がいるんです」
別にショックも受けなかった。
何となくだが、そういう展開も予想できていた俺がいた。
ただ、それを1つの事実として受け止める。
「それが嫌であの集落から抜け出したのか?」
「…………はい」
か細い返事。
だいぶ昔あったことの輪郭は見えてきた。
それならば俺の取る行動はこれしかない。
「それならずっとここにいたらいい。リリィの今の居場所はここだ」
「そんなこと言われたら、もう本気で離れませんよ?」
「今までは本気じゃなかったのか?」
「今までもこれからも本気です!」
ぎこちないリリィの笑顔。
しかしその瞳には今まで彼女を蝕んでいた悪いものがすべて抜け去ったように光が戻ってきている。
そして夜は更けていく。
まだリリィが話していないこともあるのだろう。
しかし、今はそんなことなどどうでもいい。
ただ彼女が笑っていてくれることの方が大事だった。




