第七章「招かれざる」3
リリィが部屋に引きこもり早10分。
リアの城に初めて来た俺は身動きすらも取れないでいた。
いや、動こうと思えば動けるのだが、城の中で迷子になるなんてことにはなりたくないだけだった。
だからこそリアと連絡を取ったのだから、ここでふらふらしていたら本末転倒もいいところだろう。
さっさと来ないかな……
そんなことを思っていたら、ようやく待ち人が現れた。
「1度戻られたのですね」
「ああ、いろいろあってな」
「それで、リリィさんはどうしたのですか?」
「そこで引きこもってる」
俺はリリィの入っていった部屋を指さす。
するとリアはただ苦笑いを浮かべるだけだった。
「本当にいろいろあったのですね。ついでですが、ござるは?」
「あっ!? 連れて帰るの忘れてた」
「そうですか」
正成のことなど本当についででしかなかったのか、リアはあっさりと話を終わらせた。
いや、少しくらい心配してやれよと思ったが、こうなった原因は俺であるからあまりツッコむのはやめておこう。
「とりあえず正成も呼び戻すわ──」
「それはダメです」
召喚!
そう言おうとしたところでリアから制止の声がかかった。
ダメとはどういうことだろうか?
リアが正成のことを嫌いとか?
まあ、確かに嫌いな異性を自分の家に入れるのは抵抗あるかもしれないな……
「ござるには念のために残ってもらっていてください。ないとは思いますが、リリィさんの移動魔法であの泉まで戻れなかった時に困りますので」
正成のことが嫌い説は不発に終わった。
まあ、確かに合理的な考え方をすればそうなるわな。
あの泉やエルフの集落に移動できない可能性が万が一にもあったら、あの道のりをもう一度移動しないといけないことになる。
それはおろか、もう一度あの結界を開けてもらえるかと考えれば失敗は許されないか。
「分かった。そういう風に連絡だけいれておくわ」
後でリリィと話せるようになったらしっかり確認をしよう。
それまでは正成に頑張って潜伏しててもらわないとな。
「メッセージ──正成!」
そしてその旨の連絡を正成に入れる。
二つ返事で『了解したでござる!』と返ってきた。
「それでは私達は夕食にしましょうか。魔王様もあまり満足な食事をできていなかったと思いますし」
「そうだな。とりあえず腹へった」
「はい。それではこちらです」
そしてリアの先導の元で俺の城よりも大きい城の中を進んでいく。
リア自体は俺らのような人に近い形を常時とっているが、部下達はそうでもないようだ。
だからこそそれに合わせて城も大きく作られている。
うん。
納得はできるけど、なんか解せないな。
まあ、今はそんなことよりもリリィをどうするのか考える方が先決だ。
あの様子では過去に何かがあったことは間違いないだろう。
問題はそれが何なのか。
そしてそのことが結界修復の依頼をするのに枷とならないか。
結局、状況も分からぬまま考えたところで意味のないことでしかない。
やっぱりリリィが話してくれない限りは先には進まないのか……
と、原点に戻ってくるわけだが、肝心のリリィがあの調子じゃな──
むにゅ。
そう考えていると、考えるのに夢中で前方への注意が疎かになっていて、柔らかい何かにぶつかった。
いや、ぶつかったというよりは引き寄せられた気がするのは気のせいではないだろう。
「魔王様、もう少し周りに注意を払ってください」
「自分から迎え入れたように思えたが、それは俺の気のせいか?」
「いえ、気のせいではないです」
ごまかす気もないのか……
てか、さっきも森でおっぱい触ってもいいとかいってたし、今度は顔をおっぱいで受け止めてるし、なんかおかしくねぇか?
「熱でもあるのか?」
「熱……そうですね。魔王様のことを思うと身体が火照ってきて」
「あー、はいはい。後で病院行こうな」
「病院……ですか?」
心配するだけムダだったようだ。
なぜおかしくなったのか。
そのきっかけになったのは恐らくあの訓練をした日にやっぱり何かがあったんだろうな。
「分からないならいい。それよりも、やっぱりあの時何かあったのか?」
「それは言えません」
「いいから答えろ」
言ってしまって気付く己の失敗。
別に有無を言わさず聞きたかったわけではない。
やっぱり言いたくないならいい。
俺の口からその訂正の言葉が漏れる前に、リアの口から真相が告げられた。
「あの後、魔王様から犯されました。身も心も捧げてしまいました」
えっと、ウソだよね?
「いえ、本当です。だから責任を取ってくださいね」
表情すら読まれてしまって、完膚なきまでに逃げ道を塞がれてしまった。
俺がリアを襲った?
あの気絶をした状態でか?
それはありえないことだと思う。
いや、そう思いたい。
しかし、そう告げたリアの瞳はとても嘘を吐いているようには思えなくて……
「はぁ……」
俺は嘆息する。
また悩みの種が増えてしまったのではないだろうか?
てか、嫁が5人もいながら他の女に手を出すって何してんの俺?
「半分冗談ですから安心してください」
「いや、半分ってどこまでが本当なんだよ!?」
「それは今はまだ内緒です」
リアの珍しい満面の笑み。
その笑顔の先には湯気をたてた料理の並ぶダイニング。
結局謎は深まるばかりであった。




