第七章「招かれざる」1
意味の分からない行動を繰り返していた。
先ほど泉のほとりで出会ったエルフ娘に連れられるまま、深い森の中を進んでいる。
しかし、果たしてそれが本当に進んでいるのか疑わしい。
同じような道を迷子になったかのようにうろつくこと早5分。
一向に目的地に着く気配はない。
「次は左です」
それでも彼女は明るい表情でそう言っている。
道に何か印になるような物があるわけでもなく、その状況下でこんなに長く分かれ道の選択をし続けていた。
思った以上にエルフの集落に入るのは手間がかかる作業のようだ。
「最後は真ん中で到着です」
分かれ道を少し進んだところで彼女は無邪気にジャンプする。
さすがにそれを真似しないといけないわけではないだろうと、俺は普通にその後ろを着いていった。
眩い光に包まれる。
長い光のトンネルを抜けると、そこは春国だった。
文学っぽく表現してみたが、それには特に意味はない。
ただ深い森から一転、見たこともない綺麗な花が咲く長閑な場所に着いたというだけだ。
「ここが……」
「はい。私達の集落です」
見渡す限り一面に色とりどりの花が咲き誇るジオラマのような景色。
季節は春。
四季などないはずのRPGにおいて、それは常夏ならぬ常春なのだろう。
争乱の『そ』の字もない平和な集落。
地雷ではなく花をください、という言葉が具現化されたような集落だった。
「花、綺麗ですよね」
「そうだな」
「でも、傷の治療をしないといけないので、今は私の家へ向かいましょう」
そう彼女は微笑む。
そして再び、その小さな背中を追う。
もしこの世界に来て、初めて出会ったのが彼女であったら、『月が綺麗ですね』なんて口走っていたかもしれない。
もちろん月なんて出ていないし、その言葉の意味が伝わるわけもないんだけどな。
そういえば、本当にこの世界に来て初めて出会った女の子にも似たような感情を抱いていたな。
あ、初めて出会った女性ならあのおばさんになるからノーカンか。
嫁のエルフ娘のこと。
うん。
誰に聞かれているわけでもないけど、間違いを直すことは大切なことだ。
そんなくだらない事を考えているうちに、俺たちは集落の中心地近くまで来ていた。
「あはは、目立ってますね……」
俺からすればエルフ耳をしたやつが村中を彷徨いている事の方が異様なのだが、裏を返せばエルフには俺が異様に映るのだろう。
ましてや格好が黒いローブだからな。
自分で言うことではないが、不審者極まりない。
日本なら即通報されるレベルだ。
「突然攻撃されるなんてことはないよな?」
「流石にそれはないと思いますよ。私達エルフは他の種族よりも温厚ですから」
自分でそれを言うか。
まあ、説得力はかろうじてあるからいいけど。
「あの、そういえばどうしてこのようなところまで来たのですか?」
「冒険の一環かな。これでも一応冒険者なんだ」
元、だけどな。
いや、嘘を吐くのは忍びないが、バカ正直に魔王ですなんていうわけにもいかないだろう。
結界のことはどこかで言わないといけないが、それは後でも構わない。
むしろ、今は交渉をうまく運ぶために情報を集めないといけないしな。
「冒険者ですか。そういえば剣を3本も挿していますね。1人であの森を抜けてくるなんてカッコいいです」
姿を見せていないが今も俺の後方には正成がいる。
そして途中からはリアの背中に乗って移動していた。
でもそんな事実は知らなくてもいいことだろう。
「まあ、それで怪我してたら世話ないけどな」
「そうですね」
「いや、そこは否定してもらいたかったな」
「えっ!? あっ、すみません」
多分何も考えてなかったんだろう。
そういうことにしておこう。
「謝らなくていいよ」
「はい。すみ──」
謝らなくていいという言葉に謝ろうとしているなんて、どれだけ古典的なボケなのだろうか。
恥ずかしそうに口元を歪ませている表情を見ると、確実にボケでないのは分かるけどな。
いい人なのはいいけど、いい人過ぎて詐欺とかに引っ掛かりやすそうだ。
そんな失礼なことを考えていたら、彼女が再び話しかけてきた。
「あの、もう1つ聞いてもいいですか?」
「はい。何でしょう」
「お名前を教えてもらえますか?」
ああ、そういえば名前を教えてもないのか。
名前すら知らない人の心配をずっとしているなんてどれだけ人がいいんだろうな。
しかもその傷がただの擦り傷だし。
「俺は柳生三厳だ」
「三厳さんですね」
いきなり名前で呼んでくるのか。
知っていたけど、このエルフ娘はとってもフレンドリーだな。
「あれ? 三厳さんと呼んではまずかったですか?」
「いや、構わないよ。いきなり名前で呼ばれて驚いただけだ」
「えっ!? 名前は柳生さんですよね?」
うん。
原因が分かった。
そういえばエルフ族は外国人みたいに名前を先に名乗るんだったな。
リリィに昔聞いた話では、リリィが名前、エフが父方のファミリーネーム、シュリーンギアが母方のファミリーネームだっけか。
確かにそういう文化であれば柳生の方を名前だと思ってもおかしくはない。
「すまない。俺たちの種族では名前を最後に名乗る癖があってな」
「あっ、そうでしたか。やはり異文化交流は一筋縄ではいきませんね」
いや、そこまで難しく考えなくても……
「あっ、そういえば私はまだ名乗っていませんでしたね」
「そうだな」
「私はシャーリィ・エフ・シュリーンギアと申します──」




