プロローグ「魔族反乱」
金髪の女賢者リリィ・エフ・シュリーンギアと日本へ帰還し束の間の休息を過ごしていた俺は、神族のフランニュエール・ナナニエル・リヴィエールから緊急事態が起こったとの報告を受けて至急RPGへと戻ってきた。
そして状況を把握するため、ござること忍者の正成と無事合流を果たし、竜族の襲撃や、それによって魔族が反乱を起こした事。
共に冒険をしてきた仲間が身柄を拘束されている事を知る。
その対策を立てようとしているところに現状では敵か味方かも分からないゼノウィリアが現れた。
「──まったく、世話のかかる旦那様だ……」
本来ならば仲間であるはずの闖入者に対してリリィと正成が戦闘態勢を取る。
しかし銀髪の少年のような少女ゼノが武器を構えることはない。
「ゼノ、敵か味方か正直に答えろ」
「多分味方だ。少なくとも敵ではない」
その言葉を受けて、リリィと正成がほっと胸をなでおろす。
召喚の効力でゼノは命令に背くことができない。
よって彼女が敵でないことが確定したわけである。
「そうか。それで今回の首謀者は誰だ?」
「エルトハルムだ」
元急進派の第2貴族エルトハルム・ディレイン。
確かに正成から拷問紛いのことをされるなど辛酸を舐め続けてきたあいつならば謀叛を起こしてもおかしくはない。
ただ1つの問題を除けばだが……
「ベルちゃんとバルハクルトは?」
元魔王でゼノの父親であるベルウィリアと元穏健派の第1貴族バルハクルト。
反則ギリギリの方法で魔族との闘いに勝ちはしたものの、それでも彼らの実力が新生魔王軍の双璧にあたるのは紛れもない事実である。
そんな2人がディルの暴走を止めないなんてことは考えにくい。
「親父とバルハクルトは竜族を迎撃した際に深手を負った。そして2人が療養に入ったことにより緊急法の規定により全権がエルトハルムに移譲されている」
魔王である俺の不在と、2人の負傷が重なった結果がこのありさまというわけか。
そして本来ならば俺が戻った時点でディルに与えられた全権が消滅するはずだが、それを防ぐために俺を犯人に仕立て上げたということだろう。
「あの、それならばベルウィリアさんとバルハクルトさんをサシャさんの治癒魔法で回復させれば解決じゃないですか?」
「確かにそうでござる。そうすれば全権がベルウィリア殿に戻るでござる」
解決策その1。
暴走するディルから権力を奪うために負傷した2人を回復させること。
まあ、それが簡単にできるなら苦労はしないんだけどな。
「リリィそれは無理だ」
「ああ、あのちびっこの治癒魔法は光属性の魔法だからな。闇属性の魔法を使う親父やバルハクルトに使ったら逆にダメージを受けてしまう」
理由をゼノが説明する。
まあ、要するにあれだ。
某人気ロープレの3作目に出てくる闇の世界の大魔王に薬草を使うとものすごくダメージを与えられるようなものだ。
傷口に塩を塗るようなことができるわけもない。
「それならば三厳殿の力でエルトハルム殿に言うことを聞かせるというのはどうでござるか?」
「……確かに難しく考えなくてもそうすれば1発で解決しますね」
解決策その2。
この場にエルトハルムを召喚し、謀叛を止めるように命令する。
こんな簡単なことに気が付いていないわけがない。
しかしこの意見も却下だ。
「例えば俺が誰かに精神支配をされて、やろうとしていることを止められたとする。その時にお前らは精神支配を受けている俺の言葉を素直に飲み込めるか?」
「それは……」
「厳しいでござる」
ディル1人に言うことを聞かせるのは容易だが、彼に従っている魔族全員の戦意を削げるかと言えば微妙な話になる。
今の問題がそれだけであれば、この手段を用いても良かったのだが、敵はそれだけではない。
またいつ襲いかかってくるか分からない竜族の存在があるというのに、仲間割れを深刻化させるのは得策ではないだろう。
そうなってくると残された道は1つしかない。
後はそれを実現するための条件が揃っているかが問題だ。
「ゼノ、ディルに賛成している魔族はどれくらいいる?」
「第2貴族、第3貴族管轄の魔族がほぼ全員。後は親父が管轄している魔族の半数といったところだな」
ディルと第3貴族のウレーヌスが手を組んでいるだろうことは予想できていた。
だからそれは別に問題ではない。
ここで重要なのは第4貴族様が反乱に荷担していないことなのだから。
「そうか。リアは反対派ってことでいいんだよな?」
剣聖ヴァレリア。
全身黒装束で更に黒い仮面まで着けている彼女が敵でないのであれば好転させるだけの術がある。
「完全にこっちよりだ。あいつらが未だに殺されず拘束止まりで済んでいるのはあの女のおかげと言ってもいい」
「そうか。それならリアとも連絡を取らないとな」
俺はエスシュリー(仮)を起動させてリアにメッセージを送る。
するとすぐにコンタクトが入った。
「リアか?」
『はい。魔王様はご無事ですか?』
「ああ、それは問題ない。そして命令だ。──この接触のことは他言無用だ」
まずは1つ保険をかける。
リアのことを信用していないわけではないが、念には念を入れておかないとな。
『はい。かしこまりました。──それで魔王様はこの状況をどう打開なさるのですか? 必要なら私も微力ながらお供します』
「そうか。それなら2つ頼みたいことがある。まず1つ目だが、結界についてフランかサシャから何か聞いているか?」
俺が日本に帰っている間、結界調査をするフランとサシャの2人を護衛するようにと彼女をつけていた。
フランが捕まっているということならば、既に結界の調査は終了しているはず。
フランやサシャと連絡を取るべきでない今、頼りになるのはリアだけだった。
『はい。結界の修復は可能のようです。しかしそのためには非常に高い魔力を持った術士が5人必要のようで、あの2人にリリィさんを加えても2人足りないと言っていました』
結界の術式を作るのに魔族の魔力ではいけないということだろう。
つまり後顧の憂い──竜族の侵攻を食い止めるためには後2人の術士を探す必要があるわけか。
「2つ目の頼みだ。リリィとともに竜族の侵攻を抑えてほしい」
『かしこまりました。リリィさんは私が責任を持って守り抜きます』
「ああ、頼んだぞ」
そして通話を切る。
これで進むべき道は完全に決まったようだ。




