第五章「束の間の休息」3
目の前には大きな河が流れていた。
その河を渡ろうと人々は長蛇の列をなし、最後尾に俺も並んでいる。
俺はどうしてこんなところで河を渡ろうとしているのだろうか?
ふと、そんな疑問が浮かぶものもこうしていることが正解なのだと本能は告げていた。
──ってあれ?
なんか前にもここ来たことあるよな?
あれは確か……
そう、昔あの蛇みたいなやつと戦った後に……
ああ。
なるほど。
俺はまた死にかけてるのか……
「──様! ──王様!」
この声はリアか。
うん。
何があったのかを段々思い出してきた。
「さて、とりあえず帰るか」
どうすれば帰れるのかは既に経験済み。
俺は前回同様に後方に向かってジャンプした。
「──様! 魔王様! あっ……よかった…………」
目を覚ますと今にも泣き出しそうなリアの顔が至近距離まで迫っていた。
後頭部には柔らかい感覚。
リアの顔の向こうに訓練所の天井が見えるということは間違いなく膝枕をされていることになるな。
うん。
死にかけておいてこんなことを言うのはなんだが、これはこれで役得だと思う。
「…………お兄さん」
そんなことを考えていると、リアと同じ様に心配そうな顔をして俺を見ていたサシャから睨まれた。
サシャの回復魔法のおかげもあってか身体に痛みは残っていない。
むしろ俺がどんな倒れ方をして死にかけていたのかがわからないのは少し残念でもあるが、目が覚めたら痛みで気絶しました。
なんて展開は望んでいないから、まあ、リアにでも聞けばいいだろう。
「──それで三厳殿、どうしてこのようなことになっているのでござるか?」
「どうしてって……リアが説明してないのか?」
「説明も何も、ヴァレリア殿は『魔王様! 魔王様!』と慌てふためいているだけで何か聞けるような状況ではなかったでござる」
なるほど。
とりあえず気を失っていた間の大体な流れが掴めてきたな。
俺が瀕死の状態に陥った後に訓練所へ来た正成がサシャを呼びに行ったんだろう。
そしてその間リアは叫びながら膝枕をしていたと。
ふむふむ。
だいぶ理解できた。
「お兄さんしか分かってないから……」
ま、それもそうか。
とりあえず気絶する前のことを説明しないとか。
「簡単に説明すると、リアと手合わせしてたら完全に力負けして吹っ飛ばされた」
自分で言ってて悲しくなるが、これが今回死にかけた理由である。
いや、リア強いね。
さすがは召喚の効力でチート的なパワーアップをしていたアークとほぼほぼ互角の戦いをしただけの事はあるというか。
それに加えて今はその時よりもチート分を上乗せしているだけはあるというか。
一介の刀を装備しているだけの術士がまともにやりあえるなんて思ったのが全ての間違いだったんだよな。
「その申し訳ありませんでした。魔王様の提案で仮面まで取ってしまっていたので力を抑えきれませんでした」
「いや、いいよ。あれは俺が悪かったわ。まあ、でもゼノがリアの事を急進派だって言ってた意味が分かったわ」
剣を握ると性格が変わる。
あのどこぞのバイクに乗ったら性格が変わるキャラほどではないが、とても好戦的になることがはっきりと分かった。
もうここまで来ると剣聖というより剣鬼とでも言うべきだとは思うけどな。
「それにしてもヴァレリア殿の強さがそれほどのものとは……少し驚いたでござる」
「いや、アークとの戦いも見てるんだから驚くまでもないだろ」
「そうでござるが、三厳殿がそこまで簡単に間合いに入られるということが予想外なのでござる」
「……確かに」
なんかサシャまで同意しているけど、そこまですごいことじゃないからな?
多分。
「確かに魔王様の間合いに入ることは難しいです。しかし、私の剣の方がリーチが長いので」
「なるほどでござる。間合いの外からの攻撃なら力負けにも頷けるでござる」
納得されました。
うん。
自分でもわかってるけどなんか複雑な気持ちになるな……
しかも膝枕をされたまま頭を撫でられてるからなおさらな。
「ヴァレリア、そろそろお兄さんから離れて」
「えっ、あっ、はい。すみませんでした」
サシャからの指摘にリアが動転して身体を動かす。
言うまでもなく俺は地面で頭を打った。
もう泣きっ面を蹴られた気分だ。
「この後の訓練はいかがなさいますか?」
「俺はもう中止だろうな」
リアから俺の身体を取り戻したサシャが定位置の膝の上に居座っている以上はどうしようもないからな。
普段なら退かせることもできるのだろうが、
「今日はダメ。安静にしてて」
とやっぱり止められてしまうからな。
「それなら私は別の場所で続きをすることにします」
「──待って欲しいでござる! 拙者と手合わせをお願いしたいでござる」
「……はい。ござるとは1度戦ってみたかったので受けてたちましょう」
「拙者は正成でござる!」
いつもの言葉はもちろんスルーされ、組手が始まった──
ちなみに2人の戦いは正成とリアの対決は圧倒的な力の前に正成が泡を吹いて倒れた。
余談だが、それ以来正成はリアを見ると震えるようになったとかならなかったとか。




