第四章「アマゾネス攻略戦」8
内部への侵入は至って簡単だった。
このRPGに来てからどこか感覚が麻痺をしている様にも思えるが、存在感が極限まで希薄になるというのは非常に面白い。
元の世界であればこんなことが起こるわけもなく、もしそのような状況に遭遇したとしてもこれはドッキリではないのかと疑ってしまうだろう。
それほどに、それこそ透明人間にでもなったかのように、衛兵が守りを固める正門の真っ正面を普通に歩いていけるのだから人間の持つ可能性とは測り難いものである。
『これからどうするでござるか?』
そんな感傷に浸っていると数歩先を歩く正成からメッセージが入る。
どうするかと聞かれたところで、この王宮の地理に詳しいわけではないから下手な選択をすると迷路にはまる可能性が高い。
始まりの街の王宮みたいに真っ直ぐに歩いていけば玉座まで辿り着けるような作りじゃないからな……
『道なら魔力の痕跡を辿ればある程度分かるはず』
サシャは少しくすんだ赤を基調とした建物の中の一方を指さす。
こういう魔力なんていう感覚は俺には分からないから素直に従うとしよう。
そしてサシャのナビ通りを頼りに、正成を先頭とした俺たちのパーティーは複雑怪奇な王宮の中を進んでいく。
殿をついていくだけの俺はなんというか暇でしかない。
あまりにも暇すぎて、途中横を通る衛兵に何か悪戯をしたくなるくらいだった。
『到着したみたいでござる』
歩くこと5分。
何かが起こることもないまま玉座へと辿り着いた。
部屋の中にいるのは5人の衛兵。
そしてその中心で脚を組む女。
恐らくあいつがこの街の王女なのだろう。
『お兄さん、ここからどうする?』
『とりあえず話し合いが出来る状況を作りたい』
『それなら抵抗をされないように動きを封じてくるでござる』
俺が詳しい指示を出すまでもなく、正成が素早い身のこなしで部屋へと入っていく。
それが気付かれている様子はない。
そしてそのままうろちょろしているうちに準備が整ったようだ。
サシャはそのまま姿を隠しておいてくれ。
俺の指示に対してサシャが小さく頷く。
さて、一暴れするとしますか。
「どうも初めまして。魔王と申します」
部屋のど真ん中。
王女っぽいやつのちょうど目の前で礼儀正しく挨拶をしてみる。
もちろんその反応は予想していたそれだった。
「く、曲者! 早くこいつを捕らえなさいな!」
「残念ながら衛兵はもう動けないでござる。それと助けを呼んだら命の保証はできないでござる」
仕事を終えて俺の横に来た正成が俺の出番を奪っていった。
うん。
後でお仕置きだな。
「なんですの!? ござるござるとは!」
「ああ、こいつのこれは病気だから」
「病気ですの!?」
「違うでござる」
「もう、話がややこしくなるから黙ってろよ……」
「酷いでござる」
いつもの事ながら正成の扱いは悪かった。
主に雑な扱いをしているのは俺だけど、まあ、そこ辺りは丸めて東京湾にでも沈めとけばいいと思う。
「それで早速本題なんだが、結界を譲ってはくれないだろうか?」
「はっ、そんなことを言われて、はい。分かりました。なんて首を降るとでも思っているんですの?」
全然思ってないです。
逆の立場ならキレてる自信があるくらいに思えないです。
「ゆっくり上を向いて」
王女(仮)はノリがいいのか戸惑いながらも上を向く。
「そしてそのまま下を向く」
「こ、これは何がしたいんですの?」
「えっ、首を降らせてみせたんだが?」
「流石にそれは無理があるでござる」
「やっぱり?」
どうやら物理的に首を降らせてみたが、意味はなかったようだ。
まあ、こんなの遊んでいるだけだから特に意味はないんだけどな。
「まったく……何がしたいのか意味が分からないんですの」
「んー、とりあえず緊張感でもほどいてもらおうかなって。別に俺たちは争いに来ているわけじゃないからな」
「魔王と名乗った男に──そもそもこの女の園に侵入している男に言われても説得力がありませんの」
「それを男の衛兵を引き連れている奴には言われたくないな」
「それはそうですの」
なんだ?
この世界では王とか王女にはアホしかいないのか?
なんかブーメランになっている気もするがアホしかいないんじゃないか?
「まあ、争う気がないのは分かったんですの。でも目的が分からない以上易々と譲るわけにはいきませんの」
ふむふむ。
目的を明確にしたら譲ってくれるのか。
何だかんだ話が分かるやつっぽいんですの。
あ、うつってしまった。
「目的は結界の解析と可能であれば修復。ついこの間魔王になったとはいえ、別に他の種族と争いがしたいわけじゃないからな。アイウォント世界平和」
「最後の意味が分かりませんの。そしてその言葉を信用すると思われている意味も分かりませんの」
うん。
仰る通りですの。
「ならどうしたら信じてくれるんだ?」
「神でも連れてきたら信じますの」
神か。
難しいな。
俺が新世界の神になる!
とでも宣言すればいいだろうか?
うん。
もちろんダメだろうな。
「それならば連れてこれるでござる」
「「えっ!?」」
俺と王女(仮)は同時に驚く。
そして彼女は困惑しながら言う。
「どうして貴方まで驚いているんですの?」
「こいつが変なことを言うから」
「酷いでござる。──フラン殿がいるでござろう」
フラン……
ああ、フラン。
そういえばあいつは自称神属。
つまりは神だったな。
「証明になるかは分からないけど呼んでみるか」
とりあえずダメ元でフランを召喚する。
すると王女の目がビックリするほど大きく見開いた。
「本当に神様ですの」
「よく分からないけど僕は神だよ」
これほどまでに間抜け面をした神がいるのかと疑問に思いはするが、なんかフランは神として認められているみたいだ。
よかったはずなんだが、なんかこれはこれで解せないな。
「分かりましたの。神様になら結界を譲り渡しますの」
「よく分からないけど目的は達成できたのかな? 僕のおかげだから感謝しなよ、柳生三厳」
フランはえっへんとムダに大きな胸を張る。
やっぱりムカつくから後で牢獄に入れ直すとしよう。
「なんか良からぬ事を考えてないかい?」
「気のせいだろ」
「絶対気のせいじゃないでござる」
そんなに表情に出してしまっていたのか正成にまでツッコまれてしまった。
なんかこれはショックだわ。
「それじゃ許可はもらえたから調査は明日からということでいいかな?」
「はい。何も問題はありませんの」
「ああ、今日はもう疲れたから帰る」
帰路に着こうと、エスシュリー(仮)を操作してリリィを呼び出そうとしたところで最後の問題に気付く。
今まで当たり前だと思っていたけど、魔法──特にリリィの移動魔法が使えないとこんなに辛いんだな。
そして結局街の外に出るまで、数十分かかる距離をとぼとぼ歩いて戻るのであった。




