第四章「アマゾネス攻略戦」6
「剣を使えるのはたった2人か。それでは貴様らに勝機はない」
プライドがムダに高そうな女は、古典的なまでに高笑いをする。
勝利の確信。
まあ、さすがに女しか入れないはずのアマゾネスで屈強な男の衛兵十数人が侵入者4人を取り囲んだとなれば当然の判断だろう。
その上、俺とリアはサシャとフランの2人を守りながら戦わなければならない。
これに関しては召喚を解除してしまえば解決する話なのだが、相手がどんなカードを隠しているのか分からない以上、なるべく最終手段として温存しておくのが賢明であろう。
そうなるとまずは少し時間を稼がないといけないな。
「アマゾネスには女性しかいないはずじゃ……」
「それはあくまでもこの結界を警護するための予防線。管理者側が優位に立てるよう内部に男を潜ませておくのは常套手段じゃないか?」
「確かに一理あるね。うん。そうだよ」
フランはこんな状況で何を呑気に納得しているのだろうか?
まだサシャに会話を繋げて欲しかったのに、計画が台無しじゃないか。
「死を前にしてそれだけの余裕があるとは……危機感がないのか、よっぽどのバカなのか。理解に苦しむな」
「彼女は空気の読めないただのバカだから放っといて欲しい」
「ちょ!? バカって酷くない? せめて仲間なんだからフォローの1つや2つはしてよ!」
サシャの言葉にフランが怒る。
その様子をこれが遺言になるのだからとでも思っているのか、それともリーダーであるあの高飛車女が指示を出さないからなのかは知らないが、衛兵たちは黙って見ていた。
まあ、そのおかげである程度時間は稼げたし次の段階に移るとしますか。
「──まあ、なんにしろそっちに男がいるならこっちに男がいたって問題ないよな」
「何!? そんなに可愛い顔をしていて男だと言うのか!?」
「ああ、俺は男だ。そこの仮面の女に脅されてこんな格好をされられているだけだから可愛いなんて言われても嬉しくないけどな」
俺の発言で高飛車女の視線はリアへと向く。
リアには申し訳ないが囮になってもらうことにしよう。
「だから俺はそんな結界なんてもんに興味はない。──というわけで侵入もろともの罪はなかったことにして欲しい」
恥も外聞もなく深々と頭を下げる。
さて、こんな要求が通るわけもないんだが、どういう反応が返ってくるだろうか?
「そうか。ならば貴様は見逃そう。──なんて言うと思うか?」
「ですよねー。なら痛いのは嫌なんでせめて楽に死なせてください」
俺は刀を地面に落として無抵抗をアピールする。
「それくらいならば要望に応えてやろう。お前ら、殺れ!」
高飛車女がついに指示を出した。
しかし、屈強な衛兵たちは誰1人として動かなかった。
いや、動けなかった。
「──任務完了でござる」
「ああ、これでチェックメイトだ」
高飛車女が動かない衛兵に気をとられているうちに、俺は別の刀を装備して、彼女の喉元を捉えた。
「くっ……殺せ」
その台詞言う奴ホントにいるんだな。
ここは定番通り凌辱をするような流れに持っていくべきなのだろうか?
「──えいっ!」
くだらないことを考えていると、後ろからチョップされた。
「お兄さん…………浮気ダメ……」
「そうだな。そんなことしたらリリィから怒られそうだしな」
「リリィは結局なんだかんだ許す」
サシャの言う展開が容易に想像できる。
残りの3人が呆れるところまで合わせてきっと完成形なんだろう。
て、そんな話じゃないから。
「それでみっちゃん、この子達はどうするつもりなんだい?」
「どうするも何も抵抗さえされなければ解放するぞ」
「ま、そうだよね。僕としてもムダな殺生は見たくないからいいんだけど」
「魔王を殺せなんて次々に刺客を送り込んできたお前らがいう台詞ではないな」
「それはそれ。これはこれ」
この世界の神様はとても理不尽で無責任なようだ。
そんなんだから昔魔族にしてやられたんだろう。
「──早く殺せよおおおおお!」
「うるさい!」
「はい。ごめんなさい」
そんなにまで死にたかったのか高飛車女が叫んだが、反射的に口から出た言葉ですっかり黙ってしまった。
もう涙目だし、なんか俺悪者みたいじゃね?
「おね──お兄さんは魔王様だから」
それもそうか。
魔王様なんだから悪者でもおかしくはないのか。
「魔王……だと!? お前が魔王──お前がか!?」
あの、その反応はあまりにも失礼過ぎはしませんかね?
確かにリアと比べて邪悪な気があるわけでもないし、元々は人間なんだから魔族らしさはないと思うけど。
うん。
その反応が当たり前だったわ。
「口を慎め」
そしてそんな反応に忠誠心を煽られたのか、リアが高飛車女の首元に剣を突き立てる。
俺の事を魔王として慕ってくれているのはありがたいがそこまでしなくてもな。
いや、俺も既に刀を突き付けてる状態だから人の事を言えた義理じゃないけど。
「リア、気持ちは分かるが今は抑えてくれ」
「……はい。失礼しました」
リアが剣を収める。
高飛車女の口からはホッと安堵の息が漏れた。
1度は殺せと叫んでみたものの、やっぱり死にたくなかったようだ。
膝が笑い、腰は抜ける。
極限まで研ぎ澄まされた殺気が与えたダメージは計り知れなかった。
「て、抵抗なんてしない。だ、だから命だけは……」
「正成」
「御意」
俺も剣を収め、正成が影縫いで動きを止めていた衛兵たちを解放する。
男たちは意気地もプライドもないのか、蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。
「あっ、お前ら待て……」
高飛車女──改め半泣き女の悲痛な叫びは虚しく響きただ1人取り残されてしまった。
別に何をするわけではないが、魔王一味がいる場所に1人取り残されるってすごい精神的に辛いんだろうな。
まあ、そんなこと気にしてる暇もないけどな。
知ってるぜ、こういう時ってヒーローが駆けつけてくるものなんだろ?
「フラン、結界について何か分かったか?」
「んー、なんか結界にしては力が弱すぎるというか。流石にこれだけでは結界としての機能を果たしていない気がするんだよね」
なるほど。
ということはまだこの街には結界があるというわけか。
「他の結界は?」
「そ、そんなものはない」
「お兄さん……嘘」
あくまでも情報を漏らさないという姿勢は誉めるべきところだと思う。
ま、そんなことサシャの前では意味がないんだけどな。
「そうか。やっぱり他にもあるのか。──それで他の結界の場所は?」
「死んでもそれだけは言えない!」
「ここから西南西に300ユーレ行った王宮に結界の核がある」
「何故それを!?」
「当たりか。よし、そこへ行くぞ」
「ま、待て!」
女は最後の力を振り絞って俺たちを止めようとしたが、1度恐怖の前に屈してしまった腰が動くことはなかった。




