第四章「アマゾネス攻略戦」3
目が覚めると、既に日は南の空に上がっていた。
そもそも異世界なのに何故太陽に似た恒星があるのか、とか。
世界の普遍的事項とでも言わんばかりに東の空から朝を告げて、西の空に沈むことで夜を告げるのか、とか。
まあ、そんな天文学的な事は専門ではないし、とりあえず自分の生活に不利益が出ないならどうでもいいんだけどな。
「お兄さん、現実逃避……ダメ……」
「分かってる。それよりもどうしてお前らはそんなに疲れた顔をしているんだ?」
「気絶してるお兄さんに女装させた後、エリスにたっぷり怒られた」
自業自得としか言いようがないが、エリスは怒らせるとすごく怖いということは分かった。
何の非もないはずの俺を張り倒して気絶させるくらいだからな。
うん。
女って怖い。
「──そんなことよりも早く行きますよ、三厳さん」
聞き覚えのない声にビックリして振り向く。
そしてビックリして損した。
「なんでお前はそんなにノリノリなんだよ」
「仕事ですから」
屈託のない笑顔で女装した正成が答える。
男だと知っているから少し吐き気を催してしまうが、その事実を知らなければ男受けのいい美少女として受け入れることができるのだろう。
忍術ってやっぱりすごいな。
「なるほど。趣味だからか。──まあ、そんなカミングアウトは放っといて、さっさとアマゾネスへ向かうとするか」
「断じて趣味ではないでござる!」
「口調戻ってるぞ」
「趣味ではあり──」
「それじゃリリィ、アマゾネスまで頼む」
「分かりました」
そして詠唱すらもなくなったワーティによって、俺たちの身体は眩い光に包まれる。
その途中正成が「酷いでござる」と言っていたが、いつものことだから気にしないでおこう。
「ここからは2人で行かれるのですか?」
光が消え、アマゾネスの門から200ユーレほど離れた移動のポイントに着いたところでリリィがそう聞いてきた。
恐らくリリィはついてきたいのだろうが、視察とはいえ魔法が使えない状態で彼女を連れていくのは明らかに得策ではない。
しかし、2人で行くと言ったら万が一の場合は──なんて言われるだろうから先に手を打つとしよう。
「いや、リアとフランを呼ぶ。中に入ったら俺が喋れなくなる以上、本物の女が複数いた方がいいからな」
「ヴァレリアさんはともかく、フランさんはズルいです……」
いや、ズルいって……
そもそもフランはどちらかと言えばついてきたくないだろうから、ご褒美みたいな扱いをされるのは心外だと思う。
まあ、そんなこと言っても面倒なだけだからリリィの呟きなんて聞こえなかった事として処理させてもらうけどな。
「召喚」
エスシュリー(仮)を操作してヴァレリアとフランを召喚する。
ここに呼んでみて思ったんだが、黒装束に黒い仮面を着けているリアは男の俺よりも怪しいことこの上ないな……
「それじゃ、リリィは城で帰りを待っていてくれ」
「分かりました」
餌をねだる小動物のような表情で城へ戻っていったリリィに心が少し揺さぶられかけた。
うん。
リリィって歳上なんだけどやっぱり可愛いんだよな……
「魔王様、下見とは言っても何をするのでしょうか?」
「とりあえず結界がどういう風に張られているのかって言うのを調べることだな。役割としてはリアが用心棒。正成は隠密行動で調査。フランは情報を精査ってところだな」
「かしこまりました」
今の格好では普段通りに刀を3本も挿していくわけにはいかないから、有事の際にはリアに頑張ってもらうしかない。
後課題があるとすれば、中に入ってからどうやって意志疎通をするかだな……
「──それなら私がいる」
本当に心臓に悪いな……
てか、いつの間にサシャはここに来たんだよ。
「リリィが呪文を唱えたときに紛れ込んだ」
いや、そんなドヤ顔はいらないです。
確かに助かったけど、サシャがついてきたかっただけなのは分かるから……
「お兄さん…………心読んだ?」
「心を読まなくても分かりますね。それはともかくとしても、サシャさんがいることによって行動の幅は広がりますのでいいのではないでしょうか?」
「これで魔王様が言葉を発せられないという障害もカバーできますが、相手の力量が分からない以上、さすがに3人を同時に守りきれる保証はありません」
「まあ、いざとなれば自分の身は自分で守るさ」
「もう話は終わった? 行くなら行くで早くしてくれないかな?」
この場でゴタゴタと作戦会議をしている要領の悪さは認めるが、なんかクズフランに言われると腹がたつ。
まあ、でも俺、大人だし?
心広いし?
ここで仲間割れをしている場合でもないからグッと飲み込んで先を急ぐとしよう。
「全軍……出撃」
「了解です」
俺がこれから喋らないようにと気を遣ってくれたのか、サシャが何とも締まらないスタートの合図を出す。
正成はそれに苦笑いを浮かべながらも、先陣を切った。
そして数分も立たないうちに検問をしている門へと到着する。
到着した俺たちを待っていたのは昔も聞いた覚えがあるテンプレの言葉だった。
「おい、貴様ら止まれ! ここは男子禁制の街だ。入街理由を聞かせてもらおうか?」
「私たちは冒険者で、この街の奥まで行きたいのですが」
「そうか。なら入れ」
以前と同じように、正成がここは切り抜けてくれる。
まあ、多分前と同じように止められるんだけどな。
「──ちょっと待て! そこの仮面を着けた剣士と、フードを被った術士は止まれ!」
ほら、やっぱり。
どうせ仮面とフードを取れって言うんだろ?
それなら先に取ってやるよ。
俺はウィッグが外れないように細心の注意を払い、ゆっくりとフードを取る。
その様子を見ていたリアも顔全体を隠していた仮面を取った。
「ふむ、2人とも綺麗な顔をしているのだからそんなものを着けなければよいものを……まあ、いい。通っていいぞ」
なんか前にもこの科白を言われて嬉しくないなって思った気がするが、それは気にしないでおこう。
それよりもリアは本当に綺麗なんだから俺もあんな仮面着けなければいいと思うんだけどな。
てか、やっぱりこの街のレズ率はヤバイんだな……
ああ、なんか嫌な事を思い出してしまった。
まあ、何はともあれアマゾネスへ侵入は成功した。
後は目的を果たすだけだな。




