第四章「アマゾネス攻略戦」1
新生魔王城──玉座の間。
広々とした普段の光景とは打って変わって、人口密度が大変なことになっていた。
「なあ、何でこんなに人が集まってるんだ?」
俺は横に座るゼノへその疑問をぶつける。
ゼノは呆れたような顔をしてその答えを教えてくれた。
「本来なら召集をかけなければいけない奴がやるべきことをしなかったからだ。さっきバルハクルトが大慌てで各貴族の当主に連絡を入れて、あのエルフが迎えに行ってた」
なるほど。
バルハクルトとリリィか。
別に貴族たちはいなくてもよかったんだが、まあ、後々めんどくさいことにならないように根回しをしてくれたのだろう。
それにしてもアクルセイドやヴァレリアにまで声をかけてるとか事態を重く受け止めすぎじゃないだろうか?
俺がそんなことを思いながら苦笑いを浮かべていると、
「王としての自覚が無さすぎるぞ……」
と、ゼノに呆れられてしまった。
まあ、なんかいつも通りで落ち着くわ。
うん。
俺自覚がないな。
「──魔王様、全員揃いました」
バルハクルトの報告を受け、再度前を見る。
集まったのは俺とゼノを合わせて14人。
言うまでもなく、あの日決戦を繰り広げたメンツである。
「そうか。ならあいつを連れてきてくれ」
「はい。もう部屋の外に待機させています」
バルハクルトが入口の側に待機している衛兵に合図を送ると、拘束された状態のクズ女が部屋へと入ってくる。
なんというか、ここまで準備がいいと逆に怖いな。
「バルハクルト、お前も席についていいぞ」
「はい」
さて、役者は揃った。
作戦会議を始めるとするか。
「今日、皆に集まってもらったのは他でもない。詳しい話はベルウィリア頼めるか」
「はい。魔王様の命により我が城の書庫を調べたところ、6代前の政権時にこのRPGの地に結界による封印を施したとの記述が残されている書物が発見されました。それによって本来10の種族が生息していたこの地は分断されていました」
「しかしその封印が今は解かれてしまっている。何が原因かというとヒト種である俺が魔王──ベルウィリアを討伐してしまったことなんだが──」
「犯人はお前かよ!?」
だって知らなかったんだもん。
なんて可愛く言ったところで許されることではないと思うが、知らなかったものは知らなかったんだから仕方ない。
そして言葉を慎まなかったディルはバルハクルトから鉄拳制裁を受けましたとさ。
めでたしめでたし。
「めでたくはない」
「まあ、そうだな。でも今はそんなツッコミいらなかったかな」
いつの間にか、やはりここが定位置だと言わんばかりにサシャは俺の膝の上へと侵攻してきていた。
まあ、近くにおいていた方があのクズ女に説明を求めるときに便利だからいいんだけどな。
「まあ、ディルの言葉は当然なものだろうからそれくらいにしてやってくれ」
「誰がディルだよ!? 俺はエルトハルム・ディレインだ! 変な略し方してんじゃねぇ──痛ぇ!
」
バルハクルト容赦ねぇな……
あの殴られ方は確実に舌噛んで、後々まで痛みがひかないやつだぞ……
「──そんなことはどうでもいい。大切なのはこれからどうするかじゃねぇのか?」
いっこうに進まない話にしびれをきらしたのか、ゼノが脱線した話を元に戻してくれた。
「というわけでこれからのことについて話をしたいと思う。まあ、その前に今日捕まえてきたこの話に詳しいやつから根掘り葉掘り聞いていきたいと思う」
「ふふふ、この僕がそんな簡単に情報を吐き出すと──痛っ!」
神と名乗っているのに学習能力がないのか、不遜な態度をとったクズ女は、すかさずバルハクルトから鉄拳制裁を受けた。
本気で頭が陥没しそうな一撃だっただけに目が潤んでいるが、まあ、自業自得だろう。
「か弱い女の子の頭を本気で殴るなんて君たちは鬼か! それとも悪魔か!」
「我々は魔族です」
「そうだった……」
「てか、さっさと説明しろ」
ゼノではないが、溜め息を出したくなるほどに話が進まねぇな。
まったく……
「分かったよ……」
クズ女は頭を押さえながら、やれやれといった感じで説明を始めようとする。
しかし、それを空気の読めないアホが邪魔をした。
「──そもそもこの美しさの欠片もない女は何なんだ!」
はい。
3人目の鉄拳制裁。
ウレーヌスの気持ちも分からなくはないが、殴ってくださいと言ってるようなものだから放っとく事にしよう。
「説明がまだだったな。こいつは自称神の…………クズ女だ」
そういえばクズ女、クズ女呼んでたけど名前とか知らねぇわ。
別に知りたいとも思わないけど。
「僕は神族の徳川家康だ!」
クズ女は名前を名乗る。
もちろん偽名なのは一目瞭然なのだが、それすらも信じかねないやつばかり揃ってるからな……
「バルハクルト、もう一発殴っといてくれ」
「仰せのままに」
「──ちょ、ちょっと待って! ふざけた僕が悪かったから殴るのは勘弁して!」
慌てて頭をガードするクズ女を見て、バルハクルトはどうしますか?
とこちらを見てくる。
「次はないからな」
「ふぅ……助かった。僕は神族のフランニュエール・ナナニエル・リヴィエールだ」
「よし殴れ」
ドスンと鈍い音をたててバルハクルトの拳骨が炸裂する。
何だよその神だから名前の最後にとりあえずエルなりエールなりをつけてみました。
みたいな名前は。
「柳生三厳! どうして殴るんだ!?」
「だって明らかにふざけてるし」
「これは僕の本当の名前だ! ふざけているとは自分でも思うけど、本当なんだから仕方がないじゃないか!」
そんなわけないだろう。
そう思っていると、サシャが俺のローブを引っ張った。
「お兄さん……本当みたい」
「マジで?」
「マジ? よく分からないけど多分そう」
うわ。
本当だったのかよ。
名付け親のセンスを疑うレベルだわ……
「そうか。クズ女、ふざけてるなんて言って済まなかった」
「分かればいいんだよ──って、どうして名乗ったのにクズ女のままなの!?」
「んじゃ、えっと、エルエルエール?」
「違う! エールエルエールだから! ──ってそんな変な略し方は嫌だからね!?」
まったく注文の多いクズ女だ。
「──ふざけてないで、少しは真面目にやってくれないか?」
からかうと面白いから少し楽しんでいたら、ゼノから冷めた眼差しで睨まれてしまった。
仕方ないから本題に戻るとしよう。
「フラン説明しろ」
「はぁ……もう殴られるのも嫌だし説明すると、さっきそこの魔族が言ってたように昔このせRPGは大きく10の種族で分割統治されていたんだ。それを揺るがす事件が起きたのが今から300年くらい前。当時の魔王が強力な結界によって今のような世界を作り上げた」
ここまではベルウィリアの報告や、サシャが事前に調べた情報と同じ。
やっぱり自称神と言えど大した情報は持っていないのか。
「しかし、その結界は柳生三厳が魔王を討伐したことによって決壊してしまった。今は鎮護地の結界によってまだ平穏を保っているものも、まあ、それが破られるのも時間の問題だろうね」
と思いきや何やら知らない情報が出てきた。
「その鎮護地っていうのは?」
「アマゾネスって言われている場所だよ。そこで強力な結界によってエルフ、精霊、死霊、海洋、地底、竜族の6種族を隔離しているんだ」
「そのアマゾネスというのは──」
「間違いなくあそこだろうな」
バルハクルトはアマゾネスのことを分かっていない様だが、俺にはそれがどこを指しているのか何となく見当がつく。
強力な結界。
魔力の無効化。
そして外部からの侵入に対して相応の強さを持つ場所。
ギリシャ神話で女人の国家を意味する土地と言えばあの忌々しいあそこしかないだろう。
「その通り。僕たち神族が人間の力を引き出して作り上げた魔族領との境界線。かつて柳生三厳が女装をして突破したあの街だよ」
「ということはまずはあそこを制圧して管理下に置く必要があるということか」
「そうだね。結界を張り直すのは少し難しいかもしれないけど、アマゾネスに自由に入れないことには侵攻されるしかなくなるからね。──説明はこんなものでいいかい?」
「いや、まだ質問がある」
「なんだい?」
「さっき出てきた6つの種族。それに人間、魔族、そしてお前ら神族を合わせて9。──もう1つの種族は?」
「獣人族だね。所在地は始まりの街の裏手。君があの黒龍を仲間にしたあの雪山を越えた先だよ」
つまりは後回しでいいというわけか。
ひとまずはアマゾネスの制圧。
そしてそれから──
「アマゾネスの制圧後はエルフ族のところに行くべき」
そう助言したのは膝の上のサシャ。
その言葉の真意が分かっているのか、フランは目を丸くしていた。
「びっくりだよ。確かに君たちが仕掛けていくのであればエルフ族は真っ先に仲間にしておきたい種族だ。難易度も低いからね」
「こちらにはエルフ族のリリィがいる。つまり交渉は比較的穏やかにできる」
なるほどな。
当のエルフ族であるリリィが首を捻っているのは少し謎だが、納得のできる理由だな。
「なら当面はアマゾネスの制圧。そしてエルフ族との同盟交渉を軸として行動をしていきたいと思う。異論のあるものはいるか?」
一応聞いておくべきだろうと異論がないかを聞いてみたが、異論など出るわけもなかった。
それじゃ、今日はお開きにするか──
そう思ったところでバルハクルトが手を挙げた。
「アマゾネスの侵攻にはどのような部隊で臨むのでしょうか?」
「そうだな……あそこは男子が入れないから女性陣を中心に編成を組むべきだろうな。メンバーは魔法を使えないことも考慮に入れて剣術に長けたヴァレリア、防御陣を張れないリスクはあるがミリスとエリス、後はゼノと正成、エイル辺りから選ぶことになるだろう」
「えっ!? 私は戦いたくないなぁ……」
名前を挙げられたエイルは不満そうに声をあげた。
無論、バルハクルトから殴られたことは言うまでもないだろう。
「マスター! 私も戦います!」
それとは逆に名前を呼ばれなかったリリィがやる気満々でそう宣言する。
「リリィとサシャはお留守番な。役目があったとしても移動くらいだと思っていてくれ」
しかし、近接戦闘においてリリィはあまり役にたたないから気持ちだけ受け取っておこう。
「後、名前を呼ばれなくてホッとした顔をしているが、フランの同行は確定だからな。後の詳しい事は明日にでも現場に入ってみてから決める。以上」
また女装をしないといけないのか。
そう思いはするが、潜入捜査に向く人員が足りないから仕方ないだろうなと自己完結する。
決して女装をしたいわけではない。
女装をしたいわけではないんだ!




