第三章「闇より黒く」1
「召喚士がこうも真面目に仕事をしていると不安になってくるな……」
補佐役にバルハクルトをつけ、政務に励んでいるとゼノがやって来た。
もちろん相変わらずの言葉を引っ提げてである。
バルハクルトはそれに対して思わず同意をしそうになったのか、苦笑いを浮かべているしホント俺の扱い酷くないか?
いや、身から出た錆だということくらいは分かっているがな。
「大事な嫁を不安にさせてはいけないし、俺は仕事をやめるとするか」
「おい! 都合のいいように解釈してんじゃねぇよ!」
「ダメ?」
「当たり前だろ! それと気持ち悪い」
可愛い子ぶって「ダメ?」と聞いてみたが効果はなかったようだ。
それどころか、むしろ気持ち悪いと言われてしまった。
逆効果も甚だしいな。
「それなら俺のやる気に水をさすようなこと言わないでくれ」
「それをいうなら水をかけるじゃないのか?」
「あれ? そうだっけ? まあ、どっちでもいいや」
意味が通じればいいんだよ。
そもそもこの世界では日本語なんてあってないようなものだからな。
「それで話を戻すけど、バルハクルト、これはどうにかならないのか?」
俺はバルハクルトに書類を提示する。
そこに書かれているのはお金の使われ方について。
「どうにかとは?」
「無駄遣いが多すぎる。もう少し工夫をすれば出費を減らせるはずだ」
「そんなはずはありません」
俺の指摘を受けたバルハクルトは慌てて資料を読み耽る。
そして返ってきた言葉に俺は呆然としてしまった。
「おかしいところなどありませんよ!?」
「いや、こことかは仕入れ先を変えればもう少し安くつくはずだし、ここなんかは必要のないものまで買わされているし……あー、ちょっと待ってくれ」
こういうのは俺の領分じゃないから専門家を呼ぶことにしよう。
まあ、あいつなら適当に呼びかければ出てきてくれるだろう。
「ござる!」
「拙者は正成でごじゃる!」
「噛んだ」
「噛んだな」
「噛みましたね」
「そこは気にしないで欲しいでござる」
堅物なイメージのあるバルハクルトまでが乗ってきたのは意外だったが、1年近く共にいて初めて初めて正成が噛んだことの方が意外以外の何物でもなかった。
普段からお前はアナウンサーかよと思わずツッコみたくなるくらいに滑舌がいいからな。
ホント貴重だわ……
「ところで話を元に戻すでござるが、此度は何用でござるか?」
俺が独り感慨に耽っているところで正成が神妙な顔をして話を元に戻した。
もう少しからかいたい気持ちはあるが、時間もないことだから我慢することにしよう。
「リリィとサシャを連れていっていいから、この資料よりも安く資材や兵糧を調達できるように契約を結んで来てほしい」
「御意。しかし、どうして拙者なのでござるか?」
「情報収集は?」
「忍の専売特許でござる!」
こうやっておだてておけば、勝手にやる気になってくれるのだから使いやすいことこの上ない。
その上リリィとサシャをしばらく城外に追いやれるのだから一石二鳥だ。
「それでは行ってくるでござる!」
「ああ、任せたぞ」
正成は忍らしく気配絶ちをして部屋を後にしていく。
蛇足ではあるが、俺とゼノにはその姿が見えているため滑稽な仕草にしか見えない。
まあ、それは本人の面子のために黙っておくとしよう。
「元々の担当者であるエルトハルムは連れていかずとも良かったのですか?」
「正成にトラウマを覚えているからな。連れていかせたところで大した成果はあげられないだろ……まあ、それもそろそろ克服してほしいというのも本音ではあるが」
「もうしばらくは無理だろうな。誰かがあんな指示をしたのが悪い」
「まったく……誰だよ」
「お前だよ……」
俺だったか。
うん。
こうも呆れたようにツッコまれると結構心に響くな。
もちろん悪い意味でだが。
まあ、都合の悪いことは忘れることにしよう。
「さて、仕事に戻るか」
「そうですね」
「そんな悠長なことを言ってていいのか?」
ゼノは時計を指差しながらそう告げる。
時刻は12時30分。
仕事に熱中していて気がつかなかったが、予定の時刻が迫っていた。
「こりゃ飯食う時間がないな……」
「それはもう諦めろ」
ゼノは付け加えるように「俺はもう食ったけどな」と嫌みをいう。
自己管理のできていない俺が明らかに悪いのだが、なんかムカつく。
「後の仕事はもう残り少ないですしこちらでやっておきます」
「悪いな。後のことは頼む」
バルハクルトに頭を下げ、俺とゼノは始まりの街へと向かう。
デスクワークをしていたせいか、肩が凝っていることに一抹の不安を感じるものの、計画には問題がない。
まあどうにかなるだろう。




