第二章「それは走馬灯のように」6
日が暮れて夜の帳が降りた頃、ようやく俺とサシャ2人がかりでの調べものに終わりが来た。
詳しい説明はあの自称神族のクズ女にさせればいいとしても、大体の現状は分かってきたな。
そう玉座に腰掛け一息ついていると、「ただいま戻りました」とリリィが戻ってきた。
その隣にはバルハクルトとヴァレリア。
2人の腕には冒険者の証であるエスシュリー(仮)。
銀色のブレスレットが装着されている。
何度か報告が入っていたから知ってはいたものの、こうやって現物を目の前にすると本当に予定通りに進んでいるのだと確信が持てる。
これで一安心だな。
「ご要望通りソールドレニンの皮とエトピーアンの牙を回収してきましたが、これを何に使うのですか?」
「ああ……それは……」
やべ……
そこまでは考えていなかったな……
そう俺が困ったところで救いの手が差しのべられた。
「ソールドレニンの皮もエトピーアンの牙も鑢や砥石として使うとすごく武器の切れ味があがる」
「へぇ……そうなんですね……」
刃物を使わないサシャがどうしてそんな知識を知っているのかは分からない。
しかし、リリィだけではなく、ヴァレリアまでもが感心しているから真偽はともかく助かったことに変わりはないな。
「ついでに肉も剥ぎ取っているならドラゴンにあげて欲しい」
「ライドラさん親子にですね。それでは少し行ってきます」
リリィはエスシュリー(仮)を操作して、皮と牙を俺へ転送すると、サシャの要望に応えるためライドラの元へと向かっていった。
渡された皮は毒でも持っているのではないかと思うほどに派手派手しい色をしているが、そんなやつの肉を食わせて大丈夫なのだろうか?
「私たちが食べたら死ぬ」
俺たちが。
そう言うということはライドラたちならば大丈夫なのだろうが、なんとも物騒な話だな……
「ところで魔王様。私とヴァレリアだけを冒険者にしたことにはどのような理由があるのですか?」
そう尋ねてきたのはバルハクルト。
確かに2度目とはいえ、今回は2人だけを指名したこともあって疑問に思うのは当然だろう。
俺はそう思いながら、怪訝そうな顔で答えを待っているバルハクルトに意味を明かす。
もちろんその理由は半分だけしか言わないけれどな。
「冒険者になるメリットについては前に話しただろ?」
「はい。このブレスレットを手にいれるためですね」
「そうそう。その為なんだけど、エルトハルムたちは別に今すぐ必要というわけではなかったし、俺の代わりに政務を行うやつが必要だったからベルちゃんかバルハクルトはどちらかしか行かせることができなかった」
本当のことを言えば、エスシュリー(仮)は便利なものだが、それを作り出したのがあいつら自称神族の連中だということが問題だった。
あのクズ女の仲間がいないとも限らない以上、エスシュリー(仮)をつけたがために抵抗ができないという事態が起きてしまっては仕方がない。
しかし明日までにレベルをあげなければいけないとなれば、上がる幅の大きいバルハクルトを選ばないといけないのは必定だろう。
ベルちゃんなら1人でも事足りたのだろうが、あいつが現時点で最強である以上リスクが高すぎるからな……
「なるほど。それでか……」
ヴァレリアはヴァレリアで普段は別行動を取っているから思い当たる節があったのだろう。
俺の言葉を疑うことなく受け入れていた。
まあ、仮面を被っているからどんな表情をしているのかも、何を考えているのかも分からないけどな。
「ヴァレリアが今考えていることは──」
「それはダメだ!」
そんな俺の思考を読んだサシャの口を塞ぐようにヴァレリアがこっちに突っ込んでくる。
本人はサシャを止めることに夢中で気付いていないのだろうが、すごく顔が近い。
いや、サシャが俺の膝の上に座っているから当然とは当然なのだが、真っ黒な仮面が目の前にあるなんてホラーだな。
それなのにヴァレリアから良い匂いがして怖さが微妙に薄れていくからもう何がなんだか分からない。
「──えっ!? ヴァレリアさん何をしているんですか!」
俺がヴァレリアから襲われているように見える体勢になったところで、タイミング悪くリリィが帰ってきた。
そして「2人だけズルいです」と小さく漏らすと、唇を歪ませて抱き付いてくる。
嬉しくないと言えば嘘になるが、さすがに3人もとなると物理的にも精神的にも辛いんだが……
「魔王様、お戯れもそれくらいにしてください」
苦い顔をしているバルハクルトに咎められた。
俺が悪いわけではないんだが、まあ、そんなことは言うだけ無駄だろう。
「ほら、お前らさっさと離れろ」
「ああ、すまなかった」
「ううっ、残念です……」
謝りながら離れていくヴァレリアと、名残惜しそうに離れていくリリィ。
そして最後の1人は我が物顔で俺の膝の上に座り続けていた。
「サシャ、お前もだ」
頭を軽く叩きサシャも退かす。
恨めしそうな表情をしているが、夜になるといつもこんな感じだから気にしないでおこう。
「──して、魔王様。大事なお話があります」
「分かった。お前ら3人は下がっていてくれ」
普段は温色なバルハクルトの真率な表情。
別にあいつらがいても問題はないのだろうが、気分的に部屋から追い出すことにした。
その方がいい口実にもなるから一石二鳥だな。
バルハクルトの話が1人で聞いて耐えられる話だったらの場合だが。
そして3人が部屋を出ていったところでバルハクルトが話始めた。
「近頃護法結界が崩壊した模様です。急場を要するわけではありませんが、この城が攻め込まれる可能性があります」
「ああ、元々は魔族が張った結界の話か。それならこっちも理解しているし、対応に関してもまとまりつつはある」
「そうなのですか!?」
「俺が何のためにベルちゃんたちに政務を任せてまで他のことをしていたと思ってたんだよ」
「ただサボタージュをしたかったのだと」
おい!
俺に対する信用なんてそんなものなのか!?
いや、そんなものだろうな。
自分で言ってて悲しくなるけど。
「──だから心配はないと言ったじゃないか」
「ゼノウィリア様!?」
ゼノが突如現れたことでバルハクルトが芸人さながらのリアクションをみせた。
こういうところは面白いやつなんだよな。
普段は真面目すぎてあれだけど。
「それで召喚士」
「どした?」
「今日は俺も下で寝るから女を連れ込むなよ。後、換気はしっかりしておけ」
あっ、はい。
ごめんなさい。
そう心の中で謝っていると、ゼノは玉座の裏にある階段を降りていく。
「私もあまり口出しはしませんが、くれぐれも羽目を外しすぎないようにお願いします」
そう言ってバルハクルトも正面の入り口から部屋を出ていく。
俺は1人になったところで、溜め息を吐いた。
魔王になったというのにままならねぇわ……




