第二章「それは走馬灯のように」4
「はぁ……久しぶりに使ったから失敗してしまったよ」
光が消える直前に自称神族の女が不吉な言葉を呟いた。
失敗ってなんだ!
失敗って!
まあ、その言葉の意味は周りを確認したら一瞬で分かったのだが……
呪文により時が止まったかのように、俺と彼女を除く全ての動きが止まっていた。
おそらくあの呪文の効果は光に包まれた者の時間であったり、動きであったりを止めてしまうものなのだろう。
そして失敗というのは戦いを見せるつもりだった観客までもが止まってしまったことだろう。
そんな状態で俺だけどうして動けるのかは──
「まあ、そのローブのおかげだよね」
「やっぱりか。──てか、気持ち悪いから人の心を読んだかの様な絶妙のタイミングで説明すんな」
「いや、あの女の子みたいに心が読めるわけじゃないよ。ただ、柳生 三厳の表情が読みやすかっただけのことさ」
このポーカーフェイスと呼ばれた俺の表情が読まれてしまうとは……
まあ、実際誰もそんなこと言ってないし、分かりやすく動揺してたから当然っちゃ当然なんだが。
「俺の顔がイケているか、イケていないかなんて語るまでもない話は置いておくとして、ちょうどいい機会だから聞くが、どうしてお前はそこまでして俺に戦わせたいんだ?」
「そんな話はしていないじゃないか……まあ、結構カッコいいと思うけどさ」
中々見る目あるなこいつ。
誉められるのはまんざらでもないぞ。
「それで僕が君を戦わせたい理由か……言わなきゃダメ?」
ダメに決まってるだろ……
そんなあざとすぎる年増の上目遣いなんかに心が揺らぐ俺ではないからな!
「言わないならこちらにも考えがあるからな」
まあ、そんなことを思いながらも、俺は至って冷静に主導権を取りにいく。
この状況でまともに戦って勝てる相手ではないと分かっている。
術士であるあいつを倒せば、この停止した空間が元に戻るとしても、現状では仲間を人質に取られているのと同義だからな。
「やっぱりそうなるよね。あの魔法は重ねて使うことができないから他の仲間を呼ばれてしまうと、僕はピンチだからな……」
うわ、この状況で自分から弱点になることを晒すか普通。
でもこれでベルちゃんやバルハクルトを召喚すれば形勢が逆転できるわけか。
「魔王に囚われた美少女のそれからなんて凌辱以外に考えられないし、か弱い乙女の純情がピンチだよ」
「いや、さすがにそんなことはしないから」
もう色々とツッコミどころが多すぎて対応しきれないな。
凌辱なんてしないし、少女でもないし、か弱くもないし。
「そこのエルフの子を既に毒牙にかけた君に言われてもね……信用なんてできないじゃん?」
じゃん?
じゃねぇよ!
可愛く言ったってダメなものはダメだからな?
「リリィは俺の妻だからな。毒牙にかけたなんて言い方はやめてもらいたい」
「まあ、それは置いといて、僕は君に勇者の代理をしてもらわないと困るんだよ。君がそこのエルフの子と偶然にも出会ってしまって、偶然にも急成長して、偶然にも魔王を討伐してしまったせいで僕は困っているんだ」
置いといてじゃねぇし、偶然偶然うるせぇよ!
せめてリリィとの出会いは運命と言ってほしいものだ。
まあ、実際のところはホントに偶然が重なりあった結果だから強く否定はできないのが悔しいけど。
「封印が解かれたことか」
「ああ……もうそこまで答えが出ているのか」
「しかしそれをどうにかするのが俺である必要はない」
俺の一言に彼女は困った顔をした。
そしてその顔が少しずつ怒りに変わっていく。
八つ当たりの気配がする。
「君がこんなにも早く魔王を倒さなければ、僕は勇者をこの世界に呼び出すことができたんだ! しかしそれも今となってはもう遅い! だったら君が責任を取るのが筋というものだろ!?」
「いや、自分ですればいいじゃん。これだけ強い魔法が使えるんだから」
俺が求めているものは平穏な日常。
もうこれ以上厄介ごとに巻き込まれたくないんだよな……
「これは……ダメだ。自分よりも強い相手には効果がない」
うわっ……
つまりこいつは確実に今の俺よりも強いやつらと戦わせようとしているわけか。
他力本願にもほどがあるな。
俺が言えた義理ではないが。
「それに君が戦わないと選択をすることはできない。何もせず死を待つのであれば話は別だけど」
やっぱり封印が解けたから攻め込まれますか。
そうですか。
結局は戦うはめになるんですね。
「はいはい、分かったよ。ただお前も協力くらいはしろよ?」
「それは断るよ。だって僕はあの魔法以外には取り柄がないからね」
胸を張って言うな。
ここまで来ると俺以上にクズじゃねぇか……
「まあ、でもお喋りが過ぎたようだね。──アーチスヴィルク!」
彼女はまた何か意味の分からない呪文を唱えた。
そして自信満々にその効果を説明し始める。
「今の魔法はスキル無効化呪文。これで君は召喚で仲間を呼ぶことができなくなった。これで形勢逆転だ!」
「仕方ないから自害するか……」
「ちょ、待って! それは卑怯だ!」
いや、卑怯なのはそっちも同じだろ……
本当に自害するつもりなんて更々ないが、とりあえず信憑性を増すために刀を抜いておくか。
そして俺はゆっくりと左手で刀を抜き、それをいつでも自分の心臓に刺せるように準備をする。
「分かった! 少しくらいなら譲歩はするから考え直してくれ!」
「ならお前が自分で解決してくれ」
「そ、それは無理がある」
「それなら俺たちが少しくらいは協力するからそっちでどうにかしろ」
「いや、だから僕には無理なんだって……」
「ならお前が俺たちに協力するか?」
「それも……無理だ。僕には支配呪文がかかっているから手出しができない」
何を言っても無理、無理、無理。
しかも神なのに誰かよく分からないやつに支配されているし……
もう意味が分からん。
「それならこれが最後の譲歩だ。俺は漆黒の竜騎士とか呼ばれていたが、肝心のドラゴンを用意するのに時間がかかる。だから1日待ってくれ」
「分かった。君が僕と戦ってくれる。そしてその後の事もどうにかしてくれると言うならその条件を飲もう」
「なら交渉成立だな。さっさと魔法を解いてくれ。──ああ、それと対決が明日になったって説明はそっちですること」
どれだけあがいたところで面倒な事をしないといけないことに変わりはないのだからこれくらいで折れてもいいだろう。
後であいつらに説明するのが一番面倒ではあるけどな。
「分かった。僕が無事にここから脱出してから魔法を解く。──それではまた明日」
そう言い残して自称神族のクズ女は姿を消した。
そして止まっていた時が動き出す。
「リリィ、帰るぞ」
「えっ、あれ!? はい。分かりました」




