第二章「それは走馬灯のように」3
実況の試合開始の合図と共に決戦が始まった。
相手は俺たちの影のようなもの。
その姿形は本当に俺たちそっくりだった。
俺、リリィ、そしてゼノを除いた魔族6人の影。
後方の俺もどきとリリィもどきを守るようにして残りの6人を配置している。
前哨戦はアークとヴァレリアもどきの攻防だった。
「まさかこのような形であの再現をすることになるとはな」
「…………」
つい10日ほど前の走馬灯を見ているかのような剣術勝負。
魔族同様に、始まりの街の住民たちも息を飲んでその戦いの行方を見ている。
違うところがあるとすればお互いの防御力。
両軍ともにバリードシークで守りが固められている分、隙をついた攻撃が有効打になり得ない。
「このままでは埒があかないな……」
「何か手段はあるのか?」
俺の呟きにゼノが反応する。
その顔はこんな面倒なことはさっさと終わらせたいのか、とてもやる気に満ち溢れていた。
仕方がない。
動きがないならこちらから仕掛けるとしよう。
「正成、捨てゴマになってくれ」
「…………はっ、御意!」
しばしの逡巡のあと、正成は意図を理解したようだ。
俺の考え通りに気配を消して敵軍へと向かう。
狙いは防御魔法を展開しているリリィもどき。
その首をかっさらうために正成は左舷から敵軍突破を狙う。
「ゼノ──」
そういった時には既にゼノの姿はなかった。
まったく、こいつは戦術理解度が気持ち悪いくらいに高いな……
「サシャ!」
「…………」
サシャは頷くと、正成の後を追うように左舷前方へ向かう。
無論気配は消している。
左舷にいる相手はバルハクルトもどきとベルウィリアもどき。
あの2人の影なのであれば、正成程度の気配は読み取れるだろう。
正成1人には荷が重い仕事ではあるが、サシャが後方支援に回っている。
あいつの気配なら敵からは気付かれずに回復ができるはずだ。
そして正成とバルハクルトもどき、ベルウィリアもどきが交錯。
正成の気配が現れた。
「いつの間に移動したのでしょうか……中央での戦闘以外に、敵軍深くでの戦闘が始まった! 数は1対2! これは目が離せません!」
正成と2人の影の戦いはどこからどう見ても相手の優勢である。
正成は攻撃に踏み込むことができず、本物さながらの連携をみせる魔族2トップを相手に防戦を強いられている。
しかし、それでよかった。
狙い通りリリィもどきの首が飛んだからな。
「おっと! 何が起こったんだあ!? 敵軍5人の影が一斉に消滅したあ!」
消えた影は俺、リリィ、エルトハルム、ウレーヌス、エイルもどき。
もちろん倒したのは正成が厄介な2人を引き付けている間に反対方向から攻め込んだゼノである。
「ミリス! エリス! 一気にかたをつけるぞ!」
「りょーかい!」
「やっと出番ね」
ミリエリ姉妹がヴァレリアもどきを無視して残り2人の元へ駆け抜ける。
これで戦況は5対2。
この数であればあの2人相手であってもどうにかなりそうだ。
「暇だな」
「そうですね」
俺とリリィは後ろで高みの見物をしているだけ。
均衡していたアークとヴァレリアもどきの対決も、防御魔法がなくなっただけでこちら優勢に傾き始めている。
この走馬灯を見ているかのような戦闘もじきに終わるだろう。
「おっとここで試合終了! 魔王を討伐したと言われる実力は本物だった! リーダーである漆黒の竜騎士は1歩も動くことなく戦いが終わったあ!」
観客は興奮の坩堝。
戦いを終えた6人がこちらへ戻ってくる。
これで終わりだな。
そう思った時だった。
「──この戦いはこれだけでは終わらない! 観客のみんな! 漆黒の竜騎士の戦いぶりを見たくないかー?」
その声に観客のボルテージはさらにあがる。
これはあれだ。
格ゲーでいう『ニューチャレンジャー』とかいって割り込まれるやつだ。
てか漆黒の竜騎士ってなんだよ。
いや、俺のことだろうけど、どうしてそんな二つ名がついているんだよ……
「というわけで柳生 三厳! 僕と手合わせをお願いしよう」
「断る」
「そうか。そうだろうな。──って何で断るのさ!?」
自称神族の女は華麗なノリツッコミを決めた。
そういうの嫌いじゃないよ。
「面倒」
「せっかく君の勇姿をみせるための舞台を作ったというのにそれはないんじゃないかな!?」
「知らん」
俺の勇姿なんて見せなくていい。
むしろ、あんな戦闘の後に俺が戦うとか恥を晒す様なものじゃないか。
「ほら、リリィ帰るぞ」
「えっ、はい!」
「──いや、ちょっと待って! 1分、1分だけでいいから。話だけでも聞いて!」
まったく、仕方がないな。
「1分だけ待ってやろう」
「ふう……会場のお客さんだって君の戦いぶりを見たがっているんだから少しくらいは戦うのが筋ってもんじゃないか」
「俺は戦闘は好まない。特に弱いものいじめをするようなやからにはなりたくない」
「僕は95,000レベルだ! 君より強いから弱いものいじめにはならない」
うわ、普通に俺より強いじゃん。
余計戦いたくないわ……
「弱いものいじめ反対!」
「えっ!? 次はそう言うの!?」
自称神族の痛い女は鳩が豆鉄砲を食ったように驚いていた。
「それなら仕方ない。──レクゼクション・ジ・ウィヒィスコート!」
それは強行手段というものだったのだろう。
女が呪文を唱えた瞬間、俺の視界は眩い光に包まれた。




