第二章「それは走馬灯のように」2
地下闘技場はものすごい熱気に包まれていた。
昨日来たときには客の姿など数えるほどしかいなかったのに、今日はその比ではない。
中央のステージを囲むように配置されている客席には、まだ決戦まで時間があるというのに満員の客が入っている。
観客も用意するとは言ったいたが、いったいどんな手を使ったらこんなに人が集まるのだろうか?
それと客商売に利用されているようで腹立たしくなったから後で売り上げの半分程度を搾取しに行くとしよう。
「お兄さん……それじゃ悪者みたい」
「悪者かどうかはさておき、俺は魔王だからな」
さておかずとも魔王は悪者である。
俺は紛れもない悪者。
はっはっは、俺には悪がよく似合う!
「お兄さんかっこいい」
えっ、そう?
でもなんか恥ずかしいな……
「もう! さっきから2人で何をしているんですか!? 私だけ仲間外れなんて酷いです」
リリィが頬を膨らませて抗議してくる。
いい歳した大人がこんなことで拗ねるなよ……
「リリィ、大人げない」
おい、それを言うか普通?
なんかこれじゃ俺が言ったみたいじゃないか。
「うっ……ですが、私もマスターに構って欲しいですし……」
途中から言葉が尻すぼまりになっていったが、言いたいことは分かる。
しかし、面倒なので聞かなかったことにしよう。
「それよりもさっさと控え室に入るぞ」
「…………」
「……そうですね」
サシャがコクコクと頷いてついてくる。
リリィは寂しそうな顔をしているが、そんなにまで構ってほしかったのだろうか?
構ってほしかったんだろうな……
仕方ない。
後で構ってやるとしよう。
しかし今はそれよりも決戦なんだよな。
戦いたくねぇな……
「──やあやあ、本当に来てくれるなんて思わなかったよ」
「帰るぞ」
「いやいや、ここは感動の再開って場面だろ?」
「帰る──」
「ごめんなさい、調子に乗りました。謝るので許してください」
自称神族の女は勢いよく頭を下げた。
なんとも清々しいが、こいつにはプライドはないのか。
本当にくえないやつだわ……
「それで、今回の対戦方法は?」
「それは男子の夢──水着コンテスト!」
「おい! ふざけんな!」
そうは言ってみたが、水着コンテストいいと思うよ。
ムダな戦闘をしなくていいし、可愛い女の子の水着姿は見れるし。
一石二鳥じゃないか!
神、グッジョブ!
「お兄さん、欲望が駄々漏れ……」
「ははっ、僕は正直な男の子は嫌いじゃないよ」
「それなら水着コンテストで決定だな」
「なんでやねーん!」
はい。
もちろんダメでした。
まったく、自分から提案しておいて、賛成したら賛成したで却下するなんてどうかしてるぞ。
「まあ、勝負の方法は殲滅戦だよ」
「敵をすべて殲滅した方の勝ちってわけか」
「ただし、魔法の使用は禁止だけどね」
こちらの想定通りのルールを自称神族の僕っ子が告げる。
自分で僕っ子なんて言っておきながらも、なんか違和感があるな。
多分……というか絶対こいつは年増だろ。
なんといっても神だからな。
200歳なんて言われても驚かない自信がある。
「なんか失礼なことを考えてる気がするんだけどな」
妙に鋭い女の勘を発動させるな。
後、リリィは常時威嚇するのをやめてくれ。
「まあ、いいや。お仲間さんのご機嫌も斜めみたいだし、僕はそろそろお暇するよ。──それじゃまたねー」
あの野郎……
こっちの空気を悪くするだけ悪くしていきやがって。
見返りに水着コンテストの1つや2つ開催しろよ!
「お兄さん、水着がいいの?」
「そうなんですか!? その、マスターがそういうなら私は着替えますが」
「いや、水着は忘れてくれ」
リリィがものすごく残念そうな顔をしている。
まあ、確かにリリィはすごく胸が大きいから露出の高い服を着ると映えるもんな。
「それにお兄さんの視線が集まる」
だから余計なことは言わんでいい。
まったく、心が読まれているとここまで調子が狂うものなのか……
別にサシャが悪いわけではないんだが。
「そんなことより、殲滅戦ということはあいつらを早々に集める必要があるな」
「はい。連れてきましょうか?」
「いや、俺が召喚するから構わない」
活躍の機会を奪われたせいか、リリィはしょんぼりしているが、召喚の効果を切っている今はどちらにしろ呼び出さないといけないからな。
仕方ないよな。
そして俺は共に戦う仲間を呼び出す。
冒険者5人に魔族からエルトハルムとヴァレリア。
それに俺を合わせて8人の布陣。
いや、殲滅戦なら回復専のサシャなり、防御専でリリィなりを使ってもいいのか……
「なあ、エルトハルム」
「なんだ?」
「戦う気ある?」
「ない」
即答だった。
悲しいけど即答だった。
「ならヴァレリア」
「なんだい?」
「戦い出なくても大丈夫?」
「んー、魔王様がそう指示を出すと言うならばそれに応えよう」
うん。
やっぱりヴァレリアは一番物わかりのいいやつだな。
こんなやつが急進派だったなんて今でも信じられないくらいだ。
「それなら冒険者8人で殲滅戦に打って出る! いつも通りアークとミリエリ姉妹が前衛。ゼノは3人の援護。正成と俺が遊撃に回って、リリィとサシャは後方支援だ」
「はい!」
指示に一番元気に返事をしたのはリリィだった。
頼られたからかその顔はとても嬉しそうである。
とはいっても、リリィの役目は防御呪文のみなのだが。
まあ、本人がそれでも満足そうだからよしとしよう。
「──それなら俺はもう帰ってもいいか?」
「ああ。ヴァレリアはどうする?」
「高みの見物でもしておくよ」
ならヴァレリアは待機ということで──
俺は「解除」と呟き、エルトハルムの召喚を解除する。
さて、それでは久しぶりの実戦を始めるとしますか。




