第二章「それは走馬灯のように」1
また日付が変わり、決戦当日の朝。
寝室から上がっていった時には、玉座の間に手配しておいたメンバーが既に揃っていた。
それどころか呼んでいないはずのやつまでいる。
「魔王様、納得いきません! この美しい俺を連れていかないとはどういう了見でしょうか!?」
まずはめんどくさい奴その1。
第3貴族のウレーヌス。
目立ちたがり屋で、ナルシストなこいつは今回の選考から外している。
めんどくさいから嫌いだというのもある。
後、できればこんな奴が仲間だと思われたくないという恥じらいみたいなものもある。
しかし、一番の問題はそこではなかった。
「ウレーヌスは近接戦闘ができないからだ。今回俺たちが戦う闘技場には旧魔王城ほどの結界が張られていない。──だからバカみたいに上位魔法をぶっぱなすお前は論外だ」
ウレーヌスは「バカ? この俺がバカ?」と自問自答を始めてしまったが放っとくことにしよう。
バカは死んでも治らないとか言うくらいだからな。
「──どうして俺までこんなことに参加しないといけないんだ!」
めんどくさい奴その2。
第2貴族のエルトハルム。
こいつは近接戦闘を得意とするから選考したが、その事に文句を言ってくる問題児だ。
恐らくメンバーに選んでなかったら、「どうして俺が選ばれてないんだ!」とか言って文句を言ってきたに違いない。
「ん? どうした? 怖くて戦いたくないっていうなら他の奴を連れていくから構わないぞ」
「誰が怖いって言った!」
「なら参加でいいよな? 尻尾を巻いて逃げないんだもんな?」
「当たり前だ!」
ただこいつはものすごく単純なやつだ。
狡猾な戦い方を得意とするなんてゼノが言っていた気がするが、狡猾どころか脳筋である。
「──エルトハルム、魔王様になんて口の聞き方をしているんだ!」
「いってぇ!」
そしていつもバルハクルトに頭を叩かれている学習能力のない奴でもあった。
ちなみにバルハクルトはベルちゃんとともにお留守番だ。
「──急に戦うってどういうことよ!」
「そうだよ! なんで三厳はいつもそう唐突に行動するのかな」
最後にめんどくさい奴その3と4。
パラディンのミリエリ姉妹。
まあ、これは俺が説明していなかったのが悪かったのだが……
「唐突に行動しないといけなくなったからな」
「そうでござる。今回一番やる気がないのは召喚士殿でござる」
「ござるは黙ってなさいよ!」
俺をフォローしようとしたのかなんなのか分からない正成は、いつものように不当な扱いを受けて迫害されていた。
人権とは何かと考えたくなるところだが、正成はいつものことで慣れてしまったのか、「拙者は正成でござる」と定番の台詞を言うだけだった。
「まあ、時間がないからさっさと移動するぞ。詳しい説明は、俺よりも詳しい奴が夜にでもしてくれるだろう」
「マスターよりも詳しい人ですか?」
「黒幕を捕まえるのも今回の目的」
「そういうことだ。──さすがに大人数で移動するのもなんだから、これから俺たち3人で乗り込む。各自出番が来たら呼び出すからそれまでのんびりしててくれ」
リリィに目配せして始まりの街へと移動する。
その光に包まれている最中、ミリスが何か言っていたような気がするが、まあ、聞こえなかったから聞かなかったことにしよう。
「──リリィ、ありがとな」
「えっ!? 私もここでお役御免ですか!?」
「うん、だってリリィは戦闘の頭数に入ってないし」
「そんな……」
リリィは突然の戦力外通告に目を潤ませている。
泣きそうになるようなことか?
と思うが、それがリリィの忠誠の証なのだろうと考えればいとおしくなってくるから不思議である。
「まあ、帰れとは言ってないからな。一緒についてくるか?」
「……はい」
「それなら今日は俺の護衛を任せるぞ。頼りにしてるからな」
役割を与えるとリリィは嬉しそうに笑った。
その仕草や表情はとても可愛らしいのだが、よくよく考えるとリリィって俺より歳上なんだよな。
もう少しリリィがお姉さんらしかったら甘えれたのかもしれない。
そんなことを考えていたら、「お兄さんリリィに甘すぎる」とサシャから怒られてしまった。
甘いのがダメみたいだからこれからはもう少し厳しく接しよう。
もちろんリリィだけでなく、サシャにもな。
「それはダメ……」
「なら今まで通りでいいか?」
「優しいお兄さんが好き」
そうサシャが右腕に抱きついてくる。
それを見たリリィもうらやましかったのか、1度考えたものの、「サシャさんだけズルいです」と左腕に抱きついてきた。
「それでは闘技場へ行きましょうか」
「賛成」
そう2人は意気投合して俺の腕を引っ張る。
俺の意思は無視なのか?
そうツッコみたくなるところだが、これでもこいつらを側室として迎え入れたわけだからこれくらいのサービスは必要なのだろう。
それに左腕に感じる柔らかい感触が最高だからな。
「むぅ……」
リリィの胸に気を取られていたせいでサシャの機嫌を損ねたようだ。
必死に貧乳を押し付けてきているのは可愛いが、とても歩きにくい。
そんなことよりも朝っぱらから、公衆の面前でハーレムを見せつけているのだから男性からの視線が痛い。
耳を済ますと「リア充爆発しろ!」なんて言葉が聞こえてきそうだ。
「──まったく、決戦前だというのに女を2人も侍らせて登場するとは恐れ入ったよ。しかも1人はついこの間まで君の言うロリ姿だったエルフの子だし、もう1人は紛れもないロリの魔女っ子だなんて……」
突然後ろから聞こえた声にリリィとサシャが振り返る。
そして掴んでいた手を離した。
「マスター、下がっていてください!」
「いや、構わんよ」
少し遅れて俺も振り返ると、臨戦態勢に入ったリリィを止める。
俺たちの目の前にいるのは先日の神族の女。
人に言われもないロリコンの疑いをかける性根の腐った奴だった。
「性根が腐ってるだなんて酷いなぁ。僕はあくまでも事実を言ったに過ぎないというのに」
「生憎だが俺の好みは大人の女性だからな」
「…………そうは言いつつもお兄さんは私たちのことが大好きだから」
おい。
折角かっこよく決まったと思ったのに余計なことを言うんじゃない。
これじゃ本当に俺がロリコンみたいじゃないか!
「なら、お兄さんは私のこと嫌い?」
「いや、嫌いではないけど」
「なら、好き?」
うっ……
そんな表情は卑怯だぞ。
これは好きじゃないなんて言ったらサシャが泣き始めるやつじゃないか。
その涙が嘘泣きであることは分かっているが、端から見た俺のイメージが女を泣かせる最低な男になりかねない。
紳士な俺としては、罠だと分かっていてもそう答えざるを得ないじゃないか!
「ああ、好きだよ。でもそういうのはもう少しサシャが大きくなってからな」
「ふぅー、かっこいいー」
「そんなに誉めるなよ。それといい加減名前を名乗れ」
茶化してくる女に悪い気はしないものの、そろそろ本題に戻したいと思う。
できることなら、こうやってくだらない会話を続けていられるような平穏な日常を所望したいんだけどな。
「人に名を尋ねる時は──」
「ああ、はいはい。知ってんだろ。俺は柳生三厳だ」
「最後まで言わせてくれてもいいじゃないか……」
女は少し悲しそうに抗議の声をあげる。
付き合ってやってもよかったのだが、こんな会話は既に誰かとやった気がするんだ。
まあ、そんな感じでさっさと名乗れと目で訴えてみる。
「分かったよ……名前は君が戦いに勝ったら教えてあげるよ。──だからそれまでに僕をドキッとさせる甘い言葉でも考えていてくれよ」
どうして俺がナンパをしているみたいな感じの話にしてやがる。
てか、どっか消えたし……
ホントあいつはなんなんだよ。
「いなくなっちゃいましたね……」
「ああ、そうだな」
「あの、マスターは、その、ああいう女性が好みなのですか?」
急に何を言うかと思えば、ホント何を言ってるんだ?
俺があの女を好き?
いや、ないだろう。
確かに巨乳だし、顔も悪くないし、一晩だけの関係をなんて言われたら断る理由もないが……
「お兄さん、いやらしい」
ってお前は心を読むな!
恥ずかしいからやめてくれ。
「ならお兄さんはどういう人がタイプ?」
俺のタイプか……
そりゃもちろんリ──
「──って、何誘導尋問してるんだよ!」
「残念。いろんな意味で残念」
そうして決戦前から疲労が溜まっていくのも感じながら、俺たちは闘技場へと辿り着いた。




