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ログアウト  作者: 羽入流
パクスの炎編
19/20

ともだち

「……見てないで回復してくれない?」


 気まずい再会から数秒、ハルトの出方を窺っていると、なんとハルトの方から頼ってくるではないか。

 ギエナとしても、知らない仲じゃないしこのまま、ということを考えていたわけではないが。


「アイテムは?」


「イリスの情報で夜車道と戦ってたの。最終局面で、全部スミレに渡してたのよ……」


 アイテムがないとはいえ、表情をよく見るとギエナに頼るのは苦痛で仕方がないといった風だった。


 ヒールをかけるとハルトは立ち上がり、服についた埃を払った。


「あとちょっとだったのにな……」


 パクスの炎は正義を振りかざすリングだ。

 最強のボスと噂高い夜車道を追い詰めていても、首都プレアデスの危機を放置はできなかったのだろう。アレイスの性格を思えば、満身創痍の夜車道を前にしても即座に身を翻す姿が目に浮かぶようだ。


小さくぼやいたのを、ギエナはあえてスルーした。


「テロ魔……許さないわ」


「そ、それにしては、ほ、他のメンバーはどうしたんだ!?」


「ん?何焦ってんのよあんた。って、私だけ!?」


 ハルトは周囲を見渡して初めて気付いたようだった。


「って、あんたがゲート破壊したからじゃないのよ!?リーダー!?」


「いや、チャットモード換えてから叫んだら……?」


「うっさいわね、誤爆よ誤爆!」


 どうやら、パクスの炎がプレアデスに帰還しようとするのと、ギエナがゲートを破壊したのはほぼ同時らしかった。つまり、エルストレイ最大級の戦力の参戦を、ギエナが邪魔してしまったということだ。


「どうしてこうなった……」


 嘆きたい気持ちをぐっとこらえ、リングチャットかパーティーチャットを使ってアレイス達と話し出したハルトに背を向けて考えた。


 事態は悪くなる一方だ。しかし、足を止めるわけにはいかない。



 とはいえ、どうするか。



 アウストラを片付け、再び穴へ向かうか?

 向かったところでどうする?

 穴周辺はここよりももっとひどいことになっていたんだぞ?


「おい、ギエナ」


 考えこんでいるとハルトに声をかけられた。


「ワープアイテムはいくつ持ってる?」


 新手のカツアゲかと思ったが素直に協力しておく。

 ゲートを破壊した手前、最優先で手を貸すべき相手ではあるのだ。とりえあず手持ちのワープアイテムを全てハルトに渡す。


「また使い難いものを……」


「文句あるなら返せよ」


 渡したのはリンクウィング。友達登録した奴のところへワープできるアイテム4つだ。


「これでこっちに来れるのはあと二人だけか」


「あいつら誰もワープアイテム持ってないのかよ?」


「だから困ってる!……でも、私とあと二人でこの問題を……」


 何やらリンクウィングを手にぶつぶつ言いだしたかと思うと、ハルトははっとしてギエナを見た。


「なんだよ」


「いや、でも……ギエナか……」


 意味深な呟きにギエナも思うところはあったが、今は時間が惜しい。


「こうしてる間にもモンスターは沸き続けてる。悩んでる暇はない、ハルト。というかそれでメンバーのとこ行って、誰かがどっか襲撃されてない街で人数分のワープアイテムを仕入れてくればいいだけの話だろ!」


「その手があった!いや、でも夜車道のところにいく途中、他の街に寄ったから、皆は商人売りしてる光のローブじゃここに来れない……」


「リンクウイングでいいだろ!?光のローブにコケトリスの羽を合成しとけよ!ほら、俺、もう行っていいか!?」


「待って!!」


 ハルトに再び背を向けて行こうとすると、ハルトに服の端を掴まれた。


「……友録、しなさいよ…………」


 片手でギエナの服の端を掴みながら、まともに目も合わせずに言ってくる。


「……へ?」


 しばし、沈黙が落ちた。


「何でだよ。今そんな流れどこにもなかっただろ!?」


「う、うるさい!今首都に知り合いがいないのよ!!」


「あ、お前、もしかしてぼっ――」


「黙れ」


「――白騎士とかの友人は」


「確認してる時間も惜しいでしょう!?だいたい友録になんでそんな渋るのよ!?私だってあんたなんかと……っ!!もしかして、私と友録……いや、なの?」


 いや、急にしおらしくなるなよ!?なんでそこ不安そうなんだよ!?というかあんたなんかとって、自分でも言いかけてましたよね!?


「馬鹿を言え!いいか、超一流のソロプレイヤーとはそうほいほい友録しないもんなんだよ!……だからお前が嫌とかじゃなくてだな。あれだ、ポリシー?」


「ゲート」


「……」


「誰がゲート壊したんだっけ?」


「だぁぁぁ!すればいいんだろすれば!ほら、許可しやがれ!」


 そんなことを言われては断れるはずもない。ギエナはしかたなく友録リストを二人から三人へと増設した。


「それどギエナ」


「まだ何かあるのか?」


「あんた、何か知ってるの?」


 そこは、パクスの炎の一番隊長といったところなのだろうか。

 ハルトの目は、わずかなヒントも見逃していなかった。


「……まぁいいわ。どっちにしろ、一人じゃどうしようもないでしょう。私もあんたも。私が戻ってくるまで、待ってなさい」


 ギエナは返事をしなかった。


 それを肯定と受け取ったのか、あるいは最初から有無を言わせないつもりなのか、言い終わるや否やリンクウィングをかざしてしまう。


「ハルトさん!」


 と、そこで横槍が入った。


「……誰かしら」


 別にハルトの知り合いというわけでもないらしい。


「お、おれはナナフジという者です!あの、そんなことより、と、とにかく大変なんです!」


 いろいろなことがあって忘れていたが、ハルトが有名人だということを思い出す。大方、話しかけてきたのは自分たちで対処できないことは有名どころに任せようという魂胆だろう。


「ちょうどいいわ。ギエナ、代わりに聞いておいてあげて」


「おい」


「いいわよね、サブマスターさん?」


「……」


「だいじょうぶ、すぐ戻ってくるわ。だからお願いね、ナナフジさん」


 言い返す間もなく、ハルトは悪戯っ子のように笑ってリンクウィングを発動させてしまった。


「えーと。……聞こうか?」



非常に気まずいのはギエナだけではないはずだ。



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