大出世?
「ギエナいい加減にしろ」
「はい、すみません……」
ハルトを回収し最上階へと戻ったギエナは、即座にイリスに捉えられ、説教を受ける羽目となった。
「マスターも配慮が足りてなかったのは確かだな」
「むぅ……」
「あらあら、塔の修繕費も自腹で出してもらいませんと」
向こうも向こうで似たような状況らしい。ざまぁみろ。
「もう……言いたいことは山ほどあるけど、とりあえずとっとと用を済ませて帰るわよ」
ようやくイリスの説教が一段落つき、ギエナはアレイスたちに視線を移す。
ギエナはよくわからない逆恨みで賞金をかけられ晒し者にされていたのだと思い怒っていたのであって、きちんとした謝罪をもらった上で賞金を取り下げてもらえるならば怒りを鎮めるのもやぶさかではない。
何なら、塔を壊した分くらいは、あちらの元の用件も聞いてやらないでもない気分だ(弁償するつもりはないらしい)。そこに、イリスの立場が良くなって後の説教が軽くなるやもという打算がないわけでもない。
イリスの説教が一旦終わっても、あちらの説教か話し合いかはまだ少し続いているようだった。
「それでは、いいのだな、ハルトよ」
「負けた私が今更文句は言わないわ」
「俺たちも、ハルトが負けたんじゃあ、何も言いようはない」
「うふふ」
「他に異論のある者はいないか!」
急にアレイスが声を張り上げた。辺りを-見回すが、他に誰も声を上げる者はいなかった。どうやらあちらさんも話がまとまったようだった。
機を見計らっていたギエナは、そこでアレイスの方に歩み出た。
「バンビ耳の戦士よ」
進み出たはいいがなんと切り出そうか躊躇しているうちにアレイスの方から切り出されてしまった。
「その呼び方どうにかならないのかよ」
「配慮に欠ける呼び出し方、本当にすまなかった」
呼び出し方を謝罪はしてもどうやら呼び方を訂正する気はないようだ。
「いや、俺のほうこそ家壊しちゃって悪かったよ。あとハルトも」
「ふん、知らないっ!」
いや、拗ね方可愛いな!?とはややこしくなりそうなので言わないでおいた。
「それともう一つ。マスターの座を譲るわけにはいかない。こちらは助けてもらったのに、望み通りにしてやれなくて、申し訳なく思う」
「いや、それは売り言葉に買い言葉と言うか……とにかく気にしなくていいからな」
「そこで、と言っては何なのだが、バンビ耳の戦士よ。マスターの座は譲れないが、サブマスターの座についてはもらえないだろうか?」
「……へ?」
まぬけた声がユニゾンした。ギエナとイリスだ。
アレイスが何を言っているのか、ギエナには理解できなかった。アレイスはその無言を肯定と取ったのか、朗らかな笑みを浮かべてギエナを見据える。
「バンビ耳の戦士よ、そなたをパクスの炎に迎え入れよう。マスターの座を望まれたのは予想外であったが、もとよりそれなりの地位でそなたを迎え入れるつもりだったのだ。そなたの申し出は、こちらとしても無碍にするつもりはない」
……いやいやいや。
「ん?うん。いやいやいや、パクスの炎って三大リングなんだよな!?三大リングって、あの三大リングだよな!?パクスの炎と、虹色の八紘と、えーと、あとなんだっけ!?……まぁなんでもいいや。仮にもその三大リングがさ、こんなどこぞの馬の骨とも知れないような奴をリングにほいほい入れてしまっていいわけか!?おい、よく考えろよ!?お前、俺の実力わかってんのか!?」
「ハルトを倒したじゃないか」
ギエナの訴えはストライダに一蹴された。
「そうだ、ハルト!お前俺がマスターよこせって言ったら怒ってたよな!?ほら、今こそ怒れよ、サブマスターだぞ!?」
「私はお前に負けた。今更文句はない」
「何いってんだよバカ!ほら、かかってこいよ!もっかいやったら俺が圧敗するに決まってんだろうが!?」
「お前はっ!わ、私にあんなことをしておいて今更断るつもりなのか!?」
「何をしたギエナぁ!?」
ハルトの狼狽にイリスが反応した。
「おいィ!?」
訂正を求めてハルトに叫ぶが、顔を赤くして目を涙目にするハルトは、どう見てもギエナに何かされたようにしか見えなかった。
いや、ボコボコにして塔から蹴り出したんだけれども。
「じゃなくて、アレイス!」
と思ったのもつかの間、イリスは照準をギエナからアレイスに切り替えてくれた。助かった……どころではない。
この流れは、完全にまずいやつだ。
「ギエナはこの、緋鉱のイリスの忠実なるしも――忠臣なの!だから――」
今なんて言いかけた!?とつっこむ間もなく、
「それはちょうど良かった。ちょうどハチ公とのパイプが欲しかったところだ」
ストライダが強引に割り込んで豪快な笑みを見せおおせた。
「うむ。バンビ耳の戦士ギエナよ。そなたをパクスの炎に迎え入れよう」
「え?えぇ!?」
この日、ギエナはなし崩し的に、晴れてパクスの炎の一員となったのだった。




