のどかな町でのある事件(3)
「…………此処は」
とある場所。やたらと静けさを感じる家でリセは目を覚ました。
(確か僕はあの時……)
まだかすかにふらつく頭で、今までの事を思い出すリセ。確かお守りの首飾りを付けようとして……。
「そうだ! …………!?」
全てを理解し、動こうとした瞬間に、左手首に感じる冷たい感触に気付く。その手首とベッドの柱を繋ぐ手錠である。これでは逃げ出す事も出来ない。
「気付いたか?」
ドアの開く音ともに姿を現したのは一人の男。歳は見た目からしてロディアより少し年下の二十代前半くらいだろう。不敵な笑みを浮かべ、まるで何かに勝ち誇ったような表情だ。
「お前か。僕を襲ったのは」
「いいや? 襲ったのは俺の双子の兄の方だ」
「本人でなくてもこうしていると言う事は、お前が僕を襲ったのと一緒だろう? ……目的はなんだ?」
その言葉に対して特に何も言わずに、男はリセの目と鼻の先まで顔を近づけ、それからようやく手短に用件を言う。
「安心しろ。命を奪おうとまでは思わない。二つ頼みがある。
一つ、ある人間の呪いを取り除いて貰いたい。
二つ、今からお前の行動は俺達が監視する。ウィルドが死ぬまで、この家に居続けて貰う」
まるでそれは、救う事への決意を固く持ったリセの反応を楽しむかのようにも見える発言であった。助けたい相手がいると言う箇所は良いとしても、その次の言葉に問題があった。
「ふざけるな! ウィルドを見殺しにしろと言うのか?」
「ああ、そうさ? あの兄弟が苦しむ機会なんて滅多にないし」
悪びれる事もなく言ってのける男に、沸々とわき出る苛立ちを、リセは抑えきる事も出来ず、手錠で繋がれていない片手で男の頬を叩いた。しかしすぐに仕返しされ、リセは頬を思い切り殴られてしまう。
「……っ」
「威勢が良いな。だが女でも俺は容赦しねえから」
「わざとらしい。僕は男だ!」
「ああ、そういえばそうだったな。そういえばついでに伝えておこう。風呂とトイレ以外、お前は手錠で繋がれてままだ。全てを束縛してしまったら、お前を殺してしまうからな。逃げ出そうとか考えたらその頬程度じゃ済まさないから。俺より兄の方が力強いし。じゃ、俺は用があるから。兄から取り除いて貰いたい奴の情報、聞くと良い」
「待て、お前の名前……は……いなくなりやがったか」
男が去って行くのをただ呆然と見送ったリセ。逃げる事を考えるなと言われても、リセはウィルドを救わなければならない使命がある。
逃げ出す方法を考えなければ。兄の方が来るまでの時間、それがリセに出来る唯一の事であった。