のどかな町でのある事件(1)
翌朝、リセは誰よりも目が覚めた。緊張もあって眠れなかったのだろう。ゆっくりと身を起こし支度を整え、少し頭をスッキリさせようと、まだ静寂と若干の薄暗さが続く外へと出た。
「いよいよ、か……」
徐々に辺りが明るくなり、空の色の色づきを確認すると、大きく深呼吸をした。大丈夫、まだ経験は少ないけれど、いつもどおりにやれば助ける事が出来る。そう何度も自分に言い聞かせ、最後に一発覚悟を決める為に両頬を叩いた。
「母さん、僕は絶対に助けて見せるから……」
握りしめていたのは母からもらったお守り。エメラルドに輝く石の着いた首飾りである。それにポツリと語りかけ、首に下げようとしたその瞬間であった。
「……っ!?」
リセの頸椎に衝撃が走り、持っていたお守りがトサリと地に落ちた。誰がこんな事を……そう確かめたかったリセであったが、それも叶わず意識を手放した。
セレンが目を覚ましたのは、リセの身に危険が及んでから数時間後の朝八時頃。着替え等を済ませ、真っ先にリセの部屋を訪ねた。
「まだ寝ているのかな……?」
ノックをしても返事がない。セレンは起こさないようにそっとドアを開け、部屋の中を確認する。そこにリセの姿はなかった。きちんとベッドの掛け布団も折りたたまれており、既に起きている事だけはセレンは理解する事が出来た。
「もう朝食を食べにラウンジに? リセ君早いなあ」
暢気な事を考えながら、セレンは朝食を食べる為にラウンジへ。しかしそこにもリセの姿はなかった。部屋にも言ない。ラウンジにもいない。それならば一体リセは何処へ?
部屋の備え付けのお風呂とトイレからは物音はしなかったし、リセがこの宿を探検するとかと言う子供じみた事をする訳もない。
「お待たせ、パンとスープ。それから……」
「ねえ、女将さん! リセ君ご飯食べに来なかった?」
「あれ? 後から来るんじゃなかったの? セレンさんだっけ? 貴女一人で来たから、てっきりあの子はまだ食事はしない物だと……」
セレンの嫌な予感は更に増す。リセはラウンジにも来ていなければ、朝食も撮っていない。まさかもうこんな時間にウィルドの所へ行ったのか?
もう彼女にはそれだけしか考えられなくなっていたからか、セレンは食事に手をつけずに外へと飛び出した。しかしリセらしき人影はない。何度も辺りを見回すも、やはり見つからない。
ちゃんと朝食を済ませてからリセを探そう。もしかしたらその間に出掛けているならば、帰って来るかも知れない。そう考えたセレンだったが、そんな淡い期待もすぐに打ち砕かれた。