のどかな町 ラピアス(4)
「病弱じゃないって事は、寿命は長いだろう。しかしこのまま縮めさせる訳にも行かない。けれど……準備はすぐに出来たとしても、だ……」
すぐには呪いを解く事が出来ないのには理由があった。準備が必要だ、というのももちろんある。また、来てすぐに“今からやるからすぐに覚悟を決めろ”と言う無理強いを、呪いが発動した本人に強いる事は難しい。
「オレの事を気遣っているなら無用だよ。準備が出来たらすぐにでもやってもらって構わない」
「ウィルド、聞いていたのか」
クッキーを焼き終えたのだろう。リセの話を聞いていたウィルド本人が現れた。意外にも彼の精神面は強いようだ。しかしそれをリセが許さなかった。
「リセ君はね、寿命が迫っていないだろうと言う相手には、気持ちを整理する時間を一日与えているの。三ヶ月を無駄にさせてしまうのは申し訳ないと思っているけれど、気持ちの整理や覚悟が決まらないままでやるよりはマシなんだって」
「だからセレンは黙って……」
なかなか何も言わないリセを見兼ね、セレンが言葉を発するとウィルドは優しく笑って言って見せた。“それがオレを救ってくれる人の命令ならば、それに従うしかないな”と。
「それにこんな可愛い女の子の言う事無視する方が罰あたりだよ」
「あ、それで……ん? おん、な……? ふざけんな! 僕は男だ!」
ウィルドの悪気のない言葉に、お礼を言いかけたリセはそれも忘れて怒鳴り散らす。周りの客もリセのその大声だけではなく、リセが男と言う事実に驚いていた。
今日二度目の女扱いに、リセはセレンにキチンとなだめられるまで怒り続けていたと言う。
「あー……散々だった」
「はは、声変わりしている割にはリセ君の声、少しだけ高めだもんね。仕方ないよ。それにロディアさんがお詫びに夕ご飯ごちそうしてくれたし、もう怒るのやめなよ」
「……セレン、何で君が此処にいる」
「何で、って。私の部屋この隣だから。いやあ……リセ君の助手だ、って言ったら、すぐに良い部屋取ってくれるんだから凄いよねえ」
“そういう事を言っているんじゃない”とリセは言うが、セレンは聞く耳持たずのようだ。時間は夜。リセ達はある宿の一室にいた。レンティルがリセの為に、と用意したこの宿で一番の良い部屋である。
「アーヴァイスに何故帰らない?」
「来たばかりでもう帰れ、って酷くない? 私はリセ君の助手。リセ君の役に立ちたいの」
「そうかそうか。じゃあ、それなら尚更帰るべきだ」
「ふふっ! その頼みだけは、む・り・で・す!」
暫くの間口論は続き、その口論の論点は少しずつずれて行く。どこでどうなったのか、
「大体、セレンはお嬢様なんだから助手だと言わなくたって、この部屋くらい自前でとれただろう?」
「それではただの個人旅行になってしまいます!」
と、別の話題に変わっていた。しかしそれに当の二人は気付かないでいた。
「はあ……疲れた。明日の昼二時には呪いを取り除くと言うのに、何をやっているんだか……準備しないと」
「あ、手伝うよ。疲れたなら尚更、早く終わらせたいでしょ?」
「そうだな……手伝ってくれ」
「はいっ」
結局はセレンを助手と認めてしまっている節があるリセであった。だがセレンの手伝いもあってか、準備も早く終わり、すぐに眠りに就く事が出来たのも事実である。