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オフ会シリーズ

交差する前のオフ会―とあるマフィアのボスの場合―

作者: 双月キシト

 


 「イアン、俺は宇宙飛行士になるぜ!!」



 俺の友達ダチ

ジルが何か言い出した。ジルはアニメやドラマを見てその登場人物の憧れて、そのキャラに成りたがる。子供なら誰にでも通る“痛い暗黒歴史”なのだ。



 「おい、イアン。声に出ているぞ!!」



 「ん、そうか? まあ、いいが…」



 「よくねぇーよ!! 聞けって、ダチの夢を!!」



 五月蝿いな、俺のダチは。俺は読んでいた本をしまい、ジルの“痛い夢”を聞いた。



 「だから、痛いは余計だ!!!! てか、なに読んでいたんだ?」



 「『電磁気学を理論を駆使した会社の興し方』」



 「………何だ、それ? どうすれば、電磁気で会社を興せるんだ? 」



 「それは読めば分かるさ。だが、俺的にはいまいちだな、この本。この前に読んだ『粒子と素粒子を絡めた会社の始め方』の方が為になる」



 「…お前が読んでいる本は、俺には一生縁のない本なのは理解できた」



 「宇宙飛行士になるんなら、電磁気学の知識は必要だと思うがな」



 ジルとは五歳の時に、同じ幼護施設で出会った。何かと気が合う奴で、すぐに仲良くなり、一緒に遊ぶようになった。それから10年程経ち、学校に通うようになっても、俺はジルといつも絡んで、ジルの馬鹿な話を聞いていた。


 

 「でな、イアン。俺は宇宙飛行士になるんだ!!!!」



 「何で、宇宙飛行士? どうせ、ジャパンからのアニメの影響だろ? 確か…兄弟で宇宙飛行士を目指すあのアニメか?」



 「違うぜ、イアン。ジャパンのアニメは素晴らしいが、今回は違う」



 「?」



 あのジルがアニメのキャラに憧れずに、夢を語るとは……。少しは成長したかなと思う。


 「今回はあのジャパンを代表する特撮ヒーローだ!! 腕がロケットに変形して空を飛んだり、バイクで一気に宇宙まで行けるヒーローなんだ!! どうだ、カッコいいだろ!!!!」



 「とりあえず、お前の残念さが分かってしまったよ、ジル…」



 やっぱりジルは、ジルだった。残念な子ジルは健在だ。ジルは自分の話を終えると、俺に話を振ってきた。



 「イアンは……起業するのか?」



 「ああ、一応な。俺はジルみたいに、夢を追いかけて生きる奴じゃないからな。地道に稼いで、起業して、金持ちになってやるさ♪」



 「俺よりでかい事しようとしてるじゃないか。まあ、イアンならやれるだろ。俺と違って頭良いしな……でもな、イアン」



 ジルは、夕焼けのヴェネチアを見ながら、俺に語りかける。その声は今まで聞いた事もない真剣味を込めた声だった。



 「人生は一度しかないんだぜ。その人生の中で、自分の好きな事をせずに、ただ黙々と生きていたら勿体ないと思わないか? イアンは俺と違って頭良いんなら、俺よりぶっ飛んだ事が出来るだろ!!」



 「……例えば、何だよ?」



 「そうだな~。……衰退しているイタリアマフィアを再興させるのは、どうだ!?」



 「馬鹿か、お前は!? 今のマフィアはメキシコやロシアのマフィアの方が凶悪性を帯びているんだよ!! ロシアンマフィアなんかは核兵器を作って売りさばいてるって噂があるくらいデカイ組織なんだよ!! そんな奴等と争って生きていられる訳がないだろうが!!」



 「俺は無理だけど…イアンならいけるだろ♪ “不可能を可能にする天才”と言われているイアンなら!! きっと悪の中の悪…“最凶のイタリアマフィア”になれるよ!!」



 「そんなの周りが勝手に言っているだけだ馬鹿!! 大体ダチにマフィアを薦める奴が何処にいる!!」



 「だって俺がヒーローなら、イアンは悪の組織が似合うだろ♪ 一緒に頑張ろうぜ、イアン!」



 「俺の夢を勝手に決めるなよ…」



 本っっっっ当に能天気な奴だな。だが…それがジルだ。失敗を恐れずに、夢に向かって一直線に突き進む。俺に無い“何か”を持っている。


 俺はジルに背を向けて帰ろうとする。そして、別れ際に…



 「……夢を叶えたいのなら、ちゃんと勉強しろよ、ジル。その頭じゃ、パン屋にも就職出来ねぇよ」



 「酷いな、イアン。まあ…否定出来ないけど……ははは、ははは…」



 ジルはヒーローになる事。俺は悪の親玉になる事。俺達はお互い夢が叶うように、努力して頑張る事にした。出来るかどうかはわからない。でも…その時の俺達なら出来るような気がした。



 だが、そんな期待を裏切り、ジルはこの三日後に、自分の夢を叶える事を出来なくなった……



 享年15年……ジル・エークルは急性心不全で、短い人生の幕を閉じた………




――――――――――――――――――――――



 ジル・エークルの死から7年後



 ヴェネツィア 



 ヴェネツィア本島は大きな 魚のような形をして おり、本島全体が小さな島々からできている。 その真ん中を全長約3kmにおよぶ逆S字形の カナル・グランデ がヴェネツィアの北西から南東へ、市街 を2つに分けながら湾曲して流れる。


 ヴェネチアは水の都といわれている程、街中に水路が張り巡らしている。街には150をこえる運河。177 の島々を分け、運河には400におよぶ橋がかか る。


 地上では、迷路のように狭くて曲がりくねっ た路地や通りに自動車は入れず、橋も歩行者専 用である。何世紀もの間市内の輸送をになった のは、ゴンドラ と呼ばれる手漕 ぎボートであった。今は水上バスやフェ リーが市民や貨物を運んでいるが、ゴンドラ も観光に利用されている


 車が入れず、一方で運河が発達していることも あり、主な交通機関は必然的に船になる。水上 タクシー、水上バス、渡し舟などが運河を用い て頻繁に運行されている。な おゴンドラと呼ばれる手漕ぎの舟がヴェネツィ アでは有名だが、現在では一部の渡し舟を除き 観光用途で運航されている。



 そんなヴェネチアには、誰も使われない水路がいくつかある。そして、水路には、誰も使われていない倉庫がある。しかし、今は三十人弱の黒服を着た人が武器を構えて、警備をしていた。



 【世界の黄昏ワールド・ダスク



 彼らは、メキシコを拠点とするメキシコマフィアの中でも、最大級の力を持つマフィア。時には国に脅しをかけてるなど、暴虐武人の態度で犯罪行為を繰り返す、犯罪集団の集まりでもある。



 そして、倉庫の二階の会議室と書かれている部屋では、四人のメキシコ人と“その他”がいる。一階にいる人達とは、明らかに雰囲気が異なる。


 それもその筈、彼らは【世界の黄昏ワールド・ダスク】の幹部メンバーだった。


 《安全装置解除アスレハ・ハクシー》グロース。重火器ならどんな武器でも扱える戦闘のエキスパート。過去の戦いでは敗けを知らない、組織の切り込み隊長。


 《白昼夢の死神アライヒ・アルマウト》リント。裏の世界なら誰でも、その名を知っている有名な殺し屋。彼の目に止まった標的は、誰も逃れて生きていない、と言われている。


 《勝者の上に立つ敗者アンチ・プラミット》スタンディ。常に何か犠牲にして、下から這い上がるマフィアの参謀。いつも笑顔でいるが、平気で他人の命を奪う、残忍差を持っている。


 そして、そんな者達を仲間にしている【世界の黄昏ワールド・ダスク】のボス《黒境ブラックポイント》ハワード。この二つ名が何を指しているのかは不明だが、他の幹部を従えす程の“何か”があるらしい。


 メキシコマフィアで、最大規模のマフィアの幹部が四人しかいないのは異例だが、たった数人でも組織を従えている。

 そして、椅子に座って、足を机に置いているハワードにスタンディが、淡々と報告している。



 「………大体分かった。で、ブツは?」



 「はい、全て積み終えました。指定の時刻に出発し、貨物用のゴンドラと紛れさせ、約束の場所でバイヤー(売人)に渡す手筈です」



 「よし。で、顧客数はどのぐらいになりそうだ?」



 「最低でも、年が終わる頃にはヴェネチアの人口の2割近くは麻薬依存症になるような販売ルートを造っています。もっとも、一番客として来るのは金がないスラムの人間が多いでしょうが…」



 「おいおい、スラムの人間に金なんか無えだろうが! そんなんで、きちんと元が取れるのか? 俺達は慈善事業で、この国の連中に“幸せになる薬”を売る訳じゃないだぜ、スタンディ!」



 報告をしていたスタンディに、グロースが食いつく。その呼び掛けに、スタンディは両手を水平に挙げ、笑顔で答える。



 「それは大丈夫ですよ。スラムの連中を一度麻薬漬けにしてしまえばこっちのものです。犯罪を犯しても、白い粉を求めるようになり、罪は全て彼らに被らせ、資金は全て私達に入る。どうでしょうか?」



 「まあ、計画的にいけばいいが……」



 スタンディの言葉に、リントは血のついたナイフを拭きながら、スタンディに意見する。



 「問題ないです。それに麻薬中毒になったスラムの子供を使い、暗殺の道具にする手もあります。子供に爆弾を取り付け、ターゲットに近づいた所を……ボンっとするのですよ! 出費は少なく、収入は大きくが基本です!」



 「…まあ、それならいい具合に金が集まりそうではあるな」



 「確かに。それにスタンディがこれまでに資金集めに失敗したことはありませんし、大丈夫でしょう」



 グロースとリントは、スタンディの提案に乗ることにした。そして、三人の目線はボスのハワードに向けられる。ハワードは自分に向けられている目線に気付き、ため息ををつく。



 「意見などあるわけないだろうが。この件はお前に任せているのだしな」



 その言葉を聞き、スタンディは頭を下げて礼をした。



 「ありがとうございます、ボス。警察関係は色々と根回しはしていますから、そちら派手な行動をしなければ問題はないでしょう。後警戒すべきは、この国にいる我々の“同業者”についてですね」

 


 「同業者? “そこにいる奴等”のことをか?」



 スタンディの発言に、グロースは部屋の隅にいる者達を指を指す。そこには同じ黒服を着たイタリア人がいた。その体は縄で縛られ、刃物によって傷がいくつもあり、かなり疲労しているように見える。

 そんな姿でいるイタリア人を見て、グロースは口元を歪ませる。



 「本当にこいつらはイタリアマフィアなのか? はっきり言って歯応えが全くなかったぞ。」



 「グロース、貴方は何もしていなかったでしょうが。まあ、貴方がやれば、肉片が飛び散るまでやりますから私が動いたのですが、私から言わせてもこの国のマフィアは弱くて話にならない」



 「仕方ありませんよ、イタリアマフィアが栄えたのは、今から何十年も前の話なんです。昔は世界で一番危険な犯罪集団も、今じゃ衰退の一方なんです」



 二人の会話にスタンディが入り込む。その笑顔は変わる事なく、淡々と語る。その発言にボスであるハワードは怪訝な顔をする。



 「なら、別に問題はないんじゃないのか? この程度なら、うちのメンバーを全て出せば終わるだろ!」



 「確かに、ボスの言う通りではあるのですが、少し気になる事がありまして…」



 「なんだ、言ってみろ」



 「はい、実は…」



 スタンディの話によれば、イタリアマフィアは近年までは、いくつかのグループがあり、それぞれに縄張りや縄張りを掛けての争い絶えまなく続いていた。


 だが、数年前にある男が新しいマフィアを立ち上げてから、全て変わった。そのマフィアは敵対勢力以前に、近くのマフィア組織を潰して、自分のマフィアを拡大していた。これには、他のイタリアマフィアから反感を買い、全てのイタリアマフィアは連合勢力(総勢千人程)として、そのマフィアを潰しにかかったが……


 僅か二時間足らず、しかもそのマフィアのボス一人に返り討ちにあった。


 そして、その男のマフィアが立ち上げてから、僅か一ヶ月で全てのイタリアマフィアを支配下に置き、イタリアマフィアの頂点になった。



 「…というらしいのです」



 「………スタンディ、お前はそんな話を信じたのか?」

 


 「いえ、この国のマフィアについて調べていた時に、知り得た情報なんですが…私も最初信じられませんでした。ですが裏を取ってみると、どうやら本当らしいです」



 ジャッキ、と音がする。その話を聞いていたグロースは機関銃を取り出す。



 「なるほどな、この国にも少しは楽しめそうな奴がいるじゃねえか」



 「私はあまり興味ありません。ボスから要請が無い限り、私は動きません。精々遊んで来なさい、グロース」



 「おうよ! ボスもいいよな、俺が始末しても!」



 リントは興味無いようだが、グロースはまるで新しいおもちゃを見つけた子供のような目をしていた。ハワードも興味無いようで、グロースに任せた。



 「好きにしろ。ただ俺達は遊びに来たのではない。商売の邪魔にならないようにしろ、いいな!!」



 「「「了解(だ、しました)、ボス!!」」」



 「では、まずは『おい、コラ、出てきやがれ!!!! このメキシカン共!!!!』…!?」



 メガフォンを使った大きな男の声が響き渡った。直ぐにハワード達は、部屋から出ていき、一階に降りると部下の一人が近寄り、報告する。



 「どうした、何が起きた?」



 「あ、はい。実はこの倉庫に面している水路の向こう岸にいる白いスーツを着た男が、何か叫んでいるのですが…」



 「監視カメラは?」



 「ございます。こちらを」



 ハワード達は監視カメラを見ると、そこには部下の言った通りの服装をした男がいる。手にメガフォンを持って、ハワード達のいる倉庫に向かって叫んでいる。声はマイクで拾う必要がないくらいに倉庫に響く。



 「なんだこいつは?」



 「…酔っぱらいですかね?」



 「昼間から? 暇な奴だな」



 「……何処かで見たことがあるような気が…」



 四人はそれぞれ感想を言いながら、モニターに注目している。



 『このメキシカン共!! よくも、俺様の大切な部下を殺ってくれたな!! 貴様ら、生きて祖国のタコスを食えると思うなよ!!!!』



 白スーツの男は、かなりメガフォンの音量を上げて怒鳴っていた。その顔は殺気に満ちた般若の顔をしている。そして、モニターを見ていたスタンディは、何かを思い出しのか、持っていたタブレットを起動させ、何かを調べる。



 「まさか…あ、やはり、そうだ、この男です!」



 「あん? どうしたスタンディ?」



 「ボス、この男です! この男がさっき言っていた一ヶ月そこらで、イタリアマフィアを全て、統轄したマフィアのボスです!」



 「なんだと、こいつが…か?」



 ハワードは、モニター映っている白スーツを見る。



 「こいつが、今のイタリアマフィアの頂点に立つ男だと、全く信じられないが…」



 「それより、さっきから言っている“部下”とは?」



 「ああ、あれだろ。二階に監禁している黒服達の事だろうよ。拉致ってきたから、あちらは殺されたっと思い混んでんだな」




 モニターを見ると、白スーツの男の顔が怒りに満ちている中、目から涙を流していた。



 『良い奴らばっかりだったのに…アドル、ベネデ、カルロス、リロ、ケイネス…』



 「へぇ~部下の名前を全て覚えているなんて、出来た上司だな」



 『ニッコロ、ベル、タスマ…だっけ? アステ? ヨー…、ヨーク…ヨークだな、多分』



 「…いや、うろ覚えだな」



 『…バッキンガム、ランエボ…ピッツァ…パンナコッタ…タコス、で良かったよな…』



 「明らかに、人の名前じゃないのが含まれているぞ! てか、タコスって、さっき自分でメキシコ料理と言っていたよな!!」



 モニターを見ていた三人が、呆れている。本当にこんなのが警戒をしていた敵なのかと思うと、悲しくなってくる。

 だが、一人は喜びに満ちた表情で、武器を取る。《安全装置解除》と異名を持っているグロースである。



 「ボス、殺ってきていいよな」



 「ああ、好きにしろ。お前に任せるから、早く処理してくれ。耳が痛い」



 「了解したぜ。まあ、見ていてくれ。楽しい見せ物を見せてやる」



 グロースはそう言って二階をかけ上がる。二階に何故行ったのか、それはハワード達には容易に想像できた。

 しばらくすると、違うモニターにグロースが映る。そこは倉庫の二階の窓だった。そして、モニターに映ったのはグロースだけではなかった。二階に監禁していた白スーツの仲間と一緒にいた。体は縄に縛られたまま、口にはガムテープが巻かれている。その顔は涙や鼻水でぐしゃぐしゃだった。それをモニターで見ていたハワード達はつまらなそうに見る。



 「マフィア相手に人質とか、効果無いだろうに、あいつは」



 「しかし、相手の様子だと効果的だと思いますが…」



 「まあ、新生イタリアマフィアの実力を見るには良い見せ物だろ。お、始まるぞ!」



 『よう、イタリアマフィアのボスさんよ。こいつが誰だか分かるよな。お前の大切な部下だぜ』



 さっきまで、怒鳴っていた男は、グロースの隣いる黒服に目を向けると驚く。



 『お前は…パンナコッタ…パンナコッタなのか!?』



 本当にそんな名前なのか、と色々とツッコミたいが、ハワード達は無視してモニターを見る。



 『ちゃんと生きているぜ。だが、これからのお前の態度でこいつの人生が変わるがな!』



 グロースは、縛られている黒服に頭に銃を近付ける。更に体をグロースの前に出す事で、敵のスナイパーから狙撃を防いでいる。



 『パンナコッタ…生きていたのか? よく生きていてくれた…』



 白スーツは涙を流している。感激のあまり膝をついてしまう程の喜んでいる。



 『中々部下思いの上司で良かったな。じゃあ、感動的な所だ、可愛い部下の声を聞かせてやろう』



 そう言ってグロースは黒服の口に巻かれているガムテープを取る。



 『……っ…ぶはぁ、首領ドン

…助けて下さい…お願いします、殺さないで!!』



 人質の黒服は、命乞いをする。グロースは口元を歪める。これで更に白スーツの男が攻撃できなくなると思っているからだ。



 『…パンナコッタ…大丈夫か? 体は傷だらけではないか。傷は痛くないか?』



 『大丈夫です、首領!! 傷は痛みません!! だから…後私はパンナコッタではありません!!』



 やはりパンナコッタではないのか、とハワード達は思った。リントはモニターから目を離して、酒瓶を取り出す。



 「たく、これで終わりだな。グロースの悪趣味にも困ったもんです。…どうしたスタンディ、変な顔して?」



 「いえ、何か変じゃないですか? あの人質の黒服」



 「ん、そうか?」



 モニターに映っている黒服の顔を見ると、かなり青ざめている。まるでこれから断頭台に登る死刑囚の顔だった。



 『やめて…見捨てないで、首領!!』



 『安心しろ、皆まで言うな。わかっている。愛する部下の気持ちくらい理解できなきゃ、イタリアンマフィア失格だからな♪ 大丈夫だ“直ぐに終わる”』



 白スーツの男は涙を拭って笑顔で、服の中から“ある物”を取り出した。



 “対空戦対抗リスペリオット” 簡単に言うと『ミサイルランチャー』を取り出した。



 『!!!!』



 「「「!!!!」」」



 いきなり白スーツがミサイルランチャーを取り出した事に、グロースとハワード達は驚愕する。一体何処からあんな物を取り出したのか、300キロを超える大きな兵器を軽々と持つ事など、疑問がいくつもあるが、今はそれ所ではなかった。白スーツの男は、マイクでかろうじて拾える声で…



 『痛みは一瞬だ…友よ♪』



 そして迷いなく、ミサイルランチャーの引き金を引いた。その瞬間、ミサイルが連続して発射された。グロースとパンナコッタと呼ばれる部下目掛けて…



 「グロースっ避けろ!!!!」



 その言葉は空しく響き渡り、ミサイルはグロースのいる窓枠にぶつかり、グロースのいる部屋ごと大爆発を起こした。

 更に爆発を起こして倉庫全体が激しく揺れる。モニターは激しく揺れ、白スーツの男以外のモニターが壊れた。そして最後残ったモニターを見ると、白スーツはカメラに向かって、笑みを浮かべる。その表情にハワードは背筋が寒くなる。マイクは壊れたが、白スーツの男は何かを喋っていた。それはこう言っていた



 『さあ、見せてやるよ。この国のマフィアの恐ろしさをな…』



――――――――――――――――――――――




 「いや~あの時は大変だったよ。死んだハズの部下が生きていたから、思わず感激して涙を流してしまったよ!! えっなんで撃ったのかって? 決まっているだろう。あいつは仲間思いで、自分のせいで仲間が危険な思いをするのは我慢出来ないっと思ったんだよ。だから、俺は血の涙を流す覚悟であいつと隣にいた奴と一緒に葬ってやったんだよ♪ いや、俺も最後まで迷った末の判断だからな、天国に行ったあの…プッチンプリンも、俺に感謝しているだろう…。ん? どうした、何か呆れた顔して? ああ、話しの続きだったな、その後な…」



 ◇  ◇  ◇



 俺様は肩に担いでいるミサイルランチャーを更に発射する。倉庫は更に揺れ、壁は崩壊する。更に爆発で燃えた木材が、激しく倉庫を包み混んでいる。

 ランチャーが弾切れで切れると、その辺に捨てる。だいぶ改良を加えたが、まだまだ販売には程遠いと思う。



 「よし、お前ら突入するぞ!!」



 建物の影に隠れている仲間に指示を出し、俺達は目の前のメキシカンマフィアの根城に突入する。



 「首領…あまり派手にやらないで下さいよ…て、もう遅いか」



 「何を言っている!! まだ、セカンドギアも上げていないぞ! これから更にヒートアップして行くぜ!!」



 「ねぇ、誰か首領を止めて!! ヴェネチア国民の皆さん!! 昼間から試作品のミサイルランチャーをぶっ放す人を止られる人はいらっしゃいませんか!!」



 「ははは、俺の熱いパルスを止られる奴なんているものか!」



 と、話しをしている時に俺は倉庫の扉を蹴り飛ばした(蹴飛ばした時に若干足が痛いが、ポーカーフェイスで望む)瞬間、中から銃弾の雨が降り注ぐ……だが



 「定番パターン過ぎてつまらねぇぞ!!」



 俺はそんな攻撃を無視して手に持っていたマシンガンで応戦する。俺が発砲したすると暗闇から悲鳴が鳴り響く。



 「はっ、ちょろいな♪」



 「なんで、あの弾幕の中で、首領に弾が当たらないのか、凄く気になるのですが…」



 部下の一人が、ドアに隠れて発砲している。ビビりが。



 「これくらいわかるだろ。入った瞬間に相手の場所、銃口を見れば相手の弾道が読めるだろ?」



 「そんな事して相手の弾を避けていたのですか!? 人の反応速度超えてます! 無理ですよ!」



 「これくらい誰でも出来るぞ。ある戦争オンラインゲームの上位者なら必ず持っているスキルだ」



 俺は部下と世間話をしながら、マシンガンの引き金を引く。周りからは阿鼻叫喚が響き渡るが、無視して話しを進める。



 「ゲームとリアルは違うでしょう!!」



 「体現者が目の前にいるだろうが。それにしても、あのキツネ野郎め…俺をこけしやがって、今度は必ず叩き伏せる!!」



 俺は遮蔽物に隠れている雑魚を潰して、昨夜のネットゲーを思い出す。例の戦争オンラインでのイベントで“ある人物”にボコボコにされた。けして負けた訳ではない。ただ弾切れになった所を奇襲されただけだ。一発でもあれば勝ててた、うん、間違いない。そんな鬱憤をはらしながら敵の頭に、銃弾を食らわせる。

 すると、物陰から一気に俺に近付いて、刃物を突き出す



 「グロースの仇!!」



 「邪魔」



 俺は出て来た敵の襟を掴んで、地面に華麗に頭から叩き潰す。敵の体は変な方向に曲がり、悲鳴上げた。



 「ぐはぁ!! 馬鹿な…」



 「ああ、済まん。考え事してた」



 なんか普通の敵と違うようだが、幹部かな。ああ、思い出した。適当見ていた資料に書いていたメキシカンマフィア専属の殺し屋だったな。



 「どうだ、俺のバリツは? 中々のもんだろ」



 「普通にカラテとかボクシングを習って下さいよ、首領。マニアック過ぎて誰も分かりませんよ」



 「今の世の中、個性を大事しないとな♪ それに誰も使わないと言うことは、対処法が分からないと言うことだ。対処法の武術の方が相手に取ってはやれづらいからな」



 「…さいですか。で、どうします? 一応敵の幹部ですけど、捕虜にしますか?」



 部下の提案は最もだ。だが俺が求める悪のやり方には程遠いな。俺は口元を歪めて部下に指示を出す。



 「いや、こいつは“研究所”に運べ。直ぐに手術だ」



 「!!! まさか…“あれ”ですか?」



 「ああ、そうだ。だが、少し待て」



 俺は倒れている幹部に近寄る。幹部の男は重症で意識もあまりないようだが、これからの事を話した。



 「よお、メキシカンの殺し屋よ、聞こえてるか? まあ、一応これからのお前の事をざっくり教えてやるよ♪」



 「……ぬっ…あっ…に」



 「お前はこれから、俺達が所有している研究所に運ばれる。そこではいつか俺が世界征服をする時に必要な怪人を生み出す研究をしている」



 「…怪……じっん…だと」



 「ああ、そうだ。漫画で出てくるような化け物を生み出そうとしている。USBメモリーを使ったり、スイッチを押したりすれば怪人になれる道具や手術して身も心を怪人になる研究を続けている訳さ。お前の場合は後者だがな」



 「!! や……めっ…て…」



 「安心しろ、成功率はまだ一割もないが、成功すれば人知を超えた怪人なれる。まあ、拒否権はないから死にたくないら、頑張れよ♪」



 まだ、なんか喋っているが無視して部下に運ばせる。さて、ここのボスは何処かな? 俺は辺りを見渡すがボスらしき人物は見つらかない。あれ、もしかして最初のミサイルで吹き飛んだか。



 「首領!! どうやら裏口から逃げそうです」



 「チィ、逃げたか。直ぐに追うぞ!!」



 裏口に向かうとそこにはただ小さな水路しかなかった。だが、遠くからエンジン音を聞き、目を向ける何人かの黒服がモーターボートに乗り込んで、ヴェネチアの水路を走らせている。



 「コォォラ!!!! ヴェネチア市内でモーターボートの使用は厳禁だ、ボっケーーー!!!!!!!! 波で他の小舟が転覆するだろうが!!!!」



 「首領、確かにそれはあっていますが、今気にするべきポイントではないのでは…」



 部下が何かほざいているが知らん。あのメキシカン供、このヴェネチアの法律を守らんとは、海より深い俺の心も、我慢の限界だ。



 「あいつら、もう許さん!!!!」



 「でも、あちらはモーターボートですよ。ヴェネチア市内は車は通れませんし、バイクも無理ですよ。どうします?」



 「何を言っているチャック・ウイルソン!! 俺には“あれ”があるだろう」



 「私はチャック・ウイルソンではないのですが…、後“あれ”とは?」



 「ええーい、ノリの悪い奴め。『CRF-R01』だ!!」



 「CRF-R01!! あれは試作品すらもなっていませんよ。てか、あれ実現不能の兵器?ですよ!!」



 「いいから持ってこい!! メキシカンマフィアよ。世界最凶のイタリアマフィアを敵に回した事を後悔するがいい!」



――――――――――――――――――――――




 「なんて奴らだ、くそ!! 全て水の泡じゃねえか!!」



 ハワードはモーターボートの助手席に乗り、失態を嘆いている。運転席にはスタンディが怪訝な顔で運転している。



 「まさか衰退しているイタリアマフィアがここまで力を付けてきたとは予想外です。実力部隊を失い、グロースやリントがやられた今私達に勝ち目はありません」



 「スタンディ!! じゃあ、お前はこのままオメオメと本国に戻れと言う気か!?」



 「今のままでは勝てません。本国にいる全ての人材を連れて来ましょう。そうすれば勝てます!! だから、ここは耐えましょう」



 「チィ…くそが!!」



 ハワードはそれ以外は何も言わず、黙りこみモーターボートのエンジン音以外静寂に包まれた…と思ったが。



 「ボス!! 何か上空から何か来ます!!」



 後ろにいる部下の一人が叫び、直ぐに戦闘態勢に移行された。双眼鏡で見ながら、飛行してくるものを確認する



 「何だ!! ヘリか?」



 「いえ…あれは、ミサイルです!!」



 ハワード達もそのミサイルを肉眼で捉えていた。約2㍍サイズの大きなミサイルだった。これが命中すれば確実に辺りを焼き尽くすだろう。



 「ボス!! ミサイルの胴体部分に何か張り付いてます」



 「何だと、貸せ!」



 ハワードは双眼鏡を部下から奪うと、ミサイルの胴体部分を見る。何か白い紙のようなものが張り付いてる。



 「紙? いや、あれは…まさか!!!!」



 ハワードは持っていた双眼鏡を落とした。周りいるスタンディや部下はどうしたのか、心配そうになった。ハワードはそんな事を無視して口を開いた。



 「嘘…だろ、そんな事がありえるのか!?」



 部下達は、飛んでくるミサイルを見る。その距離はどんどん近付き、やがて肉眼に胴体に張り付いているものが見えてきた。

 張り付いていたのは、白い紙でなく“白い服を着た人間“だった。その服装は、最近見たことある服装だ。そう、あのイタリアマフィアのボスの服も白いスーツだった。



 「ああ…!…来るな…!」



 そんなハワードの呼び声も虚しく響くが、あるイタリアマフィアのボスを乗せたミサイルは近付いて来る。



――――――――――――――――――――――



 『なあ、イアン!! どうだ、あのヒーローを真似って作ったこのロケットは、すごいだろ!!』



 『とりあえず、ジルは段ボールアートは向かない人間だな、と思った』



 ジルの作ったガラクタ?はあまり酷いと思う。子供が作った方がまだ良さそうだ。



 『イアン、馬鹿にするなよ! これを右手に付けば空を自由に飛べるだぞ!!』



 『俺の予想だと、イアンがもしそのロケットを右手に付けて、飛べば確実に右腕は引きちぎるだろうな』



 普通に考えればわかるだろうに…。



 『絶対行けるって!! 出来ないなら、イアンが作ってよ、そんなロケット!!』



 『なんで、悪の組織がヒーローの道具を作らないといけないだよ。自分でエンジニアでも雇って作って貰え』



 『酷い…それでも友達か、イアン!!』



 『友達以前に、お互い敵だからな』



 『くそっ!! 覚えていろよ、イアン!! 必ずお前の野望を叩き潰してやるからな。友達だからと言って見逃してやらないからな!!』



 まだ、野望すら企んでいないんだが…。そして、絶対お前には遅れはとらん。必ず勝ってやる。ご都合主義? 悪の掟? ヒーローの最後は? 知ったことか、俺はそんな子供が泣き叫ぶ悪になってやる。



 『精々頑張れよ、ヒーロー様♪ そっちが、変身ベルトを開発した頃には、俺は世界処か宇宙を征服してるからな♪』



 『言ってろ、悪の総帥!! お前を倒すのは、この俺! ジル・エークルだ!! 覚えておけ!!』



 『わかった、わかった。頑張って修行して、俺を討ち取りに来い! お前に倒される日を楽しみしてるの』




 ◇  ◇  ◇




 「……どうだ、ジル…お前が出来なかった事の…一つを俺は簡単にして見せたぞ…」



 まあ、端から見たらミサイルに体を巻き付けているだけに見えるが、これでも色々と試行錯誤して出来たんだ。まだ不安定で、実用化には程遠いが仕方ない。



 「見えてきたな…悪になりきれない、チンピラの姿が…」



 メキシカンマフィアが乗っているモーターボートが見える。連中は銃をミサイルに向けて、発砲しているが当たる訳がない。



 「そうだ…お前らに…負ける訳がないだろう…俺を…“倒せるヒーローはいない”のだから…」



 もう俺と戦えるヒーローはいない。



 もう俺を止められるヒーローはいない。



 もう俺を…倒せるヒーローはいない。



 「残念だったな、メキシカン供!! もう俺を止められる存在はいないぞ!!」



 俺は銃を持ってミサイル事モーターボートに詰めよっていく。メキシカンは顔を真っ青くなる。その顔はかなり滑稽だ。



 「自己紹介がまだだったな。俺はイアン・マーキン。イタリアマフィア『オロ・ビャンゴ』の首領だ。覚えておけ!!」



――――――――――――――――――――――




 「これが一つの俺の武勇伝だ。そして、ヴェネチアに来たメキシカンマフィアは全て駆逐してやったわけだ。今着々と組織を大きくしているがまだまだ世界征服をするのは時間がかかりそうだ。おい、何で呆れた顔で俺を見てるんだ? まあ、いいか。血生臭い話ばかりで嫌になるし、次はジャパンの普通の学生の話を聞きたいぜ♪」



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[一言] >>ただ弾切れになった所を奇襲されただけだ。一発でもあれば勝ててた わーだれだろうなーきっとすごいじんぶつにちがいない(棒読み)
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