第6話 *吹谷君の場合
今俺は幸せについて考察している。
どうやら人の感覚において、幸せだと思うのことは個人差があるらしい。
そこで校内でも癒し系で有名な和歌山風子と付き合ってみた。
和歌山は言う。
「なんだか幸せだなぁ」
と。
「幸せとはどういう気持ちなのだ?」
俺が問うと彼女は答える。コタツに入ったときみたいに、じんわり温まる感じであると。
そのときなんとなく「ああ、そうか」と納得した。
ホンの僅かな感情であるが、何か自分の中で現れたよく分からない感情……これがそうなのだと。
ほのかに温かい感情。もう少しこのままでいるのも悪くは無いと…俺にしては至極非効率的なことを思った瞬間、触れれば消えてしまうのではないかと、人間である和歌山に抱いてしまった非現実的な思考。
それはなんでもない、ただ2人で河原に座って弁当を食べていただけのことだった。
河原に座って弁当を食べることなど珍しくも何もなく、また、いつでもできることだ。
人はそんなことで幸せを感じることができるのだろうか?
特別でもなんでもないことで。
――否、違う。
特別でないことは無い。
そして、きっと消えてしまわないことも無いものだ。
河原に座ることも、
弁当を食うことも、
風に吹かれることも、信号待ちすることも、横断歩道を渡ることも、歩くことも…いつだって出来る。
だが、和歌山と一緒だと何もかも特別に変わる。
そして、和歌山が消えたときにそれは普通のものに戻る。
そして思考は遡り、過去へと戻っていく。
「うーん、でも吹谷君。みんな吹谷君みたいに強くはないんだよ。
すこしだけ……皆のこと考えてあげることって出来ないかな?」
最近、俺にクラッシュされたという噂を聞くことがかなり減った。
「人ってやっぱり誰か彼氏や彼女が出来たら変わる変わる。
相手のこと考えてるから気遣いできるし、優しくなるもんだと思う。
でもそう変わるスピードは人それぞれ違うんじゃないのかな……。
ゆっくりでいいんだよ。大切にしたい気持ちは不器用でも、きっと伝わるから」
だが俺はいつも通りの俺で何も変わってはいない。
相手の感情を予測する何てことは以前から試みていたことだ。
次にどう動くかという予想。
全てがいつも通りで、
俺は何も優しくなどなっていない。
けれど、雰囲気がやわらかくなったと、周りの者は言った。
いつだってやっていることなのに、変わったと言われるのは……
ああ、
そうか。
和歌山が一緒にいるからだ。
俺は優しくなどはない。だが、和歌山につられて行動しているうちパターンがうつった。隣に和歌山がいるから、それらしい行動をとっているだけのことだ。だから和歌山がいなくなれば、俺は元に戻るだろう。
だが、和歌山は最初から優しいと言われていた。
もしかして和歌山には別の…いわゆる“一緒にいて幸せだと感じる人間”がいたのだろうか?
そうでなければ説明がつかない。
きっと和歌山は幸せなのだ。気がついていないのかもしれないが、そういう人間が近くにいるんだろう。
だから誰でも、誰とでもそう思えるはずだ。
そして誰をもそう思わせることが出来るに違いない。
……俺でなくてもいいのだろう。
――俺は変わらなかった。
ふと、思い浮かんだことがある。
「和歌山にとって、俺と一緒にいることはメリットになったのだろうか?」
考察が終わる瞬間が少しずつ足音を立てて近づいてきている。そんな予感がした。