表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せ解析学  作者: アルタ
ふわふわふらっしゅ
10/12

12/31前編

 一年間が終わろうとしています。

 そんな今日は大晦日で、珍しく雪がたくさん降ったので、私は外に出ることもなくおせち料理を作りました。

 りんごとサツマイモのきんとんです。

 ぐつぐつ煮ているうちにすごく煮詰まってきて、でも焦がさないように頑張りました。

 明日は正月なのに筋肉痛かもしれません。

 その分とても甘くておいしくできました。

 和音君は甘いものお好きですか?

 んー。普通とか言われちゃいそうだけど……食べてもらいたいな。

 あ、今テレビに神社が映っているんだけど、参拝の人がもうスタンバイしてるみたい。

 気が早いね。



――送信。






 冬休みに入る前、和音君は私にひとつの宿題を出しました。

「一日一回、その日の報告をするがいい。ああ、メールで構わんぞ」

 カバンを揺らしながら「報告?」と首をかしげると彼は「うむ」と頷いて、

「風子が何を考え、どう過ごしているのかデータを集めたい」

というのだ。


 歩きながら、報告って日記みたいなもので良いのかなぁ……なんて考えていると、

「俺も風子に提出するから参考にするがいい」

和音君は至極まじめな顔で言った。


――和音君の日記!

 それはそれでとても興味があります。

「でも、どうして報告書なの?」


 電話という手もあるのに。そう言うと、

「電話というのはいわば突然の訪問者だ。

 相手の予定なぞ構わずにドアをノックもせず飛び込むようなもの。

 それに文章にしたほうが言いたいことをまとめられるし、形として残る分考察しやすかろう」

などといっているが、実はあまり電話が得意ではないことを私は承知しているから、なんだかそんな彼がかわいらしくて微笑んでしまう。そんな気持ちにまったく気づきもせず彼は「ここが一番重要なのだが」と、一度話を区切ってから……


「俺はどうも人の気持ちとやらがわからんのだ。

 風子のことを大切にしたいと思うのだが、実際のところどうすればいいのかやっぱり分からん。

 客観的に見るとクラッシュするのはうまいようなのだが……むう」


 要するに、だ。俺は気がきかんから、はっきり言われんと分からん。だから欲しいものや不満……そんなものがあったらちゃんと言葉にしてほしい。

 そして風子のことをもっと知りたいから

 嬉しかったことや悲しかったこと

 面白かったことやつまらなかったこと

 どんな些細なことでも教えてほしい。

 少しずつ積み重ねれば、俺にも風子のことが分かると思うからな。




 というわけで私も和音君からの報告書を毎日1通もらってます。

 しかもかなりオモシロイ!


「12月28日。

 目の前を黒猫が通る。

 不吉などという迷信がささやかれる昨今だが、

 俺はその日商店街の抽選で見事ボールペンを3本も当てることに成功した」

 それって参加賞じゃ?! なんて驚いている場合ではない。

「あとは……そうだ、折りたたみ自転車が当たったぞ」

 というオチまでしっかりとある。


 商店街の抽選会に出ている和音君を想像すると思わず笑みがこぼれてしまう。

 やっぱり眉間にしわを寄せてガラポンをまわしているのかな?

 見事当てたときのみんなの反応はどんなものだったのかな?

 自転車を持って帰るときどんな顔してたのかなぁ?

 なんて考えてしまって……


 ここしばらくは親戚の集まりに出ているみたい。

 報告書には和音君と同じ顔のいとこがいるって書いてあったけど、性格も似ているのかな?

 興味があるなぁ。




 夕飯も食べ終わって2階の自分の部屋に行くと、充電中の自分の携帯がピコピコ光っている。

 ふと窓を見ると雪がしんしんと降っていた。ヒーターをたきっぱなしにしていたせいで少し悪くなっていた空気を入れ替えようと、水滴がついた窓に手をかける……冷たい。ガラガラと音を立てて開けるとひんやりした風が入ってきて、ごっそり暖気をさらっていった。そして遠くから鳴り響く鐘の音。


 ゴーン……

 和音君も聞いているのかな。


 ゴーン……

 108つの煩悩を払うといわれているこの音を。


 隣の家では紅白歌合戦を見ているらしく、大音量の音が少し漏れてくる。

「換気されたけど寒くなっちゃった……」

 部屋の中だけどマフラーをきっちり巻いて、ケータイに手を伸ばすと、いつしかお決まりになっていた定期報告が来ている。


 タイトルは(無題)のまま。


 本文は一言。


――伝えたいことがある。


 ただそれだけ。もしかして……と思って外を覗くと、誰か下に立っているのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ