1話
何が起きているのか、理解するのに時間がかかった。
「お前さえ…お前さえいなければっ!」
僕に向かって剣を掲げている、実の兄を目の前に死の恐怖が迫ってくる。体は金縛りに合ったように動かない。
「レイディール様下がってください!!今の殿下は正気ではありません!!」
従者のシャルカルムが叫んでいる声が聞こえる。
この国、バルサール国には二人の王子がいる。王妃の息子、第一王子ライザール。そして側室の息子、第二王子レイディールだ。
ライザールは文武両道、容姿端麗で性格もいい。次期王の座につくために勉学や職務を努力してやってきた。その様子を近くで見てきたレイディールは兄の為に何か出来ないかと思い、武術、魔術、様々なものを身に付け、戦場にも出向き、指揮をとった。しかし、その事がこの先の最悪な出来事の始まりとは知らなかった。
兄の剣が自分に向かって降りてくる。死ぬことなど望まない。今までの努力がこれで終わってしまう。痛みに備えて瞼を閉じた。
何故だ、何でこんなことになったんだ。考えても分からなかった。
剣からの衝撃を待つ。
しかし、衝撃の代わりに声が聞こえた。
【主、やっと見つけた】
いきなり頭の中で声がした。とっさに目を開ける。今頃受けているはずの痛みがこない。兄に視線を向けると止まっていた。シャルカルムも動き始めたばかりの兵士たちも、僕以外全部の時が止まっている。そして僕の目の前にあるのは、光の球?
「なんだ、これ」
【我が主お忘れですか。我を】
なんだ?そんなの覚えて・・・・
「あぁっ…あ、たまが、わ…れる…あぁ」
い、た、い…頭が割れる。
―――パリーン―――
何かが割れる音がした。
あぁ、記憶が流れてくる。
これは誰かの記憶。
あぁこれは、僕の…
【主、我を思い出して。名を呼んで】
お前は、だれだ。うっ記憶のだんぺんが…
『ソルあなたといると何時でも楽しいわ。うふふ』
女性の姿が見える。
この女性はだれ
ぼく?そうだこの女性は僕だ
思い出した
すべて
「ソル・・違うね、本名はソルディイル。僕が、いや、私が着けた名前。長い間ずっと待っていてくれたのね。ソル、ありがとう」
僕は光に手を伸ばす。光へと手を伸ばすと、スルリと長い腕が光から出て、続いて足、胴体。次々と光から出てくる体、最後は頭らしい。全ての体が出てきた時、目にしたのは先程より淡い黄色い光。
【主、我はようやく本来の姿になれた。昔主が言っていた我なりの大人の姿だ】
光が収まり、姿を表したのは僕よりも遥かに高い、長身の男だった。手足がスラリと長く、顔は彫刻のように整っている。髪は光を常に浴びているように輝いて眩しいくらいだ、そして黄金に輝く瞳。
【主、この国は貴方には似合わない。何処か別の地に我と行こう】
それはどういう事?
「いいわね。私もここは好きではないの。ソル潰してくれる?」
何をいっているんだ。僕はそんなこと思っていない。
【主この者達はどうする】
この者達って兄上とシャルたちの事か。ダメだ。殺しちゃダメだ。
「殺しても別にいいわ。でもこの子が殺しちゃダメって言ってるから、う~ん、じゃあ別の国にバラバラに転移せといてちょうだい」
良かった。これでみんな助かる。転移させられるけど、殺されるよりはいい。
「あっでも王と王妃は殺さないとね。この子をこんなにも傷つけたんだもの」
えっ・・・何を
父上と義母上を殺す?何故?どうして?
「気づいていないのね。まあその事はそこにいる人たちにも、言えるわよね」
王の間。そこには王と王妃がいるはず。行っちゃだめだ。僕の意思とは関係なく動く。誰かに乗っ取られいるように。ソルとまだ動かない兄達をその場に残して王の間に向かっている。
扉が開く
ゆっくりと
王であり僕の父がこちらを見ずに言った。
「レイディールか。用もないのにここには来るなと言っているはずだが」
「すみませんねぇ、私はそんなこと言われた覚えがありませんので」
僕の発言に怒りを感じたのか、こちらに父上は鋭い目を向けた。
「貴様、誰だ。レイディールではないな」
「せいかーい。誰かって言うのは、貴方がよーく知っているのではなくて?」
挑発的な口調の彼女。
そうだ。彼女は誰なんだ。
僕だけど僕じゃない人。
知っているのに分からない。
「まさか、初代なのか!まさか…そんなことはあり得ない」
「あらぁ、わかっているんじゃない。そうよ、私はバルサール国の初代女王。それで、あなた達は私の作った国でいったい何をやっているんでしょうね」
「何故だ。貴様はレイディールの中に封じたはずだ。何故出てこれた」
なんの話だ。
二人で僕の分からない話をしないで。
わかったのは二つ、彼女がこの国バルサール国の初代女王ってことと、父上が彼女のことを知っていること。
封じた、とか何かをしてるって言うのは分からない。だから分からない話をどんどん進めないでよ。
そんな僕の願いは虚しく話は進んでいく。
「自分がやった事だと自白しちゃったわよ。私は彼の中でずっと見てきたわ。貴方達がしていることを。酷いわよね、彼の知らない間にどんどん儀式とかが、進んでるんですもの」
「なんの事だ。レイディールが知らないのは当然だ。何故レイディールの中にいるはずの貴様がその事を知っているのかしらんがな」
「彼に何も知らせずに、私ごと彼を消すなんて許さないわよ。なにも知らずに殺すなんてそんな残酷なこと私がさせないわ」
彼女が怒っている。誰にって父上にだよ。
しかも殺す?なんの話だよ。
もういやだ。なんの話か分からないし、なんなんだよ。
そんなことを考えていると彼女が話しかけてきた。
『レイディール、ごめんなさいね。勝手に体を借りるつもりはなかったの』
『そんなのは…別にいいけど。父上と王妃様を殺すなんて・・・』
『これからのことは貴方がきにする事ではないわ。だから眠りなさい』
『なんで、気にするよ。眠らないよ僕。はなしを、り…かいするまで…ね…な…い、から…』
僕は寝たくない。寝たくないのに、深い眠りに落ちてしまったのだった。
だからこれから彼女が僕の体を使って何をするのか、知ることは出来ない。
そしてすべてが終わったあと、どうして眠りに落ちたのか、後悔することになるのも数日たってからのことだろう。




