男との出会い
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私がそろそろ帰ろうと、荷物を片付けていたとき、黒いローブを深く被った男が近づいてきた。
男は、紅く鮮やかな唇で微笑み、話しかけてくる。
「さっきの勝負みていたが、圧巻だった。どうだ一つ、わたしと対戦してみないか?」
男の思惑はよくわからないが、様子を見るに、おそらくまだ、受付をしていないのだろう。
「悪いが、今日はもう疲れているんだ。それに、勝負の申請を受付でしてからにしてくれ」
私は、受付のところを指差す。
「ああ、受付が必要だったのか。遠方から来たんで、よくわからなかった。では、また、明日会おう」
そう言って男は、ローブを翻し、受付に向かって行った。私は、男をとても訝しく思った。
翌日、とても晴れた朝だった。日光がこれほどかというほど照りつける。
日光を手で遮りながら、いつもと同じように会場に向かった。
競技者席には、昨日の黒ローブの男が座っていた。
私は、男の真向かいに腰掛ける。
「ああ、本当に来たのか。あんた、名前は?」
「名前? わたしは、レイ。きみに勝利するもの」
黒ローブの男は、顔を隠しているのもそうだが、身分をとても疑わしく思った。
レイは、ニヤリと笑い、大きな声で宣言した。
「わたしがもし、このゲームで負けた場合、わたしの命をどうしようと構わない。ただし、わたしがゲームに勝った場合、わたしの言うとおりにしてもらう。どうだ?」
バチバチと視線が交錯する。
「ああ、構わない。さあ、早く始めよう」
このゲームでは、賭ける対象は、なんでも構わない。ただし、対戦相手の合意を原則している。だから、命だろうと、全財産だろうと構わないのだ。
ゲームの開始の合図である鐘がカンカンと鳴った。
レイは、迷いなく駒を進める。私もそれに倣う。
レイがどの程度やってきたのかは、わからないが、私の今までの対戦相手から考えても、腕が立つと言えるだろう。
レイが、急に言葉を発する。
「疑問に思ったんだが、このゲームで負けたことはあるのかい?」
「いや、一度も」
その返答を聞いて、レイは満足したように微笑んだ。
「では、わたしが、勝ったら、初めて君の戦績に初めて傷をつけられるというわけか」
独り満足している。
今までも傲慢なやつは、たくさんいたが、ここまでのは、珍しい。再起不能になるほど叩き潰したくなった。
私の中の炎が勢いよくこの瞬間から燃え出した。様々な戦略が頭を巡る。
——おかしい。
さっきまでは、拮抗していた。
だが、今は、どうすることもできない。
まずい……。このままでは……。
次は、ここに置こう。——まだ勝てる可能性は、残っている。
「次は、ここに置くんだろう」
レイは、わたしの考えた最適解を易々と見破った。
「……」
「ダンマリするつもりかい? まあそれがきみにとっての最善の手か」
30分は、ゆうに超えていた。ここまで続くゲームは、初めてだ。
盤面を改めて見る。誰が見ても、あちらがリードしているのが明らかだが、どこかに、隙があるはず。
親の仇でも探すかのように見る。
——見つけた。
駒を進める。この男に勝つことができる。そう思ったのも束の間、レイは、すぐそれを対処してみせた。
「——えっ?」
「まさか、これが偶然生まれた隙だとは思ってないよね?」
返す言葉がなかった。
「しかし、思っていたよりも、少し発見するのが遅かったなぁ。きみが、この隙を見つけても、勝つことができないのは、わたしがあえて、この隙を作ったからさ。当然、きみがこれを見つけることも想定内。わたしは、きみを試したのさ」
そうして、私は、私の持っているすべてを投下したのにも関わらず、敗北した。
逃げ道は、すでになかった。
目を瞑って、開けても結果は変わらない。わかっているはずなのに、しばらく結果を受け止められずにいた。最後に残ったのは、悔しさというより呆気なさだった。
観客たちもどよめいていた。私が勝つと信じて疑わなかったからだ。
レイは、立ち上がり茫然としている私を前に、手を翳した。
観客席から一人立ち上がり、近づいてくるのが見えた。
瞬間、凄まじい閃光が走った。何が起こったか、全くわからなかった。
ただ、何となく、自分の命が果てていく、そんな気配がした。




