四拍の円舞曲 外伝 ――第五の音――
第一部
「新たな旋律」
戦争が終わってから、長い年月が過ぎた。
世界は少しずつ形を取り戻していた。
崩れた街には新しい建物が建ち、失われた技術は再び研究され、人々はかつての日常を取り戻そうとしていた。
だが。
戦場だけは、完全には消えなかった。
人間が争う限り。
力を求める者がいる限り。
新しい戦士は生まれる。
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帝都北部。
古い訓練場。
そこに四人の若者がいた。
一人目は、冷静な判断力を持つ青年。
二人目は、豪快な戦闘を得意とする男。
三人目は、正確な射撃能力を持つ女性。
四人目は、観察と分析を得意とする少年。
彼らは同じ銃を持っていた。
四丁の改造拳銃。
それぞれに名前が刻まれている。
SOLO。
DUO。
TRIO。
QUARTET。
かつて存在した伝説の武器。
だが、彼らはその意味を知らなかった。
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「この銃を使えば、俺達は最強になれる」
青年が言う。
「四人で一つの戦術」
「完璧だ」
仲間達は頷く。
彼らは自分達を新しい時代の象徴だと思っていた。
古い戦争を終わらせた英雄の技術。
それを受け継ぐ存在。
そう信じていた。
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しかし。
その前に一人の老人が現れる。
白髪。
傷だらけの顔。
黒いコート。
手には古びた銃。
老人は何も言わず、彼らを見る。
「誰だ?」
若者が警戒する。
老人は答えない。
「その銃」
静かに言う。
「使い方を間違えている」
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若者達は笑った。
「古い人間が何を言っている」
「今の時代は違う」
「四人なら何でもできる」
老人は何も言わなかった。
ただ。
一歩前へ出る。
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その瞬間。
空気が変わった。
銃を構える暇すらない。
老人は四人の間を通り抜ける。
一瞬。
それだけだった。
若者達の銃は全て手元から消えていた。
「……」
誰も動けない。
「今のは」
「技術じゃない」
老人は言った。
「経験だ」
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その日。
若者達は初めて知った。
伝説とは、武器の名前ではない。
それを扱った人間そのものなのだと。
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第二部
「死神と鬼」
若者達は老人を追った。
理由は単純だった。
知りたかった。
この銃を作った者。
この戦い方を生み出した者。
そして。
老人がなぜ、あれほど悲しい目をしているのか。
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荒野。
古い車庫。
そこに二台の車があった。
一台は古い黒い車。
もう一台は巨大なハマー。
若者達は足を止める。
「まだ持っていたのか」
老人が呟く。
「何を?」
老人は答えない。
ただハマーを見る。
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夜。
焚き火の前。
若者達は老人に尋ねた。
「あなたは昔、誰と戦っていたんですか」
老人は炎を見る。
「戦っていた?」
「違う」
「共に戦っていた」
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老人は語り始める。
かつて。
自分には一人の相棒がいた。
自分とは正反対の男。
大きな身体。
豪快な笑い声。
戦場を楽しむような男。
「鬼だった」
老人は言う。
「だが」
少し間を置く。
「俺より、ずっと人間らしかった」
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若者達は聞く。
「その人は?」
老人は沈黙する。
「死んだ」
短い答え。
「俺を生かすためにな」
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若者達は初めて理解する。
老人が強い理由。
失ったものを背負っているから。
忘れられない音を抱えているから。
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翌日。
老人は若者達に戦い方を教える。
「銃を見るな」
「敵を見るな」
「戦場を見る」
「一発の意味を考えろ」
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しかし。
若者達は反発する。
「そんな古い戦い方じゃ勝てない」
「今はもっと効率的な方法がある」
老人は頷いた。
「そうだな」
「時代は変わった」
「だからこそ」
銃を構える。
「お前達は俺を超えなければならない」
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訓練が始まる。
老人は容赦しなかった。
若者達は何度も倒れる。
何度も挑む。
そして少しずつ。
四丁の銃の本当の意味を理解していく。
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SOLOは始まり。
DUOは繋がり。
TRIOは流れ。
QUARTETは完成。
しかし。
それだけでは足りない。
「四つだけでは音楽にならない」
老人は言う。
「五つ目が必要だ」
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「五つ目?」
若者達が聞く。
老人は答えない。
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第三部
「最後の音」
数年後。
若者達は一流の戦士になった。
そして。
老人を倒すために集まった。
「あなたを超える」
四人は言う。
「それが、この銃を受け継ぐ資格だ」
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老人は笑った。
久しぶりだった。
心から笑ったのは。
「そうか」
「なら来い」
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戦場。
かつての英雄と、新しい世代。
四丁拳銃対一丁の銃。
数では若者達が勝っている。
勢いもある。
だが。
老人は倒れない。
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一人。
二人。
三人。
四人。
全員の攻撃を受け流す。
しかし。
老人の動きは昔より遅い。
身体は限界だった。
若者達は気付く。
この人は。
ずっと一人で戦ってきたのだと。
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最後の一撃。
若者達が構える。
老人も銃を構える。
静寂。
そして。
老人は呟いた。
「悪くない」
「お前達なら」
「持っていけ」
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銃を下ろす。
若者達は戸惑う。
「まだ戦えるでしょう」
老人は首を振る。
「違う」
「俺の戦いは終わった」
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四丁の銃を手渡す。
一人ずつ。
大切に。
「これは武器じゃない」
「音だ」
「お前達の音を作れ」
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若者達は聞く。
「あなたの名前は?」
老人はしばらく黙る。
そして。
遠くのハマーを見る。
「名前なんて」
「もう必要ない」
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夜。
老人は一人で車に乗る。
助手席には誰もいない。
かつて隣にいた男はいない。
笑い声も聞こえない。
酒を飲み比べる相手もいない。
煙草の匂いもない。
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だが。
老人は少し笑った。
「NUTCRACKER」
初めて。
その名を口にする。
「お前がいない音には」
「価値などなかったのだな」
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車は静かに走り出す。
若者達はその背中を見る。
そして理解する。
彼こそが。
四丁の拳銃を生み出した男。
伝説と呼ばれた存在。
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老人は最後に振り返る。
「お前らならばいい」
「持っていけ」
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四つの音は。
次の時代へ渡された。
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そして。
五つ目の音は。
永遠に失われた。
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『四拍の円舞曲 外伝 ――第五の音――』
完




