表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

四拍の円舞曲

四拍の円舞曲 外伝 ――第五の音――

作者: 石山
掲載日:2026/07/13

第一部


「新たな旋律」


 戦争が終わってから、長い年月が過ぎた。


 世界は少しずつ形を取り戻していた。


 崩れた街には新しい建物が建ち、失われた技術は再び研究され、人々はかつての日常を取り戻そうとしていた。


 だが。


 戦場だけは、完全には消えなかった。


 人間が争う限り。


 力を求める者がいる限り。


 新しい戦士は生まれる。


---


 帝都北部。


 古い訓練場。


 そこに四人の若者がいた。


 一人目は、冷静な判断力を持つ青年。


 二人目は、豪快な戦闘を得意とする男。


 三人目は、正確な射撃能力を持つ女性。


 四人目は、観察と分析を得意とする少年。


 彼らは同じ銃を持っていた。


 四丁の改造拳銃。


 それぞれに名前が刻まれている。


 SOLO。


 DUO。


 TRIO。


 QUARTET。


 かつて存在した伝説の武器。


 だが、彼らはその意味を知らなかった。


---


「この銃を使えば、俺達は最強になれる」


 青年が言う。


「四人で一つの戦術」


「完璧だ」


 仲間達は頷く。


 彼らは自分達を新しい時代の象徴だと思っていた。


 古い戦争を終わらせた英雄の技術。


 それを受け継ぐ存在。


 そう信じていた。


---


 しかし。


 その前に一人の老人が現れる。


 白髪。


 傷だらけの顔。


 黒いコート。


 手には古びた銃。


 老人は何も言わず、彼らを見る。


「誰だ?」


 若者が警戒する。


 老人は答えない。


「その銃」


 静かに言う。


「使い方を間違えている」


---


 若者達は笑った。


「古い人間が何を言っている」


「今の時代は違う」


「四人なら何でもできる」


 老人は何も言わなかった。


 ただ。


 一歩前へ出る。


---


 その瞬間。


 空気が変わった。


 銃を構える暇すらない。


 老人は四人の間を通り抜ける。


 一瞬。


 それだけだった。


 若者達の銃は全て手元から消えていた。


「……」


 誰も動けない。


「今のは」


「技術じゃない」


 老人は言った。


「経験だ」


---


 その日。


 若者達は初めて知った。


 伝説とは、武器の名前ではない。


 それを扱った人間そのものなのだと。


---


第二部


「死神と鬼」


 若者達は老人を追った。


 理由は単純だった。


 知りたかった。


 この銃を作った者。


 この戦い方を生み出した者。


 そして。


 老人がなぜ、あれほど悲しい目をしているのか。


---


 荒野。


 古い車庫。


 そこに二台の車があった。


 一台は古い黒い車。


 もう一台は巨大なハマー。


 若者達は足を止める。


「まだ持っていたのか」


 老人が呟く。


「何を?」


 老人は答えない。


 ただハマーを見る。


---


 夜。


 焚き火の前。


 若者達は老人に尋ねた。


「あなたは昔、誰と戦っていたんですか」


 老人は炎を見る。


「戦っていた?」


「違う」


「共に戦っていた」


---


 老人は語り始める。


 かつて。


 自分には一人の相棒がいた。


 自分とは正反対の男。


 大きな身体。


 豪快な笑い声。


 戦場を楽しむような男。


「鬼だった」


 老人は言う。


「だが」


 少し間を置く。


「俺より、ずっと人間らしかった」


---


 若者達は聞く。


「その人は?」


 老人は沈黙する。


「死んだ」


 短い答え。


「俺を生かすためにな」


---


 若者達は初めて理解する。


 老人が強い理由。


 失ったものを背負っているから。


 忘れられない音を抱えているから。


---


 翌日。


 老人は若者達に戦い方を教える。


「銃を見るな」


「敵を見るな」


「戦場を見る」


「一発の意味を考えろ」


---


 しかし。


 若者達は反発する。


「そんな古い戦い方じゃ勝てない」


「今はもっと効率的な方法がある」


 老人は頷いた。


「そうだな」


「時代は変わった」


「だからこそ」


 銃を構える。


「お前達は俺を超えなければならない」


---


 訓練が始まる。


 老人は容赦しなかった。


 若者達は何度も倒れる。


 何度も挑む。


 そして少しずつ。


 四丁の銃の本当の意味を理解していく。


---


 SOLOは始まり。


 DUOは繋がり。


 TRIOは流れ。


 QUARTETは完成。


 しかし。


 それだけでは足りない。


「四つだけでは音楽にならない」


 老人は言う。


「五つ目が必要だ」


---


「五つ目?」


 若者達が聞く。


 老人は答えない。


---


第三部


「最後の音」


 数年後。


 若者達は一流の戦士になった。


 そして。


 老人を倒すために集まった。


「あなたを超える」


 四人は言う。


「それが、この銃を受け継ぐ資格だ」


---


 老人は笑った。


 久しぶりだった。


 心から笑ったのは。


「そうか」


「なら来い」


---


 戦場。


 かつての英雄と、新しい世代。


 四丁拳銃対一丁の銃。


 数では若者達が勝っている。


 勢いもある。


 だが。


 老人は倒れない。


---


 一人。


 二人。


 三人。


 四人。


 全員の攻撃を受け流す。


 しかし。


 老人の動きは昔より遅い。


 身体は限界だった。


 若者達は気付く。


 この人は。


 ずっと一人で戦ってきたのだと。


---


 最後の一撃。


 若者達が構える。


 老人も銃を構える。


 静寂。


 そして。


 老人は呟いた。


「悪くない」


「お前達なら」


「持っていけ」


---


 銃を下ろす。


 若者達は戸惑う。


「まだ戦えるでしょう」


 老人は首を振る。


「違う」


「俺の戦いは終わった」


---


 四丁の銃を手渡す。


 一人ずつ。


 大切に。


「これは武器じゃない」


「音だ」


「お前達の音を作れ」


---


 若者達は聞く。


「あなたの名前は?」


 老人はしばらく黙る。


 そして。


 遠くのハマーを見る。


「名前なんて」


「もう必要ない」


---


 夜。


 老人は一人で車に乗る。


 助手席には誰もいない。


 かつて隣にいた男はいない。


 笑い声も聞こえない。


 酒を飲み比べる相手もいない。


 煙草の匂いもない。


---


 だが。


 老人は少し笑った。


「NUTCRACKER」


 初めて。


 その名を口にする。


「お前がいない音には」


「価値などなかったのだな」


---


 車は静かに走り出す。


 若者達はその背中を見る。


 そして理解する。


 彼こそが。


 四丁の拳銃を生み出した男。


 伝説と呼ばれた存在。


---


 老人は最後に振り返る。


「お前らならばいい」


「持っていけ」


---


 四つの音は。


 次の時代へ渡された。


---


 そして。


 五つ目の音は。


 永遠に失われた。


---


『四拍の円舞曲 外伝 ――第五の音――』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ