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宝物の思い出
レイチェルは、窓の向こうから、帰っていくティーナとルシアーノの姿を見送っていた。
そうしながら物思いに耽っていると、昔のことを思い出す。
◆
「レイチェル、この人は、お父さんが気に入っているガラス工芸の職人さんだよ」
小さいころ、レイチェルは屋敷に招待されたルシアーノと出会った。
背筋を伸ばし、口元を引き結んで、鋭いまなざしをしたルシアーノはまだ若く、ルシアーノの前の机の上には、『氷の上で踊る女性』の彫像があった。
美しい彫像と、それを作った堅物な職人。
レイチェルは一目で、ルシアーノになにか他の人と違うものを感じた。
「(なんて綺麗な人なの)」
「レイチェル、隅にいないで、ルシアーノさんにご挨拶しなさい」
レイチェルはもじもじと前に出た。
「君が、レイチェルか」
「は、はい」
「俺の作品を気に入ってくれたら、俺も嬉しいよ」
ルシアーノはそう言って、レイチェルと握手をする。
レイチェルは、その硬い手のひらの温もりをいつまでも大切にしたいと思った。
◆
「(もう、あの温もりは別の人のものになるのね)」
レイチェルは窓に頭をつけた。
ルシアーノが幌馬車に乗り込んでいくところで、レイチェルの目に涙がこみ上げてきた。
抑えようとしても、抑えきれず、涙が一粒、目から溢れる。
けれど、それは誰にも気づかれなかった。




