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死の牢獄に、風鈴は鳴る

作者: 夢宮まな
掲載日:2025/12/15



 森の奥には塔がある。

 貴族専用の牢獄であり、一度入れられた者は二度と出られない。通称──死の牢獄。


 そこへ送られたのは、かつて王子の婚約者だった女。

 今では「悪役令嬢」と呼ばれ、すべての罪を着せられ断罪された──私だ。



 「これは?」



 私の問いに、塔の門番はにこやかに答えた。

 婚約者だった王子からの、最後の慰めだそうだ。



「お優しいことですな」



 そうしみじみ語る男を見て、私はくすりと微笑んだ。

 鉄格子のはめられた窓際には、一鈴の飾りが下がっている。



 ──風鈴。



 この世界に、風鈴という物は存在しない。

 風の音を楽しむ文化など、この国にはないのだから。

 だから、この男にわかるはずがない。


 

 "お前はここから出られない"という王子からのメッセージには。



 ……構わない。知っていた。

 私はこの塔に来るため、物語に身を委ねたのだから。




 風鈴は、静かだった。

 風が吹かないから鳴らない。鳴るはずがない。



 それでも私は、それを見つめ続ける。



 かつて異界の知識を語ったことがある。

 涼やかな音で夏をやり過ごす、小さな道具の話を。



 隣で笑っていたのは、王子だった。



 「意味のないものだな」


 そう言ってから、「だが君らしい」と付け加えた。



 意味は、ある。

 音は、扉だ。



 夜。

 大地がわずかに揺れ、塔が軋む。

 誰も気づかないほど小さな振動が、世界の綻びを叩いた。



 ちり、と。



 私は笑う。

 ──ああ、やはり。



 王子は、何も知らない。

 この風鈴は慰めになどならない。

 ましてや罪の象徴になど。


 これは、呼び鈴だ。



 かつて、この国が切り捨てたもの。

 精霊、儀式、失われた契約。

 それらはすべて、音に交わっている。


 


 私はこの塔から出られない。

 だが、ここに「入ってくる」者はいる。



 夜、風鈴が鳴る。

 一鈴、また一鈴。



 門番にはその音の意味はわからない。

 王子には、音すら聞こえない。



 ──私には聞こえる。

 精霊は、私を見ている。


 下界から外れたこの塔は、この国唯一の精霊の通り道。

 恋に狂った歪な世界で、私が自由に生きるための唯一の方法。


 鉄格子がガタガタと風で軋む音がする。

 もう間もなく契約は満ち足りる。


 さあ、エピローグを始めましょう。




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― 新着の感想 ―
とても情緒たっぷりで、とても惹き込まれました! 出られない、けど入ってくるものはいる。世界の綻び。うぉぉぉ、言葉運びが抜群にカッコ良くて痺れる…! 鉄格子に風鈴という異質な組み合わせもすごくて、映像イ…
精霊と関わることで主人公や国がどうなっていくのか、続きが気になりました。ありがとうございました!
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