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すぐ戻ると言って五年経った男が、今日も鍛冶屋の私に修理を頼みに来る  作者: くまくま


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3/3

ただいまを言わない帰還者

 王都の鐘が鳴った。昼なのに、どこか寂しい音だった。

 リゼは式典の裏で手袋を外した。呼ばれた理由は、勇者パーティの剣の点検。壇上の中央には、金の装飾を身につけたアラン・グレイ。


 鎧も剣も新品なのに、立ち方だけは変わらない。肩に力が入りすぎている。

「似合わないな」

 誰にも聞こえない声でつぶやいた。


 式典が終わり、喧噪を抜けて裏道へ。

 角を曲がると、待っていた人影。

「剣の修理を頼みたい」


 アランが、あの日と同じ旅装束のまま立っていた。

 聖剣の刃は欠け、柄は焦げている。


「式典の翌日に壊すなんて、早いですね」

「人前で笑われたくなかった」

「五年前もそうでしたね。人前で本音を言えないところ」

「……変わらないな」

「変わったつもりなんですけど」


 短い会話のあと、沈黙が落ちた。

「手紙、読んだんだな」

「ええ。炉で焼こうとしたけど、燃え残りました」

「俺も、言葉が燃え残ってた。戻れなかった」

「知ってます。あなたはそういう人です」


 リゼは剣を受け取り、刃を光にかざした。

「もう直らないかもしれません」

「そうか」

「でも、折れたところからやり直すのは得意なんです」


 アランの肩の力が抜けた。

 それは、五年前にはなかった柔らかい表情。


「リゼ」

「はい」

「ただいま」

「言わなくていいです」

 彼女は少し笑って、火を入れた。

「代わりに、また仕事をください。焦がさないようにしますから」

「そうしてくれ」


 火が再び揺れた。長い時間の後に吹いた春の風のように。


「五年遅れのすぐ戻るって、まあまあ悪くないですね」

「遅れても戻ってきていいなら助かる」

「鍛冶屋は忙しいんです。待ってる間に腕が上がりました」

「なら、また折っても大丈夫だな」

「できれば、折らないでください」


 二人の笑いが火花の音に混じった。

 剣が光を取り戻すころ、もう言葉はいらなかった。

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