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第二話 何かいい策ねぇか!?

 大臣との通信を終えた後。

 俺はキッチンで朝食の準備をしながら、頭の中で必死に策を練っていた。


(魔力のない人間が魔法を使う方法は、魔道具を利用するのが定番だ。魔石がハマった指輪とかの装飾品を身に付けて、魔石の魔力を消費し魔法を使う)


 魔力の質は魔石の質に左右されるし、使える魔法も魔道具の質に左右される。けどそれより何より、一番のデメリットは消耗品って事と……定番すぎて、身に付けてりゃ直ぐにバレる事だ。魔道具での不正はまずできねぇ。

 そもそも俺、装飾品系の魔道具持ってねぇし。これから買いに行くにしても怪しまれる。今まで魔道具に頼った戦闘をしてこなかった俺が、いきなりお買い求めとか不自然極まりないからな。俺の顔は王都に知れ渡っているからこっそりお忍びで、って訳にもいかねぇ。

 ……。今後の為に擬態魔法覚えるか? 俺が使える魔法の大半って戦闘魔法か、戦闘を補助する魔法に偏っているからなぁ。


(いやいや! 今はそれよりも魔力偽装だ! 魔力偽装! 何かいい策ねぇか!? ……ん? でも大臣や騎士はミリィが能力使っている姿を見てないよな? ……それなら、まだ間に合うんじゃないか?)


 フライパンで目玉焼きを作りながら、俺はふと気付きを得る。


(ミリィが魔力持っていると思ったのは俺の勘違いだった、って言い張れば、通るか? 俺の弟子じゃない方が、ミリィも静かに暮らせ……)

「クロししょー……」

「うおっ!?」


 いつの間にか背後にパジャマ姿のミリィが立っていて、俺は大袈裟に肩を揺らした。

 足音しなかったぞ、どうなってんだ。

 俺は心臓がバクバクになっているのを自覚しながら、その動揺を悟られないよう笑顔を顔に貼り付けて、ミリィに話しかける。


「ミリィ、起きたのか。いま朝飯作ってるから、先に顔洗って……」

「ミリィ、クロししょーのでしじゃなかった……?」


 だがミリィは俺の話を聞かずくしゃっと顔を歪ませて、金色の目を潤ませ始めた。

 しまった! 聞かれていたか! ミリィには心の声が筒抜けなんだ、ミリィが悲しむ事を迂闊に考えるなよ、俺っ!


「その、ミリィ、今のはな……」

「ミリィのまほー、すごいっていってくれたけど、ちがった……? できないこだった……? だめなこだった……? ……ミリィ、クロししょーのでしに、なれない……?」


 ミリィの目にはどんどん涙がたまっていって、声も震え、小さな手がきゅっとパジャマの裾を握る。


「う、うわぁあああんっ!」


 そしてとうとう限界がきて、ミリィは大声で泣き出してしまった。

 直後、テーブルに並べていた食器がひとりでにふわりと浮かび上がる。


「なっ!?」


 パリンッ! ガシャンッ!

 コップや皿は宙を舞い、壁にぶつかって砕け散った。リビング窓ガラスも、いきなりヒビが入ったかと思ったら割れ、家の外に中に破片が散乱する。ナイフやフォークも虫みたく飛び上がって、天井に勢いよくぶつかった。


(何だこれ!? これもミリィの能力なのか!?)


 ゴースト系モンスターが扱うポルターガイストみてぇだ! そういえば禁書にも『おもちゃをうかせたり』とかいう記述あったな!? このことか!?

 しかもミリィの泣き声が大きくなるにつれ、力は強くなるみたいで、食器とかの軽い物だけじゃなく分厚い魔導書まで浮かび上がり、縦横無尽に飛び交い始める。

 このままじゃミリィ自身も怪我するんじゃ!? 早く止めねぇと!


「ミリィ! 聞いてくれ!」

「うっ、ぅ、うぇえええ!」


 俺は泣き続けるミリィに抱き付き、努めて優しい手付きで頭を撫でた。


「悪かった! お前を危険から遠ざけようとか、勝手な親切心でお前の気持ちを蔑ろにしちまった! ミリィは俺の弟子になりたいんだものな! 安心しろ、ミリィは歴とした俺の弟子だ!」

「ひっ、ひっ、ひぐっ。……ほんと?」

「あぁ! 誓って言う、ミリィは俺の弟子だ! 何度でも言ってやる! ミリィは俺の弟子で、俺はミリィの師匠だ!! だから悲しむ必要はないぞ、ミリィ!」

「うん、うん……っ!」


 ミリィはまだ涙をこぼしているものの、大分気持ちが落ち着いたみたいで泣き叫ぶ事はしなくなった。

 するとそれと連動するかのように、ポルターガイストらしき現象も収まる。どうやらミリィの能力は、感情と直結して発動するみたいだ。


(勝手に能力が発動する仕組みなら、魔力なしとして秘匿するには無理がある。なら弟子として、力の扱い方を学んでいく方が安全だ)


 これだけ強力な力があるんなら、隠すより魔法っていう体で大っぴらにした方が、ミリィを守る事に繋がる。

 ミリィの能力をちゃんと把握しておけば、万が一、何かあっても「俺がやった」って庇う事もできるだろうし。


(それに何より、ミリィ自身が俺より弟子になりたいと願っている! そもそもミリィの魔法を褒めて、弟子に勧誘したのは俺だろう! 口に出したことはちゃんと責任取らねぇと!)


 きっとミリィは俺に披露した魔法(擬き)を褒めて貰った事が嬉しくって、自分の力を認めて貰えたと思っていて、それを誇りとして胸に抱いていたんだ。

 なのに、凄いやら逸材やら天賦の才やら、さんざっぱら持ち上げといて後から否定するなんて、最低最悪もいいところじゃねぇか。

 これじゃスラムを縄張りにしていた奴ら……俺を持ち上げて調子乗らせて、都合よく利用するだけして捨てた、俺のかつての雇い主らと何も変わらねぇ。クズだ、クズ。

 ――受け入れろ。ミリィの全部を。


(腹くくれ! クラウディオ・バートン!!)


 俺はミリィの師匠だ! 魔力の一つや二つ、誤魔化してみせる!!

 そうと決まれば……っ!

 俺は持ちいる知識を総動員して思考を巡らせ、一つの手段に辿り着いた。それからミリィから身体を離し、真っ直ぐ見つめてこう告げる。


「よし、ミリィ。朝飯食ったらピクニックに行くぞ」

「ぴくにっく……?」

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