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バレたら火炙り!?宮廷魔法師とエスパー少女の『偽魔法』師弟生活!  作者: 天海二色
第一章 宮廷魔法師クラウディオ、クロししょーになる
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第三話 でしにしてくださいっ!

 どうしたもんか。

 大臣に啖呵を切って宮廷を飛び出した俺は、早速途方に暮れていた。ツテなんてないからな。


 そもそも俺の出身はここ王都じゃなくてもっと郊外、エルデラン王国最北端の辺境都市だ。いつだったかに起きた国境紛争の爪痕が、今でもあちこちに残ってる。俺もその戦争で親を失ったクチで、物心つく前には、もう一人きりだった。

 あの街は、昔は立派な要塞都市だったらしい。けど今じゃ見る影もねぇ。

 難民、敗残兵、流れ者。そんな行き場をなくした連中が、国の隅に寄せ集められてできた掃き溜めだ。


 見かけだけはそれなりに整ってて、街としての体裁は一応ある。でも中身はボロボロだ。

 治安はないに等しいし、食い扶持を得る手段もろくにねえ。そんで、そんな連中を「救う」って名目で、貴族どもが仕事を回してくる。

 荷運び、遺跡掘り、モンスター退治。どれも命の保証なんかありゃしねぇ汚れ仕事ばっかだ。

 なのに報酬は雀の涙、それでいて税金だけは一人前にむしり取られる。あいつらは街の中心で、安全な屋敷に籠って、ぬくぬく暮らしてるだけ。

 それでいて、「慈善活動」だの「平民救済」だの、白々しい看板を掲げやがる。

 あの街で生き延びるってのは、誰かに守ってもらうことじゃねえ。人より先に動いて、人より先に殺すってことだ。


 俺が魔法を覚えたのも、ただ――死にたくなかったからだ。


(そういや、王都にもスラムがあるんだっけな)


 人が集まる場所には、必ず格差が生まれる。人口が密集してる王都じゃ、それも顕著だ。

 俺の足は自然と城壁の外縁に向かっていた。そこには表社会から取りこぼされた、爪弾きものが集っている。


 王都のスラムも酷いもんだ。

 俺は眉間にシワを寄せ、目付きを鋭くした。辿り着いたスラムは廃墟や違法建築が密集していて、細い路地には足の踏み場がないぐらいゴミが散乱している。

 右を見れば物乞い、左を見ればゴミ漁り。細々と物売りや飯屋をやってる奴もいるみてぇだが、品質はお察しだし、ろくな稼ぎにならねぇだろう。どっかから喧騒も聞こえる。盗みか? 縄張り争いか?


(けど、懐かしいな)


 俺はこんな、明日生きられるかどうかも分からねぇ底辺から這い上がった。

 雇い主観察して文字や算術を覚えて、図書館の残本を盗み読んで、魔法書のページ写して、必死に練習して、チャンスがありゃ死に物狂いでしがみついて、やっと手に入れたんだ。『宮廷魔法師』っつう地位と安定を。

 失う訳にゃいかねぇ。

 俺に魔力があったんだ、ここにも一人ぐらいいるんじゃねぇか? 貴族やボンボンより、よっぽど骨のある奴がさ。ちょっと彷徨いてみるか。

 弟子にできそうやつ、弟子にできそうなやつ、弟子、弟子、弟子……。


「あのっ!」


 ん? テキトーに歩いてたら、なんか足元から声が飛んできた。


「でしにしてくださいっ!」


 いつの間にか目の前に子供がいる。女の子だ。五歳くらいか?

 ボロをまとったガリガリの体つき。でもミントグリーンの髪は泥まみれでも色鮮やかで、金色の瞳には真っ直ぐな力が宿っている。不思議な子だ。

 てか今「弟子にしてください」って言ったか? 考えすぎて口に出てたかな、俺。


「えっとだな、俺は魔力を持ってる奴を弟子にしたいと思っていてだな……。そもそもお嬢ちゃん、魔法ってわかるか?」

「まほー! つかえます!」


 そう言うと女の子はくるりと横を向いて、小さな両手を前に伸ばした。


「えいっ!」


 そして指先から小さな火を玉を出し、廃墟のレンガにぽすんとぶつけた。


「……っ!」


 それを見た俺は瞠目する。

 風が吹けば消えそうな火だったし、実際すぐに消えちまったが、問題はそこじゃない。


(この子、無詠唱で魔法を使いやがった!)


 無詠唱で魔法を使うなんて俺でも難しいんだぞ!? しかもスラムじゃ魔法に触れる機会なんてほぼ皆無のはずだ! 独学でここまで!? それとも天賦の才か!?

 こんな逸材がスラムにいただなんて!

 俺はゴミの上に膝をつき、思わず女の子の肩に手を乗せた。そして興奮気味で話し出す。


「お嬢ちゃん! 名前は!?」

「『ミリィ』です!」

「ミリィか! よしミリィ、君を弟子にする話を進めよう!!」

「ほんとうですか! がんばったらごはん、もらえますか!?」

「あぁ、幾らでも援助してやる!」

「やったぁ!」

「それで両親、ええと、お母さんやお父さんはどこかな?」

「えっと、ママとパパ、いません」

「……そ、うか」


 その子の言葉に、胸の奥がズンと重くなる。落ち着け、スラムじゃ珍しい話じゃないだろ。

 けどこんなに小さいんだ、何かしらのコミティには属してるはず。でなきゃ、生き延びられねぇ。


「じゃあ保護者はいるか? ご飯わけてくれる人とか、お家に住ませてくれる人とか」

「えと、いません」


 ……いない?


「ミリィこないだまでコジインにいたけど、おいだされちゃって……。ごはん、おちてるのたべてました。おうちは、あそこです」


 そう言ってミリィが指差した先は、廃材を雑に組み合わせて作られた、犬小屋のような物置き。

 あそこで雨風凌いでたってか?

 そもそもこんな小さな子を追い出す孤児院って何だ。同情誘おうって、嘘ついているようにも見えねぇし……。

 くそ、気分が悪い。


「ごめんなさい」

「ん? 何で謝るんだ?」

「……ミリィ、いやだった?」


 ミリィはしょんぼりとうつむいて、涙をこらえるように目を潤ませている。

 げっ! 俺そんなに険しい顔してたか!? 女の子泣かせるとか最低だろ!


「違う違う! お前のせいじゃない!」

「……ほんと?」

「あぁ! だから泣くな! ええと、そうだ飯! 飯食いに行こう! 腹減ってるだろ!?」

「ごはん!」

「そう、ご飯だ!」


 弟子にする云々の前に、この子にまともな生活を与えねぇと。あ、これが慈善事業ってやつか。へっ、貴族どもめ見てるか? やってやったぞ。

 俺はミリィの小さな手を握って、スラムの外へ向かって歩き出した。


「好きなご飯あるか? 何でも食わせてやるよ」

「えっと、えっと。ミリィ、パンのみみ、すきです!」

「それご飯って言わないな……。あーっと、ひとまず俺おすすめの飯屋連れてってやる」

「わぁいっ!」


 満面の笑みを浮かべて喜ぶミリィに、俺もつられて笑っちまう。素直でいい子を拾えて、幸先が良さそうだ。

 これで俺の公認弟子にできれば、大臣も黙らせられるし貴族連中の見る目も変わるはず。まぁ最悪、弟子にできなくても「スラムの孤児に手を差し伸べた」って評価はつくだろ、多分。


 ――なんて、この時の俺は呑気に考えていた。

 まさかこの出会いが俺の人生をかき回す嵐になるなんて、夢にも思わなかったんだ。


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