第六話 面白いものを見せてもらったわい!
「あの〜……。グレゴリー大臣、ちょーっといいですか?」
ミリィがセレニウスさんの熱心な取材を受けている横で、俺は大臣の側にそろそろと忍び足で近付き、恐る恐る声をかけた。
カミルが激写している、粉々になったミスト・クリスタルに目をやりつつ。
「なんじゃ、そんなに畏まって。クリスタルを壊してしまった事なら気にせんでよいぞ? 優秀な魔法使いは歓迎すべきことじゃからな」
備品壊したってのに懐が深いなぁ、大臣。
俺が知りたいのはそこじゃねぇけど……!
「そのぉ、ミリィは水晶でも測定したんだけど、その時は壊れたりとかしてなくって……。寧ろ低い数値が出てたのに、何でクリスタルが壊れたのかなぁって……」
「あぁ、わしのお古の。あれは測れる魔力量の上限が非常に高い代物でのぉ。とびきり頑丈なんじゃ。その代わり数値の表示が大雑把すぎてな。ミリィほどの幼子ならば、だいたい『十五』で固定されてしまう」
「じゅ、じゅうご……」
……俺、桁一つ間違えた?
「並みの魔法師でも百に届かぬことが多い。そもそもあの水晶のポテンシャルを引き出せるのが、おぬししかおらんかったから譲ったのじゃ」
え? 俺はあの水晶を貰った時、「大臣、気前いいなぁ」なんて思ってたんだが……。
実際は宝の持ち腐れと言う名の、不用品の引き取り先のつもりだった? まさかの?
「それに比べ、ミスト・クリスタルは微細な魔力を高精度で分析できる。特に幼年層の測定に適していてな、王立学園の入学試験にも使われいるぞ。そこで多くの魔法師の卵が、ミスト・クリスタルに触れるのじゃが……。まさか、おぬしの弟子が“測定不能”の結果を出すとは! 面白いものを見せてもらったわい!」
「は、は、はは……」
「そうかそうか! おぬしも誇らしいか!」
もう乾いた笑いしか出てこない。
『ミリィの魔力偽装ミッション』、それ自体は成功した。喜ばしいことだ。
が、下調べを怠った俺のポカによって、ミリィが「規格外の逸材」と認識されてしまったのは大失敗だ。
しかも大臣立ち合いの公式測定というお墨付き付き。これじゃもう取り消せねぇ。
俺の馬鹿……っ!!
「クラウディオさま、よろしいですか?」
「おうっ!?」
俺が今にも膝から崩れ落ちそうな衝撃を耐えていると、セレニウスさんに話しかけられて大声を出しちまった。
どうやらミリィの取材は終わったらしい。テーブルに転がってたクリスタルの破片も、いつの間にか綺麗に回収されている。
「ミリィさまから、クラウディオさまと出会ったいきさつを聞かせて頂きました。曰く、一目で才能を見抜いたのだとか。そこで是非とも、貴方さまの洞察力に焦点を当てた取材を……!」
「セレニウスさん、セレニウスさん! 【期待の新星現る!】って見出しどうですか!? 【最強の魔術師は弟子も最強!】とか! 【伝説の始まり!】なんてのもいいんじゃないですかね!?」
「カミル、声量を抑えろ。それから、そのような品性の欠ける表現は修正しろと言っているだろう」
「え〜。駄目ですか〜? わかりやすくてキャッチーなのに……」
不満げに唇を尖らせるカミルを軽く睨みつつ、セレニウスさんは彼をきっちり嗜める。さすが上司だなぁ。
そのまま今度は俺への取材が始まった。弟子探しの目的地にスラムを選んだ動機とか、ミリィの魔法を初めて見た時の感想だとか、あの子にどんな将来性を見たのだとか、どんな成長を望んでいるのだとか、どんな魔法教育を施す予定なのかとか。
根掘り葉掘りめっちゃ聞かれた。あと俺は顔出しオーケーなもんだから、カミルの魔写機がこれでもかとシャッターを切る。ポーズも何も取ってねぇのに、無遠慮に何十枚も撮りやがる。俺はモデルでも人気俳優でもないんだけどな……。
そんなこんなで、みっちり一時間。取材が終わる頃にゃ、受け答えの連続とカメラの連射音に、俺の精神と体力はゴリゴリ削られていた。
「グレゴリー大臣、クラウディオさま。そしてミリィさま。お忙しい中、お時間を割いていただき、本当にありがとうございました。本日の取材内容は私、セレニウスが責任を持って執筆いたします」
最初に玄関を出たセレニウスさんは、俺たちに向かって深々と深々と頭を下げた。それからカミルも、ワンテンポ遅れて頭を下げる。
「最初に言ったけど、ミリィの名前や顔は絶対! 載せないでくれよ?」
「勿論です。許可のない個人情報の公開は、宮廷広報室の信頼を損なう行為。万象の女神に誓い、決していたしません」
「それはそれとして定期的に取材来ていいですかー?」
「は?」
カミルの無遠慮すぎる提案に、俺は思わず間抜けな声を漏らした。
が、直ぐに拒否した。
「いや断るが?」
「えぇ〜っ!? お弟子さんの成長、記録したくありませんか? 自慢したくありませんか!? 未来に語り継ぎたくありませんか〜!?」
「大っぴらに残す気はねぇよ」
「そんなぁ〜! 今後のお弟子さんの活躍、追っかけたいのに〜っ!」
「お前、俺の家出禁にするぞ?」
「こら、カミル!」
最終的にカミルはセレニウスさんに引き摺られる形で、俺の前から消えた。多分、直ぐにでも記事作りに取り掛かるんだろうな。
……できればもう二度と来ないで欲しい。
「思ったよりも長居をしてしもうたのぉ」
「俺が取材受けている間、ミリィの相手をして貰って助かったよ。ほら、ミリィもお礼を言いな」
「グレおじいちゃん、きょーはありがとうございましたっ!」
「よいのじゃ、よいのじゃ」
俺とミリィは「また様子を見に来るからの〜」と手を振って帰る大臣を見送り、リビングへと戻る。
もう昼になるが、飯を作る気が起きねぇな……。外食しちまうか。
「クロししょー、おそとでごはんたべるんですか?」
「ん? あぁ、心を読んだんだな。そうだよ、なんかドッと疲れちまったから、どっかの店ですませようと思ってな」
「じゃあミリィ、おるすばんしてますっ!」
「留守番? 何でだ、ミリィも一緒に……」
「……ミリィがいると、おみせはいれないから……」
そういって、ミリィは手でスカートの端っこをきゅっと掴み、頭を俯かせた。
……あぁ。前にレストラン街にミリィを連れていった時、門前払い食らったからか。
そこで俺はミリィをヒョイっと抱き上げて、腕の中で頭を撫でてやった。そんでそのまま玄関から家を出て、片手で鍵をしめる。
「クロししょー? ミリィ、おるすばんって……」
「必要ねぇよ。今日はミリィ、初めて会う人の前でめちゃくちゃ頑張ったんだ。めいっぱい美味いもん食おうな」
「で、でもっ、おみせはいれないよ? きたないって、いわれちゃう」
「今のミリィは王都一綺麗だぞ? 朝風呂も入ってたし、おニューのスカート履いておめかししたろ? 寧ろ貴族の令嬢に勘違いされちゃうんじゃねぇかなぁ」
「そ、そうですか……?」
「あぁ! お姫さまだ、お姫さま!」
そう言ってあげると、ミリィはほっぺを赤くして俺の胸に頭を押し付けてきた。照れてる。可愛い。やっぱ天使だな。
こんなに愛らしい姫君の入店を拒否する店なんてあるだろうか。いやない。ま、どっちにしろ前に入店拒否してきた所に行く気は毛頭ねぇけど。
「さぁ、プリンセス。貴女の舌を満足させられる名店まで、俺がエスコートして差し上げましょう」
「クロししょー、ちょっと、はずかしいです……。……でも、ミリィ、うれしいです」
俺が芝居ぶった台詞を口にしたら、ミリィは控えめに微笑んでくれた。この笑み一つで今までの疲労が吹き飛ぶ。
ミリィには癒しの才能まであったのか……っ!
(昼飯がすんだら、ミリィにケーキ食わせてやろ。喜んでくれるといいなぁ)




