8 デートの下見
翌朝。
侍女に朝の支度を整えてもらう。
「……アイヴィアナ殿下」
「ジークハルト殿下から、ね」
手紙を受け取る。
内容は、今日も朝食を共にとれないという謝罪とお決まりの大切の言葉だった。
本当に大切なら。
(どうして、食事を一緒にとってくれないの)
胸の内からどろどろとした醜い言葉が出そうになり、慌てて口を押さえる。
「それから、こちらも」
侍女から、花束を渡される。見事な紫を中心にした花束からは、芳しい香りがする。
ジークハルト殿下が、選んでくれたのだろうか。
(……なんて、馬鹿みたい)
そんなはずはない。
食事を共にとれないほど忙しい彼が、花を選ぶ余裕はないはずだ。
「アイヴィアナ殿下は、愛されておいでですね」
侍女が豪華な花束を見てうっとりとため息をつく。
「……そうかしら」
本当に愛されているなら、ヒロインになる必要はない。
「ええ、そうですよ」
安心させるように微笑んだ侍女に、申し訳ない気持ちになる。
(……ごめんなさい。私の侍女をしてても、将来は暗いままだわ)
せめて次の働き口では、いい待遇を受けられるように、紹介状を出せるようにしておこう。
内心でそう決めて、小さく微笑む。
「アイヴィアナ殿下、食事の後は、どうなさいますか?」
「そうね……今日も自室で大人しくしておくわ」
嘘だ。
3番街に行って、明日のジークハルト殿下とのデートに備えなければならない。
私は、3番街のお店なんて詳しくない。
平民が行きそうで、なおかつ、品のあるお店を探すのだ。
「かしこまりました」
◇◇◇
食事の後。
またクッションを自分の姿にしてベッドに寝かせて、城を抜け出す。
「ええと……3番街はこのあたりだけれど」
待ち合わせ場所にした噴水前は、すごい人だかりだった。
「明日……ちゃんと合流できるかしら」
不安になりつつ、今日の目的である飲食店を探す。
「うーん」
人通りが多い3番街では、どのお店も混んでいて、ゆっくり話せそうにない。
ハンカチのお礼だから、飲み物と軽い食事がいいと思ったけれどーー。
(これは予想外ね……)
下見したおかげで、3番街の実態を知ることができたがーー。
「もし、そこのお姉さん」
「!?」
急に後ろから肩を叩かれて、飛び上がる。
「驚かせてごめんね。昼食のお店はお決まりかな?」
(客引き、かしら)
振り向くと、人好きそうな青年が立っていた。
青年は、この国では珍しい銀髪だった。
「……いいえ」
お店を探して困っていたくらいだ。
「だったら、うちはどうかな?」
青年はにっこり微笑むと、少し先の通りを指差した。
ここからでは文字が読めないが、確かに飲食店らしき看板が出ている。
「あなたのお店は、ゆっくり話せそうな場所なの?」
「もちろん! それに、あなたみたいな可愛いお姉さんならサービスするよー」
(……どうしようかしら)
迷ったものの、このままでは明日の店が決まらない。
「お願いするわ」
「はーい。じゃあ、可愛いお姉さん、ごあんなーい」
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