6 成り代わり
ジークハルト殿下は、じっと私を見つめている。
(なになになに!? 私、なにかしたかしら?)
私は内心で滝汗を流しながら、微笑んだ。
「どうかなさいましたか?」
「……あぁ、失礼」
ジークハルト殿下は微笑むと、ハンカチを差し出した。
「こちらを落とさなかっただろうか?」
薄桃色のハンカチは確かに私のものだった。
今日の目的は、ヒロインを探すことだ。
ジークハルト殿下と会うことではない。
(でも、これは、チャンスかもしれないわ)
なぜジークハルト殿下がここにいるのかは、わからない。
でも、ヒロインとジークハルト殿下はまだ出会っていない頃のはずだ。
(今なら……成り代われる)
「ありがとうございます、私のものです」
私は、ハンカチを受け取った。
「君……」
「どうされましたか?」
「あぁ、いや。君は、よくここにいるのか?」
「いいえ」
首を振る。
ヒロインの存在は確認できていない。
それでも、なるべくジークハルト殿下からヒロインを引き離したい。
「では、どちらに?」
「そうですね……3番街のあたりです」
3番街は、ここから遠い場所だった。
「騎士様は、普段どちらにいらっしゃるんですか?」
騎士と呼んだのは、ジークハルト殿下の格好が騎士に見えなくもなかったから。
「私は……そうだな、私も3番街のあたりだ」
(……もしかして、好感触?)
3番街は人通りが多いから、お互い見知らぬ人でも通じはする。
でも、目の前の人物は騎士ではなく、ジークハルト殿下なのだ。
それなのにわざわざ、3番街の騎士というなんて。
「あら、偶然ですね! ……騎士様はーー」
「ハルトと呼んでくれ」
「わかりました、ハルト様」
ジークハルト殿下にあっさり、別の愛称を呼ぶことを許される。
なるほど、これが、ヒロインに近い見た目の効果か。
(……悲しいけれど、仕方ないわ。自分で選んだことだもの)
「ハルト様、また3番街でお会いできますか? ハンカチのお礼がしたいのです」
「それは……構わないが」
「では、明後日のお昼はどうでしょう?」
ジークハルト殿下が頷いた。
「では、噴水の近くでお待ちしております」
そう言って立ち去ろうとする。
「……待ってくれ」
(……手、久しぶりに触れた)
「?」
「君の、名前を教えて欲しい」
「ーーエステル。エステルです、ハルト様」
エステル。それこそが、ヒロインの名前だった。
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