5 いざ、町へ
食事の後。
自室に戻り、侍女に今日は自室で過ごすので、一人にして欲しいと頼んだ。
食事を共にとれなくて、気落ちしているのだろう、と察してくれた彼女は、頷いた。
「……さて」
私は今からすべきことがある。
本当にヒロインがいるのか、検証するのだ。
そのためにまずは、聖力で自分の姿を変える。
「……いい感じだわ」
鏡の前で、くるりと回る。
ヒロインと同じ金髪に青目。
でも、顔立ちは違う。
もし、ヒロインが存在した場合、ややこしいことになるからだ。
そして、次に、聖力でその辺りにあったクッションを私本来の姿の人形にする。
当然、元はクッションなのでとっても軽い。
そのクッションを自室のベッドに寝かせて、布団を被せる。
これで疲れて寝たと思わせるのだ。
「準備は万端ね」
あとは、この力で王城を抜け出し、ヒロインがいる街にいけばいいだけ。
(それにしても、聖力って、チートだわ)
そんなチートなアイヴィアナの破滅がどうやっておこるのかというと。
同じくチートな力を突如授かったヒロインとジークハルト殿下により断罪、毒杯コースというわけだ。
目には目を、歯には歯を。チートにはチートを、というわけだ。
「――」
聖力で移動しようとして、ふと、鏡の前で立ち止まる。
まっすぐな金髪も、澄み渡る青の瞳も。
私とは、全く違う見た目だ。
当然、それを意図してこの姿にしたのに。
(……本当に、それでいいの?)
でも、このまま私がジークハルト殿下に愛されることはない。
(……でも、神様の悪戯が私に起きたのは、きっと、そう教えてくれたのよ)
たとえ、本当の姿でなくても。
――偽物でも、ジークハルト殿下からの愛が、欲しい。
それだけが、私の願いだ。
「だから……いいのよ」
鏡の前で微笑む姿は可憐で、悪女な私とは似ても似つかない。
「……さぁ、行きましょう!!」
◇◇◇
ヒロインの住居は王都の外れだ。
他の町ではないのは、あまり王城から遠すぎると、ヒーローであるジークハルト殿下との逢瀬に障りがあるからだろう。
聖力でその周辺まで、移動する。
(……王都の外れも、ちゃんと整備されているのね)
そんなことを考えながら、舗装された道を歩く。
かれこれ、二十分はその周辺を歩いた後。
(どこかしら)
完全に、迷ってしまった。
ヒロインの家は王都の外れと書かれていたけれど、そのどこかは、詳細には描かれていなかった。
(ヒロインの名前を聞いて回る? それって、騎士団に不審者として通報されないかしら)
「……そこの女性、待ってくれ」
周辺に女性は、私しかいない。
「……?」
思わず、振り向くと――。
「――」
漆黒の髪に、星を砕いたような金の瞳。
お忍びなのか、いつもの絢爛な服とは違い、平服だけど――。
(じ、じじじ、ジークハルト殿下!?)
私との朝食会を仕事が忙しいとの理由で断ったジークハルト殿下が立っていた。
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