23 見惚れるほどに
「これは、先日のお店で客引きを頼まれまして……」
「客の君が、客引きを?」
ジークハルト殿下が怪訝そうな顔をした。
その通り! ジークハルト殿下とのデートスポットを教えてもらうために、客なのに客引きをしているーーなんて、いえるはずもない。
「ええと……、ずいぶん困っているみたいで」
嘘だけど、嘘じゃない。
ユーリンは確かに困っていた。
「そうか。君はーー優しいな」
ジークハルト殿下は、柔らかく微笑んだ。
優しいその笑みに胸が痛む。
(ううっ、眩しい……。罪悪感が……)
もちろん、無報酬なら優しい! となるけれどーー。
(私の利点がある時点で、優しいなんていないわよね……それに)
それに、そもそもお客を3人は連れてくると言って、このざまだ。
3人どころか、1人さえも連れ帰れてない。
自分の不甲斐なさに、ため息をつきそうになる。
「あの……アーー」
「あ?」
イオリが何かいいかけ、速攻でカラムに口を塞がれた。
「いえ! それならば、我々がそちらにお伺いします」
「え? ……カラム様たちが?」
正直、非常に助かる提案ではある。でも、ジークハルト殿下たちは何か用事がったのではないだろうか。
「さま……ゔぉ! ……ごほん!!」
そう考えていると、今度はイオリにどつかれていた。
(この2人、戯れ合うようなタイプではなかったはずだけど……)
「私の同僚が、騒がしくてすまないな」
「いえ!」
申し訳なさそうに眉を下げたジークハルト殿下に首を振る。
「仲がよろしいんですね」
「まあな」
ジークハルト殿下は頷くと、さりげなく、看板を私の手から奪った。
「……ハルト様!?」
さすがに明かされていないとはいえ、王太子殿下に看板を持たせるわけにはいかない。
(看板を取り戻さないと……!!)
けれど、聖力を使えない私なんて、所詮は非力な小娘だ。
あっさりかわされ、代わりに空いている方の手で、私の手を握られる。
「!? ……っ」
「気になっているひとに、重いものを持たせる男はいないよ」
(ーーああ)
かっこいい。
そして、どうしよくもなく、眩しく。
どうしようもなく、不毛だった。
(その言葉が、その笑みが、本当の私に……アイヴィアナに、むけられたものだったのならーー)
じわ、と涙が滲みそうになる。
それを令嬢ーー今は王太子妃として培った技術で、抑え込んだ。
だって、エステルなら、今、ここで泣かない。
エステルなら、きっとーー。
「……嬉しいです」
笑って見せる。
誰よりも何よりも、可愛らしく、可憐に見えるように。
無邪気に、純真に、愛らしく、王太子さえも、見惚れるほどに。
(ーー心がバラバラだわ)
父に、お前は聖力だけが取り柄だ、と言われた時よりも。
母に、なんて醜い心根なの、と叫ばれた時よりも。
ずっと、ずっと、心が痛い。
自分で望んで、首を絞めている。
愚かだと知っている。とんでもない馬鹿げたことだとわかっている。
それでも、私は演じ続けるのだ。
エステルの仮面は捨てられない。
だって、そうでなければーー私はこの恋を失う。
私の唯一の煌めきを。私の全てを。
それだけは、嫌なのだ。
仮初でも、偽物でも、何一つ本当のアイヴィアナには与えられなくても。
それでも、私のエステルにくれるなら。
私は、この恋を手放さずに済む。
「ーー……」
ゆっくりと、ジークハルト殿下が瞬きをした。
「ハルト様?」
触れた熱を忘れる事のないように、手に意識を集中させながら、首を傾げて、私は微笑む。
「……いや」
短く首を振ったジークハルト殿下は、手を離した。
「えーー」
だめだった?
エステルになりきれなかった?
私の、醜い心が見透かされてしまった?
ぐるぐると回る思考を顔に出さないようにすることに精一杯で、エステルらしく振る舞えない。
私が最も考えるべきことは、エステルならどうするか、なのに。
ーーふに。
「!?」
ありえない感覚に、思考が一気に吹き飛ぶ。
ーーふにふに、むにゅ。
「…………え?」
ジークハルト殿下の黄金の瞳を見つめ返す。
とてつもない真剣な瞳で、左頬に触れるーーいや、頬を揉まれていた。
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