19 たとえ惨めでも
「……はあ」
自室に戻り、息を吐く。
せっかく私が私として参加した朝食会。
それなのに……台無しにしてしまった。
(私がエステルじゃないから……)
もし私がエステルのように、可愛げがあったら。
もし私にエステルのように強欲とは対極の無垢さがあったのなら。
今でも、ジークハルト殿下は私に愛称で呼ぶことを許してくれただろうか。
気になると言ってくれただろうか。
「仕方ないわ」
私はアイヴィアナでしかない。
聖力には過去に戻る力はないーーと思う。
実際にしたことがないからわらないけれど、たぶん、ない。
だから、私は今を生きるしかなくて。
やらかしたら過去は変えられない。
それでも、誰にも渡したくない。
ジークハルト殿下に愛されるのは、私がいい。
右手をぎゅっと抱きしめる。
今朝、ジークハルト殿下に握られた手の熱は、もう残っていない。
「好き……なの」
どれだけ惨めでも。偽りでしなくても。
(あなたが好きだから、だから、私はーー)
「……計画を立てなくちゃ」
ジークハルト殿下にエステルとして会うのは、三日後。
その三日後のデートで、ジークハルト殿下を楽しませて、もっと「エステル」を気にかけるようになって欲しい。
そしてーー。
(……好き、になって欲しいわ)
物語のジークハルト殿下がエステルに恋をしたように。偽物エステルである、私を好きになって欲しい。
そのために、デートでは何をすべきだろうか。
「ただ会うだけじゃ、つまらないわよね……」
エステル(私)は、毎日ジークハルト殿下と会えるわけじゃない。
交流を深めるのはもちろんだけど、エステルといて楽しい、と思ってもらう必要がある。
物語の中のエステルは、ジークハルト殿下と色んな場所に行っていた。
よく落ち合うお店は決まっていたけれど、一緒に食事を摂った後、ジークハルト殿下と出かけるのだ。
「羨ましい……」
胸の中で物語のエステルに対する嫉妬の炎が燃え上がる。
(なんで、どうして妻たるアイヴィアナじゃないのーーなんて、私が一番わかっているのに)
ふと、姿見が目に入った。
血のような真っ赤な瞳に、紫の髪。
エステルとは似ても似つかない、悪女の私。
「……でも、今は私がエステルだもの」
今、私が生きている世界は、私がエステルなのだ。ジークハルト殿下に「気になる」と言ってもらえたのは、私のエステルだ。
「ーーどこに行きましょうか」
王太子ジークハルト殿下が行ってもおかしくはない場所は知っている。
でも、平民であるエステルが、騎士であるハルト様を誘う場所はどこだろう。
物語通りの場所は気に食わない。
三日後の集合場所は、ユーリンのお店だ。
「ユーリンに聞いてみようかしら」
彼なら、平民が好みそうなデート場所を知っているかもしれない。
(うん。……そうしましょう)
早速聖力を使って、エステルの姿になり、いつものように身代わりをベッドに寝かせる。
そして、私は自室を抜け出した。
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