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悪女なのでヒロインのふりをして、夫と不倫します!!  作者: 夕立悠理


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18 逸らした視線

 名前を呼ばれて、顔をそちらに向ける。

「……ジークハルト殿下」

「ああ。なかなか来ないので、心配になって迎えにきたんだが、カリンを見ていたんだな」

 そういって微笑むジークハルト殿下からは、嫌悪を感じない。

 それどころか優しさと温かみを感じる声だった。


(ほんとうに、隠すのが上手いのね……)


 自分が嫌っている相手でもそうとは思わせない。王たる者の資質の一つともいえるそれを、この人は、持っている。


「……はい。懐かしいな、と思いましてーー」


 どうせ、ジークハルト殿下も祝福のことなんて、忘れているだろうけれど。

「ああ、そうだな」

 ジークハルト殿下は、予想に反して頷くと窓の外に視線を向けた。


「君が私に祝福してくれたのは、あの木の下だった」

 懐かしむように目元を緩ませて、カリンを見る。

(……覚えていたのね)

 過去の私たち。

 まだ純真で子供だったあの頃のことを。


「ジークハルト殿下は、あの日……」


 何を願ったのだろう。

 何を叶えたいと思ったのだろう。


「どうした?」


 穏やかに首を傾げられ、この先を尋ねるか迷う。……でも。

「いえーーなんでもございません」


 かつてのジークハルト殿下の望みを知ったところで何かできるわけではない。

 ジークハルト殿下の友愛を踏み躙ったのは、この私なのだから。


「そうか?」

「はい」

 

 では行こう、とエスコートのために差し出された手に触れる。


 アイヴィアナとして触れるのは結婚式以来の熱を感じながら、食事の間まで歩いた。


「アイヴィアナ」

 扉の前に着いた時、ジークハルト殿下に名前を呼ばれる。

 ジークハルト殿下の金色の瞳がまっすぐに私を見つめていた。

「君が大切だ」

「ーー!」


 手紙にも書かれていたのと同じ。

 迷いなく言い切られたその言葉に、嘘は感じられない。

(ーー当然だわ。だって、私には聖力があるのだから)


 害することはできなくても、ある程度のことを自由自在にできる聖力という、前世で言うと魔法みたいな特別な能力。

 そんな能力がある私が、政治的に大事でないはずない。


「……はい」


 ジークハルト殿下の輝く金の瞳を見ていられず、視線を逸らす。


(こんなとき、エステルならーー)


 ヒロインらしく、能力だけでも必要とされて嬉しいと微笑むのだろうか。

 いや、そもそも、エステルなら能力がなくとも必要とされるはずだ。


(だって、エステルは、ジークハルト殿下にとって特別、だもの)


「……アイヴィアナ」


 ジークハルト殿下の瞳が逸らした視線を追いかけてくる。

 そして、私の手を握った。


 けれど、その手を握り返すこともできず、ただ、唇を噛み締める。


 ーー結局、その後の朝食会も会話らしい会話もないまま、終わってしまった。

 

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