14 何をされたら
……なんて、そんな恨み言を言えるはずもない。
だから、微笑む。
ーーすると。
「お待たせいたしました」
ちょうど、ユーリンが料理を運んできた。
ほかほかと湯気が立ち上っている料理からは、美味しそうな香りがする。
「こちらが本日の魚のソテーで、こちらがシチュー煮込みです」
ジークハルト殿下の前には、魚のソテーが、私の前にはシチュー煮込みがそれぞれ置かれた。
「美味しそうだな」
「ええ、とっても」
ジークハルト殿下の言葉に頷く。
さっそく料理を口に運ぶと、柔らかな鶏肉のうまみが口の中で広がった。
「……おいしい」
でも、昨日の魚のソテーよりもずっと、美味しく感じられる。
(……なぜかしらーー)
シチュー煮込みが特別上手、とはユーリンは言っていなかったはず。
「……ふ」
「ハルト様?」
一口食べたジークハルト殿下は、柔らかく微笑んだ。
「……いや。やはり、誰かと食べる料理は、美味しいなと思って」
「! ……あ」
(そうだ。……もうずっと、一緒に食事をとってないーー)
いまや王太子妃である私とともに食事をとるのは、ジークハルト殿下だけ。
でも、そのジークハルト殿下に仕事が理由で拒絶されている私は、ずっと一人で食事をとっていた。
「……そうですね」
「エステル、君もそう思う?」
私が頷くと、ジークハルト殿下は不思議そうに瞬きした。
(……そんなに不思議なことかしら)
「ええ、もちろん。一人の食事は寂しいですから」
「……そうなのか」
意外そうに頷いたジークハルト殿下。
そんな、あなたは。
(本当の私のこと、思い出してくれたかしらーーなんて)
ーーそんなはずない。
毎日一人で食事を摂り、一人で眠る私のことなんて、どうでもいいはずで。
だからこそ、私はエステルとして今ここにいるのだから。
そんなことをぼんやりと考えていると、ジークハルト殿下が俯いた。
「……ハルト様?」
(どうしたのかしら)
「ーーいや。私の浅慮さについて考えていた」
顔を上げたジークハルト殿下は、柔らかく微笑んで、私を見つめる。
「君のおかげで、気づけたよ。ありがとう」
「? ……はい」
理由はわからないが、お礼を言われるのは悪い気はしない。
「……ところで」
その後、料理を食べ進めていると、ジークハルト殿下がフォークを置いた。
(何かしら……重要な話?)
私も姿勢を正して、ジークハルト殿下を見つめる。
「これは、おかしな質問なのだが。エステル、君は、何をされたら嬉しい?」
「え……」
ジークハルト殿下の言葉に瞬きをする。
(これは、好感触……どころか、かなり興味を持たれている? それとも、単なる会話、なのかしらーー)
なんと答えるべきだろうか。
そもそも何をされたら、なんて抽象的すぎだ。
誰についてなのかも、状況もわからない。
でもーー。
「そうですね……私は」
私がそう言われて真っ先に思いついたのは。
「恋しい人に好きになってもらえたら、一番嬉しいです」
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