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1 思い出した記憶

 ――好きな人との結婚式。

 それは多くの乙女にとって、待ち望んだ瞬間だと、そう思う。

 そして、私も例外なくそんな乙女の一人だった、はずだった。


「……それでは、誓いのキスを」

 神父の言葉と共に、これから夫になるジークハルト殿下が、私のベールをそっと上げる。

 星のように煌めく金の瞳と目が合ったかと思うと一瞬で、唇に温かい感触がした。


 好きな人との初めてのキス。

 幸せでない、はずがない。


 ――でも。

 その瞬間に、私の中に断片的な前世の記憶というものが流れ込んできた。


『神様の悪戯』

 ――この世界の花嫁が花婿とのキスの際に稀に見ることがあるという、前世の記憶を指す。


 そんな神様の悪戯によると――。

「……アイヴィアナ?」

 婚約者から夫になったジークハルト殿下が、私を見る。

 そう私、ことアイヴィアナ・クルシェは、いわゆる悪女、だった。


◇◇◇


 神様の悪戯の記憶では、この世界は、前世の私がはまっていた物語にそっくりだった。

 その物語のヒーローはもちろん、ジークハルト殿下で、ヒロインは平民の少女。

 そして、私はヒロインとジークハルト様を引き裂こうとする悪女だ。


 王太子であるジークハルト殿下と結婚した公爵令嬢アイヴィアナ。アイヴィアナは、特別な力――聖力を持っており、その聖力と権力を使ってやりたい放題していた。(ジークハルト殿下と結婚できたのも、聖力のおかげだ。)

 当然、やりたい放題しているアイヴィアナにジークハルト殿下が愛を返すことはなく、夫婦関係は冷え切っていた。

 そんな中、ジークハルト殿下が視察に行った先で、平民であるヒロインに出会う。

 ヒロインの性根の優しさに徐々に惹かれていくジークハルト殿下。

 けれどこの世界、一度婚姻関係を結べば、離婚するのは難しい。

 それに、ヒロインは平民だから身分差もある。

 そんな不倫に身分差、という困難のオンパレードを二人の愛で乗り越えていく……というのが物語のあらすじだ。


 そして、最終的に悪女アイヴィアナは、破滅し、ジークハルト殿下とヒロインは幸せな結婚をする。

◇◇◇



 ……さて。物語のあらすじを思い出したのは、いいものの。

 今日は、ジークハルト殿下と私の結婚式だ。

 つまり何がいいたいかというと――、やりたい放題した後だ。

「アイヴィアナ?」

 ジークハルト殿下が、フリーズしている私の名前を、もう一度呼んだ。

「……なんでもございませんわ」

 首をふり、薄く微笑む。


 心の中では滝のような汗を流しているが、それを表情に出さずに済むのは、この16年間貴族として培った能力の賜物だった。


(……それにしても、私が悪女だなんて。ふふ、やっちまいましたわ)


 心の中で盛大にため息をつきながら、目の前のジークハルト殿下を観察する。


(煌めく星の瞳に漆黒の髪――間違いなく美形だわ。ヒーローなのだから、当然かもしれないけれど……)


「――」

 ジークハルト殿下は私の視線に気づき、ぱっと顔を背けた。


(……べ、べつに。ショックなんて、受けてないわ)


 嘘だ。恋した人に顔を背けられたショックで心が張り裂けそうだった。

「……ごほん。ここに一組の夫婦が誕生した。夫婦に神の祝福があらんことを!」

 すでにブリザードが吹き荒れそうなほど夫婦関係は冷え切っているが、式をつつがなく終えるため、神父はそう宣言した。



 神父の宣言と共に、鐘が鳴る。

 澄んだその音色を聞きながしながら、

(……アイヴィアナの最後――悪行が過ぎて毒杯で死ぬのよね)

 このままいくとお先真っ暗確定な未来に思いを巡らせた。


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
面白そう! ちょっと続き読んできます! 殿下の髪色は、漆黒なのかー… 想像したら、漆黒もちょっといいかも♥
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