始まり
船の長旅も終わり、真弥ノ島に着いた。
緑が揺れ、空の青が目を焼き付ける。それは、そこにあった。緑と青に浮かぶ、純白の、まるで真珠のような美しさを放つ白い揺りかご。
「綺麗…」
煤木カナンは、その美しさに見とれているようだった。
厳重な門が目の前にある。どうやら、カードキーでしか開かないようだ。俺は、監督官から事前に貰っていたカードキーをかざした。すると、ギィという金属同士がかすれ合う音が響いた。ふと、彼女の方を向いた。目が合った。
「…」
沈黙がしばらく続いた。最初に口を開いたのは、彼女だった。
「行きましょうか、ドクター。」
「…そうですね、シスター。」
二人のドクター、シスターが一歩、踏み出した瞬間だった。
「ここ…本当に病院なんだよな…?」
まず揺りかご内を見て、一番に思った事がこれだった。
少なくとも“病棟”であるはずなのに、広々としたオープンスペースのような敷地がある。そして何よりも、白い、白い、白い!!照明も白、壁紙も白、床も白!!
「ステキな…病棟ですね。患者達も、きっとここなら、寂しくないでしょうね…」
確かに、と思った。不思議と、この空間にいると、お袋の温もりが思い出される。白という色は、人間に安らぎを感じさせる。と聞いた事があるような気がする。ここに入れば、患者達も心から安心する事が出来るのだろうか。そんな考え事をしていると、女性の声が聞こえた。
「ようこそぉ。白い揺りかごへ。」
声の方を見ると、50代位の女性と男性がこちらを歓迎してくれた。
「私は、この白い揺りかごの院長、代々木上みね。また、トップシスター、代々木上 みねでもあるわぁ。そして…」
「私は、代々木上茂。副院長、そしてトップドクターを務めています。」
二人の首元と薬指にある、銀色が光る。二人が、ドクター、シスターにおける大ベテランである事は一目瞭然だった。
「えっとぉ…?ドクター金城と、シスター煤木で合ってる?」
『 合ってます!!』
声が揃う。
「はぁい、じゃあこれとこれとこれ、よろしくねぇ。」
俺と煤木カナンに、白衣と名札とカルテを差し出した。カルテには、揺りかご内に収容されている患者の病名等々が書いてあった。
「二人とも、良い表情ねぇ。ドクターとシスター顔してる。じゃあ、シスター煤木ちゃんはこっち、ドクター金城君は、トップドクターと一緒に回ってねぇ。」
そう言うと、ドクター側とシスター側、二チームに別れた。煤木カナンは、別れ際、
「お互い、患者たちを理解出来るように頑張りましょうね!」
と言って、トップシスターの所へスタスタ行ってしまった。その笑顔が美しく見えた。
まだこの“揺りかご”について知らない事ばかりだ。けれど、患者達に、トップドクターに教えて貰う事を活かし、ドクターの使命を全うしよう。そう心に違った。
四話公開しました!
いよいよ次回から、奇病患者達との交流が始まります。
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