表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

第7話 悄然

 城下町まで走りきると、さすがに息が切れた。二度の爆発にさすがの住民たちも騒ついていたが、誰も城には近づこうとはしなかった。まあ兵士もいないし怖いだろうな。


 自然と城から走ってきた俺たちに視線が集まる。


 どうなっているのか聞きたいが、声をかけられない。そんな空気だ。マリーが俺の背中を小突いた。わかってるよ、俺の役目だって。

「あー……城にネズミが大量に出て倉庫の物をダメにしたんだが、いま駆除が終わったところだ。念のために城の外にもわいていないか確認してくるから、道をあけてもらっていいか」

 周りに聞こえるように言うと、皆なぜか納得したように道をあけてくれた。

 やはりこの国は平和ボケしているな。隣のマリーから舌打ちが聞こえたが、何も言うまい。ミランダはやけに静かだと思ったら、唇をきつく結んでいた。

「行こ。面倒になる前に」

 マリーに手をひかれてようやくミランダは歩き出した。

「大丈夫。ちゃんと敵は間違えないから」

 俯き加減で歩くミランダに、陽が沈むわずかな光を背にマリーは力強く言った。

「だから安心して。ね? 大丈夫だから」

 結局ミランダは城下町を出るまで何も言わなかった。何も見たくないと言わんばかりに下を向いたまま、マリーに手をひかれたまま。


 それを俺もマリーも咎めなかった。わかっていたんだ。ミランダは優しいから。きっと苦しむだろうと。

 

「よし、追っ手は来ていないな。マリー、いいぞ」

 王国を出てすぐの森に隠れて周囲を確認したが、兵士は追ってきていない。俺たちを探している場合じゃないだろうからな。当然か。

 マリーはひらけた場所を探して、赤い発煙筒を打ち上げた。


 陽が落ちて紅掛空色べにかけそらいろに染まる天に、高く高く赤い煙が弧を描く。


 それを、俺たちはただ見ていた。

 赤い煙が風によってかき消されるまで、ただ見上げていた。それしかできなかったんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ