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天降りの薬師は敵国の騎士団長に愛される。  作者: 采火


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24/28

24.うきうきデート

「セトがご褒美に団長とデートがしたいって」


 ガエンから援護射撃という名目で背中を射られたのは、私が三級薬師になった日の夜だった。

 結果を聞くために、わざわざ勤務後にディオニージにくっついて屋敷に立ち寄ったガエンは、あろうことかその場で、ディオニージのいるその場で! そんなことを言い出した。


「ちょっとガエン!?」

「なんだ、セトは王都観光がしたいのか?」


 そしてディオニージに地味に伝わらない真意。嬉しいだか、悲しいだか。ちょっとフェデーレ、生ぬるい目でこっちを見ないで!


「一日は無理だが……明日の午前は非番だから付き合えるぞ」

「いいじゃないか、セト。行っておいで」


 ディオニージの返事に、今度はフェデーレからの追撃。これは、もう、逃げられない……!

 私はどきどきしながら、こくりと頷く。


「ご、午前中だけでいいから! ディオ様と、遊びに行きたい!」

「そうか。なら、行きたい場所を考えておくように」


 ディオニージはそう言うと、私の頭をひと撫でして屋敷の中に入っていく。

 やばい、どうしよう、突然のおでかけの予定に頭が真っ白になりそうだ。


「善は急げってな。ちゃんと告白してこいよ」

「ガ〜エ〜ン〜?」


 にかっと笑うガエンに、私は半眼になる。こいつ確信犯だ。さっさと振られてこいっていう副音声が聞こえる。ひどいやつだ……!


「僕はセトの選ぶ人なら誰でも応援するよ」

「フェデーレも変な期待はやめて!」


 こっちはこっちで娘に恋人ができるのをまだかまだかって待ってる親父だ。くそぅ、やっぱりフェデーレにもバレてるの!? 味方なのか冷やかしなのか微妙なライン!


 こうして突発的に決まってしまったディオニージとのデート。

 明日、どんな服を着よう!?






 夕食の時に待ち合わせ場所や時間を決めておいた。

 非番だからといって、自由なのは午前中だけだし、午後からディオニージは仕事だ。なので、王都で人気のパン屋でパンを買い、王城の一般開放区にあるちょっとした公園で早めのランチということになった。


「ディオ様、お待たせ!」

「アユカ、おはよう」


 待ち合わせはお屋敷の玄関だ。

 ディオニージはそのまま出勤できるように制服のズボンと簡素なシャツという姿。制服の上着は予備が騎士団に置いてあるそうなので、出勤したらそれを着るそうだ。

 見た感じ、普段の仕事終わりのディオニージとあまり変わらない。そのおかげで、私も一対一だという緊張がほんの少しだけ薄れた。


「可愛いらしい服だな。買ったのか?」

「フェデーレがね。お駄賃だって」


 写本の報酬にフェデーレが買ってくれたのは、新品のワンピースだった。ライムグリーンの鮮やかな色のハイウェストスカートに、上は白いシャツ風のトップスになっている。厚手のリボンでウエストを絞ってるからつなぎ目はみえないんだけど、すごく可愛いワンピースだ。


 髪も少しだけ結って、ワンピースの色合いに合わせた花飾りを挿している。お化粧だって、使用人さんにお願いして教えてもらった。私渾身のデート仕様。


「似合わない、かな」

「よく似合っている。フェデーレのセンスは良いな」


 ……褒められたのは間違いないんだけど、私よりもフェデーレが褒められている気がする。嫉妬。ジェラってしちゃうぞ!


「さぁ、行こうか。アユカはどんなパンが好きなんだ?」

「なんでも好きだよ。でもやっぱり、甘いパンが一番好きかな」

「甘いパン?」


 ディオニージが聞き返す。そんなものあるのかって? あるんですよ。日本にはあったんですよ。


 この世界では砂糖が高級品だ。ジャムを作れるほど沢山は採れない。メープルシロップが主流だけど、それもまぁまぁ高価な贅沢品。だからそもそも、甘いものが少ない。


 さらにパンなんかは、ぺっしゃんこでナンみたいなのか、硬いフランスパンみたいなのばかり。スープにつけて食べたり、具材を巻いて食べたり。美味しいけど、たまに日本のドーナツやクリームパンが恋しくなっちゃう。


 そんな話をすれば、ディオニージが歩きながら私の頭を撫でてくれる。


「甘くてふわふわのパンか。想像しにくいが……砂糖や蜜が手に入ればいいのか?」

「分かんない。レシピがうろ覚えだから」

「そうか……」


 それにさ、そんなこと言うと甘いパンよりもケーキが食べたくなっちゃうし。甘いおやつは贅沢品になっちゃうから、この世界じゃ食べられないものだって、ずいぶん昔にわりきってる。だからこの話はここでおしまいっと。


 そんな話をしながら私たちは目的地についた。

 王都で人気のパン屋さん。さてさて、中身はいったいどんな感じだろうと思って入ってみたら、想像以上に美味しそうなサンドイッチがたくさん!


「美味しそう!」

「燻製肉とチーズと卵……どれも悩むな」


 ディオニージとあれがいい、これが良いと話しながらパンを選ぶ。

 店の半分はお客さんで埋まっていて、これに決めた! って思った瞬間、眼の前で完売すること二回。悲しみにくれる私とは対象的に、ディオニージは数が多い人気パンを総なめする勢いで買いこんだ。


「アユカ。いくつか買ったから、ここから選ぶのじゃ駄目か?」

「……いいの?」

「いいに決まってる」

「でもディオニージが食べる分、なくならない?」

「大丈夫だ。食べきれないくらい買った。残ったのは騎士団の奴らにわける」


 あーもー、そういう豪快なとこ、好きかもしれない。

 てれっとしちゃうのを一生懸命我慢して、私はディオニージと店を出る。


 王宮の一般開放区はそこそこ広い。中央が公園のようになっていて、ベンチが置かれている。休みやすいようにベンチのそばには木が植えられていて日陰を作っていた。

 そのベンチの一つに並んで座り、私はディオニージの買ってくれたパンを物色する。


「この卵と野菜のいい?」

「いいぞ。他は?」

「一個で大丈夫!」


 私はいただきますをして、卵のサンドイッチにかぶりついた。

 何かの果汁をベースにしたソースが甘酸っぱくておいしい。パンはちょっと硬いところもあるけど、ソースが染みてるおかげで柔らかい。


「美味しい!」

「そうだな。こっちの燻製肉のも美味い」


 二人で並んでサンドイッチを食べる。もっもっと頬張っていたら、ディオニージの指が私の顔に向かって伸びてきた。


「ソースがついているぞ」


 頬についたソースを指でぬぐわれる。そのままぺろっとされた。ディオニージは二つ目のパンへと手を伸ばす。

 ……私、顔、赤くなってないよね?


「アユカ。サロモーネでの生活はどうだ。もう慣れただろうか」

「そりゃ、もう三年経つし」


 領主館での生活に慣れすぎちゃって、自給自足していたアーダムの村に帰れる気がしない。フェデーレも村にいた時よりよっぽど生き生きしてる。


 診療所だって、マリオ先生の指導のもと、最近は薬品関係のほぼ全てを任されている。診療所に私が留守番できるようになったので、マリオ先生は診療所をお休みにしないでも往診に行けると言ってすごく頼られてるんだ。


 それにアルゲもあるし。海賊騒動があって以来、一人で浜に行くのが禁止されてしまったけれど、漁師たちが領主館まで売りに来てくれる。アルゲはレシピと交換なので、休日はアルゲ料理の研究に余念ない。


 サロモーネでの生活を話すと、ディオニージは嬉しそうに頬を緩めた。


「サロモーネは良い場所か」

「うん。すごく良い場所だと思う」

「そうか。……俺は領地を留守にしがちな、駄目な領主だ。それでも良い場所だと言ってもらえるなら、領主館の者たちが頑張ってくれているからだろうな」


 青く澄んだ空を見上げるディオニージは、心からそう思っているみたい。

 騎士団長という忙しすぎる職につきながら、領地を運営する。そんなの、元から無理だ。聞けば、サロモーネは代々の騎士団長に与えられる領地なのだとか。騎士団長の給金を現物支給するために与えられているようなもので、ディオニージの収入源のほとんどがサロモーネの税なのだとか。


「俺は与えられてばかりで、サロモーネに何も還元できていない。帰るたびに何かしてやれないかと思うが……難しいな」


 そう力なく笑うディオニージに、私は首を振る。

 そんなことないと、私は思う。


「年に一回でも、ディオ様が帰ってくるのをみんな待ってる。領主軍も、自衛団も、ディオ様に稽古をつけてもらえるの光栄だって言ってたよ」

「そうだろうか」

「そうだよ!」


 力強く頷く。

 頷いてから、ハッと気がついた。

 もしかして、告白するなら今がチャンスなんじゃ……!?


 私はすぅはぁと深呼吸する。

 それから顔をあげて、まっすぐにディオニージを見た。


「わ、私も! ディオ様と会えるの嬉しいから! サロモーネに帰ってきてくれるの、いつも楽しみにしてる。それに、ディオ様が許してくれるなら……ずっと、領主館に住んでいたい」


 ディオニージが目を丸くして私を見た。

 いける。もっといける。踏みこめ、踏みこむんだ、私!


「私、ディオ様のこと……すごく好き。愛、してる」


 言っちゃったぁ……!

 恥ずかしくて顔から火が噴きそうだ。やばい、熱い、頬が熱い。あぁ〜、恥ずかしさで転げ回りたい!


 そんな心境をぐっと胸に閉じこめる。心臓がドコドコと大きく叩かれてる。今にも破裂しそうなんじゃないかって心配になるくらいに早鐘を打っている。それでもなんとか落ち着いた、大人のお姉さんみたいな、余裕を顔に貼りつけようとして。


 ディオニージの破顔に、さらに私の心臓に負荷がかかる。


「ありがとう、アユカ」


 あ、あああ、ありがとうだって! ありがとうだって!

 私は胸を高鳴らせながら、ディオニージの次の言葉を待つ。

 次の、言葉は。


「俺も、アユカのことを愛しているよ。娘のように」


 …………………………むすめの、ように?


 乙女真っ盛りだった私の心に亀裂が走る。

 この瞬間、私の失恋が確定した。




※この作品のヒーローはディオニージです(二回目)。

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