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王になりたかった男(不老不死伝説と明智光秀)  作者: 野松 彦秋
プロローグ
3/173

3.悪い噂

1535年、兄の急死により、急遽一族の取り纏め役になった彦太郎の叔父明智光安は日々の激務に奔走していた。


努力型の秀才の彼は、直属の上司である長井新九郎(後の斎藤道三)からも可愛がられていた。


もともと、明智家は美濃国守護土岐氏の分家であり血筋も高い。


しかし、明智一族の多くの者達が、そもそも血筋の良さが人間の評価であるとは思ってもいない人間であった為、元々商人であった上司にも、色眼鏡を介せず素直に従ったので、長井新九郎も美濃の名門明智家を頼りにし、関係は良好であった。


長井新九郎の正妻も、光安の妹であった。両家の縁は、日増しに深くなっていったのである。


長井新九郎は、土岐氏での実権を握る為に美濃の名門である明智氏と関係を深めたかったし、明智氏も能力が抜群で、美濃国の中で日々力をつけている長井新九郎との関係を深めたかった。両者は、利害が一致した良きパートナーであったのである。


運悪く、彦太郎の父であり、一族の取り纏め役であった明智光綱が、美濃守護土岐氏内での内乱で命を落とした。


35歳と円熟を増した男の仕事がさあこれからという時に、非業の死を遂げた光綱に、一族の誰もが惜しんでいた。弟、光安もその一人であった。


光安の頭に、仕事をしながらも昨今一族内で飛び交う、一つの噂が浮かんできていた。


その噂は、本当にバカバカしい噂であった。


兄明智光綱は、その妻お牧の方に命を吸われ、早死にしたのだといういわれの無い中傷であった。


その噂の出処は分からないが、光安は兄が存命の時、二人が仲むつまじく生活をしていた頃を知っているので、義姉が不憫でならなかったのである。


兄嫁お牧の方の出自は名門若狭国(わかさのくに)守護武田家である。


7代当主武田信豊の姉として明智家へ嫁いできたお牧の方は、美しくそして才女であった。


外見は若いのであるが、彼女の物言いの落ち着きと、幅拾い教養は、群を抜いていた。


こんな話がある。ある日、京から年老いた高僧が美濃へ訪れた事がある。


その高僧が明智城にも訪れ、接待したのがお牧の方であったのだが、高僧が語る説法の道理を若い彼女は良くわきまえ、また茶飲み話で出てきた源平合戦の話を、その時代をまるで見てきたかのように語る彼女の知識に、高僧は偉く感服したという。


高僧は、冗談まじりに、お牧の方は長生の仙女ではないかと皆に伝えたという。


又光安自身もこんな噂も聞いた事がある。


お牧の方は、嫡男彦太郎を生んだ時にも、喜びのあまり異国の国の言葉を繰り返したという噂もある。


当然、その場にいた者は彼女の言葉が分らず、彼女を不思議がったのである。


何よりも、今回の噂の信憑性を高める一つの原因は、お牧の方の容姿の若さであった。


三十路を越えても、その容姿は嫁いできたばかりの時と変わらぬと言っても良い程若さを保ったままであった。


彼女の容姿は変わらないが、彦太郎の父、明智光綱は年相応に老けていく。その差が激しかった事と、此度の光綱の非業の死がツマラヌ噂を作る。


『バカバカしい。根も葉もない噂じゃ、』と光安の口から言葉が漏れた。


『若狭国の名前の由来の伝説や八百比丘尼の伝説でもあるまいし、義姉上(あねうえ)八百比丘尼(やおびきに)とでも言いたいのか?』と光安は自分の頭に浮かんで来た考えを否定するように頭を振り、止めていた筆を再び動かした。


噂とは、平時の時は取るに足らないが、不運や不幸な状況になると、悪意が込められて流される。


人間とは、つくづく業の深い生き物であると光安は思った。


若狭国の地には有名な二つの伝説があった。


一つは、若狭国の名前の由来に関る伝説である。海の向こうからこの地に来た若い男女が、その後に年をとらなかったという「若さ」にちなんだと言われる伝承。


又、八百比丘尼の伝説である。昔一人の女が知らずに伝説の人魚の肉を食べ、不老不死となった伝説が残っている。


若狭国を統治していた国主が、ある日病気になった時、その女がやってきて自分の命をその国主に分け与えた。


すると、国主の病は治り、その代わり命を分け与えた女は不老不死ではなくなったという伝説である。


『ワシの仕事は、この明智城を彦太郎が元服するまでしっかり守る事じゃ。バカバカしい噂等相手をしている暇など無いわ。』


律儀で真面目な叔父光安は、自分に言い聞かせるように呟いたのであった。

『面白かった!』


『続きが気になる、読みたい!』


『今後はどうなるの!!』


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