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王になりたかった男(不老不死伝説と明智光秀)  作者: 野松 彦秋
プロローグ
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2.蓬莱山(ほうらいざん)

紀元前213年、徐福が率いる船団は仙人が住む島を目指し海原を東に進んでいた。

船の甲板では、二人の男が船の進行方向を見ながら会話をしていた。


若い男が、初老の男に困惑した表情で話しかけている。


『徐福様、斉の国の港を出て、既に20日が経ち、皇帝から頂いた食料も底を尽きようとしております。』


『乗員達からも、不安の声が上がってきております。』


初老の男は、暫く考えた後、落ち着いた声で若者に指示を出す。


『食料の底がついたら、神薬と交換する予定であった五穀(麻、麦、キビ、アワ、豆)の種を食べる様に皆に伝えよ。』


『あと、遅くとも20日以内に目的地につく筈じゃとも伝えよ、しかし、海の天候はどうなるかわからん、天候次第で到着日が遅れる事もありうるので、大事に食べろという事も皆に伝えるのじゃ。』


『畏まりました。これで暫くは、平穏が保たれる事でしょう。』と若者は答え、自分の胸の前で両手の手のひらを重ねた上で徐福へ敬礼する。


敬礼後、若者が頭を上げると、徐福は溜息が出そうな顔で海原を見ている事に気がついた。


(この方は、いつも一人で悩んでおられる。自分が広げすぎた風呂敷を、どうしまおうかと・・・。)


(とてつもなく良い人なのだが、甘美な世界を夢見る人であり、自分の理想と現実の落差にいつも胸を苦しませている。)


(面白い人だ・・・。)


姜文(きょうぶん)、お主、そんな目でワシを見るのは止めてくれ、お主の考えている事が目で伝わってくるようじゃ。』と、徐福は恨めしそうな顔で姜文を見ながら、苦しそうに呟く。


『ハツ!申し訳ございませぬ。徐福様の表情があまりに苦しそうであったので・・・。』


『・・・・。』、徐福は言葉に詰まり、表情はそのまま、冷たい視線を若い従者へ送る。


徐福が沈黙をする中、姜文は冷静に徐福へ質問する。


『徐福様、我々は本当に、仙人が住むという三神山(さんしんざん)、あの伝説の蓬莱山(ほうらいざん)に辿り着けるのでしょうか?』


『・・・姜文、お主は本当に賢い男だが、時々、・・・その言い方が鼻につくのう。』


『ああ、そうじゃ、その通りじゃ、お主が思っている様に、ワシがそんな事分かる訳ないじゃろう。』


『お主があれだけ反対していたのに、ワシが我を通し、3千人もの人間を連れて出航した事を責めておるのじゃろ?。』


『ああ、そうじゃ、そうじゃ、ワシは合理的に考えられない愚かな男じゃ。』と、沈黙を守っていた徐福が、突然怒り出したのである。


言葉が出れば、出るほど、感情が高ぶってしまう、そんな様子であった。


『徐福様、私は何も言っておりません。ただ、目的地に着くのは何時になるのか、徐福様が仰った、後20日以内に着くという根拠を聞きたかっただけでございます。』


『確かに、三千人もの人間を連れて行くと聞いた時、この人正気の沙汰では無いなと思い、止めましたが、貴方様の殺される運命の3千人を救いたいという崇高な想いを理解し、私も計画の準備を協力したではありませんか。』


『私が今貴方様と共にこの船に乗船している事だけで、私の思いが伝わっていると思っておりましたが・・・この姜文悔しくて、たまりません。』


『うぐっ。そんな事言われたら、何も言えなくなるではないか。この卑怯者。』と徐福は吐き捨てるように言い、口ではこの若者に勝てないと悟り、再び言葉を喉の奥にひっこめる。


『徐福様、始皇帝に食料を2倍出させたのも、今の状況を想定した上での事でございます。神薬の交換品の名目で、五穀の種を大量に船に乗せれた幸運を、喜びましょう。』


『もし、私がこの提案を徐福様にしなかったら、今頃、我々は、乗員同士で別れ、殺し合いの計画を練っている頃だったでしょう。』


『感謝されると思っておりましたが、そんな顔で睨まれるとは・・うぅ・・。』と、姜文はワザとらしくウソ泣きをしてみせる。


しかし、直ぐにケロッとした声に変わり、『なあに、心配する事はございません。私の予想も、徐福様と同じでございます。後20日もすれば、島の一つや二つ見えてくるはずです。』と姜文は徐福を励ます様に言った。


『20日以内に、島が見えなければどうするのじゃ?』と、今度は徐福が姜文に意地悪な聞き方をする。


『未だ別の交換品(若い男女3000人の意)が残っているので、心配ありません。』と、姜文が反射的に答える。


答えた時の若者の目には一瞬殺気が籠るのを見て、徐福が嫌気がさした様に叫ぶ。


『だから、ワシはお主のそういう所が嫌いなのじゃ~!』


『エッ、私の何処が悪いのですか??。徐福様をこれほど大事に思っているのに。』と姜文は、驚いた様に徐福への不平を呟く。


父と息子の様に年の差がある二人であり、夢想家の指導者と合理主義の権化の様な従者の二人であったが、両極端の二人が歯に衣着せぬ会話をしながらも、口では反目しながら心では反目せずお互いを認め、協力して船団を率いていた。


そんな二人がいたからこそ、彼らは仙人が住むと言われた伝説の島へ着く事ができたのかもしれない。


五穀の種を食べ尽くしそうになる頃、約3,000人の徐福一行は、頭で思い描いていた様な山々が見える島に辿り着く。


現在の福井県、青葉山はその時現地の人達から何と呼ばれていたのだろうかは分からない。


しかし船から降りた彼らは、その山を蓬莱山と呼び、それを信じたのである。


数千年後の日本の戦国時代に、その地は若狭国と呼ばれる様になる。

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