仲の良い女子に初夢の話を振ったら何故か真っ赤になった
「ねぇねぇ、写真撮ってよ」
「任された」
派手にデコられたパンケーキと共に笑顔の彼女の写真を一枚撮った。
彼女はこれをSNSに載せるのだろうか、なんて彼女の笑顔を独占できないことに小さな嫉妬心を覚えつつも、撮った写真を彼女のスマホに転送する。
「わぁ、良く撮れてる。ありがとう!」
「どういたしまして。んじゃ食べようぜ」
「うん!」
喫茶店で仲良くパンケーキを食べているお相手は、高校のクラスメイト女子の笹塚さん。同じクラスになってから何となく気が合う彼女の事を俺はいつしか気になる女子にカテゴライズさせていて、ついにデートまでこぎつけたのだ。
ショッピング、映画、そして喫茶店。
定番を巡るだけだったけれど、話題が弾みとても楽しいデートになった。
「今日は楽しかったね」
そしてそれは笹塚さんも同様で、彼女の幸せそうな笑顔は間違いなく本心からの言葉だろう。
「じゃ、じゃあまたデートしようぜ」
「うん!」
よっしゃ、次の約束もゲットだぜ。
これで一歩前進だ。
次は……何を……しよう……か……
「……………………知ってた」
だってデートの内容がダイジェストだったもん。
途中からおかしいなとは思っていたけれど、楽しかったから気付かないふりをしていた。
「ふわぁあ」
夢だったことが虚しいけれど、良い夢だったことには間違いない。
新年早々縁起が良く、すっきりした目覚めで気分が良い。
「あれ待てよ。これって初夢だよな。まさか実現したりして!」
なんてな。
流石にそれは高望みすぎるだろう。
この時の俺はそう思っていた。
――――――――
「あけおめ~」
「ういっす、あけおめ」
三学期の最初の日、自席に着くと前の席の男子が話しかけて来た。
そこそこ仲の良い友達で、時々一緒に馬鹿話をしている間柄。
「なぁなぁ、お前初夢見た?」
そいつが登校するやいなや、速攻で初夢について聞いて来た。
「すげぇ良いのを見たぞ」
「マジで!? 俺もそうなんだ」
「へぇ、どんな夢を見たんだ?」
「聞いてくれるか!」
そりゃあ聞いて欲しいからその話題を振って来たんだろ。
「ワールドカップ決勝でゴラッソを決めたんだぜ!」
こいつサッカー馬鹿だからそんなことだろうと思ったよ。
微笑ましいな。
「ワールドカップの前に高校サッカーで勝てよ」
「うぐっ……来年こそは優勝するし! そしてプロになって代表デビューだ!」
「そうか、じゃあ今のうちにサイン貰っておこうかな」
「サインくらい幾らでも書いてやるさ!」
いや、ゴミになるから止めてくれ。
「それでお前はどんな夢を見たんだ?」
「笹塚さんとデートする夢」
「おお、そういうのも良いな」
「お前はサッカーボールが彼女だろ」
「そうだな!」
めっちゃ笑顔なところ申し訳ないが、彼女をガチ蹴りするとかやべぇDV野郎だぞ。
「私の名前が聞こえたような気がするけど、呼んだ?」
おっとサッカー馬鹿のことを心配している場合じゃなかった。
笹塚さんの位置を確認して聞こえないような大きさで話をしていたはずが、聞こえてしまったらしい。でも聞こえたのは名前だけで話の内容は伝わって無さそうなのが幸いか。
それなら誤魔化そう。
笹塚さんなら聞かれても笑って流してくれそうだけれど恥ずかしいし。
「こいつが笹塚さんとデートする初夢を見たんだってさ!」
「お、おい」
だがサッカー馬鹿があっさりバラしやがった。
まったく余計な事しやがって。
仕方ない、軽い感じで説明して笑い話にしちゃえ。
「そうなんだよ。目が覚めたらびっくりしちゃって……さぁ……?」
愛想笑い全開で意識なんて全くしてないよとアピールしようと思ったら、笹塚さんの反応が妙で最後まで演じきれなかった。
だって彼女は体を硬直させて少し俯き、俺の話を全く聞いて無いっぽいんだもん。
「あの……笹塚さん? どうしたの?」
まさかあまりの気持ち悪さにドン引きしてるってことはないよな。
だとすると最悪だぞ。
「お~い笹塚さん」
「お、おい。覗き込むな」
不思議に思ったサッカー馬鹿が遠慮なく下から顔を覗き込みやがった。
こいつ顔は良いのにデリカシー無いから彼女が出来ないんだよ。サッカー一筋で作る気は無いらしいが、そもそも作れねぇよと声を大にして言いたい。
「うわ顔真っ赤じゃん」
「え?」
改めて笹塚さんを見ると、確かに俯いていても分かる程に頬が紅潮していた。
まさか照れてる?
それってまさか脈ありで喜んでくれてるってこと?
それとも単に男子の夢に出るのが恥ずかしいってこと?
その答えは笹塚さん本人が教えてくれた。
「貴方達がえっちな事言うからでしょ!」
「え?」
「え?」
そんな話してたか?
サッカー馬鹿と顔を見合わせて不思議そうに顔を傾げてしまう。
まさか笹塚さんにとって俺がデートする夢を見るのはえっちなことなのだろうか。
う~む、女子の気持ちって訳分からん。
でも笹塚さんは困ってるみたいだから、ここは彼女の意を汲んでスルーしてあげよう。
俺はサッカー馬鹿とは違って出来る男なのだ。
「えっちな事ってなんだよ。じゃあ笹塚さんはどんな初夢を見たんだ?」
これで話題は少し逸れるだろう。
後は笹塚さんの話を膨らませて、俺の初夢の話をなぁなぁで終わらせる。
「~~~~っ! み、見てないよ」
しかし笹塚さんは更に顔を赤くして挙動不審になってしまった。
どう考えても何かの夢を見ている。
しかも人に言えない類のものだ。
どうやら初夢の話題そのものがNGだったようだ。
ここからどうにかして話題を変えるには……
「分かった! エロい夢見たんでしょ!」
「おい馬鹿!」
「~~~~っ!」
うわマジか。
女子達の間でネタにするだけならまだしも、男子相手にそりゃあ言えるわけない。
「見てないって言ってるでしょ!」
その顔でそう言われても説得力が皆無だ。
正直男としてどんな夢を見ていたのかがとても気になる。
根掘り葉掘り聞き出したい。
だがそれでも聞かないでやるのが男ってものだ。
「えぇ~どうみても見てる反応だぜ」
どうやらサッカー馬鹿は男では無かったようだ。
マジでいい加減にしろよな。
「案外その相手がこいつだったりしてな」
よし決めたぶん殴ろう。
そう思って拳を握りしめたが、流石に笹塚さんの目の前で暴力を振るうのは問題だと思い直し彼女の様子を確認すると、何故か彼女は俺から目を逸らした。
え、その反応ってまさか。
「そ、そそ、そんなわけにゃいでしょ!」
笹塚さんの夢に俺が出て来た?
しかもエロい夢?
良く話をする男子だから偶然出て来てしまっただけだろう。
それ以上の深い意味は無いはずだ。
これ以上考えてはいけない。
「はいはい、この話はここまで」
「笹塚さんってこいつのことが好きだったのか~」
「ここまでって言ってるだろ!?」
空気読めないにも程があんだろ!
「あのなぁ。そんなわけないだろ。偶然だよ偶然」
「いや、絶対そうだって。喜べよ、お前の初夢が叶うかもしれねーぞ」
「分かった。分かったからその話は後でな」
「何でだよ。せっかくだから今デートに誘えば良いだろ」
こ・い・つ・は!
これほどまでにこいつをぶん殴りたいと思ったことは無い。
「あんなことするわけないでしょ!」
「え?」
「え?」
だから笹塚さんも自爆しないでくれ。
それにそこまで真っ赤になる『あんなこと』って何なんだ。
どんな初夢を見たのか気になるじゃないか。
しかしさっきから笹塚さんの反応が妙だぞ。
まさか俺も笹塚さんと同じような夢を見たのかと思われているのか?
そして笹塚さんの夢の中ではそれがデート扱いだったとか。
これは勘違いを正しておいた方が良さそうだな。
「俺が見たのは普通に一緒に映画に行ったり喫茶店に行ったりする程度の夢だぞ。だからあまり気にしないでくれ」
「え……あ!」
どうやら早とちりしたことに気が付いてくれたようだ。
だがこのままだと笹塚さんだけが欲求不満とかむっつりだとかって話になってまた困らせることになりそうだから、そのことに頭が回る前に今度こそ強引にでも話を終わらせよう。
「そうそう。笹塚さんみたいにエロい夢は見て無いんだってさ!」
ゴンッ!
「いてぇ! 何するんだよ! せっかくフォローしてやったのに!」
「フォローになってない! むしろ最悪だ!」
「うわああああん!」
「笹塚さん!」
あぁ、逃げちゃった。
これからどんな顔して笹塚さんと話せば良いんだよ……
ちなみに今年の初夢は正夢になりました。
どっちの夢なのかは黙秘する。