食卓の交差点
将軍は苦悩していた。
ある一つの争いが終わろうとしていた。
野を焼き、田畑を荒れさせ、人民は疲弊していた。
これが小規模の争いならば、ここまで苦悩することはなかっただろう…。
だがしかし、この争いは北方と南方との戦、そう簡単に終わるはずなど無い。
故に、我々はお互いに手打ちにすることと相成った。
代償はそれなりに払った…。
だが、それが苦悩の種ではない。
これからその争いの事後処理と取り決めを話し合う。
だが、それも苦悩の種ではない。
問題は………その後の食事会にあった………。
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料理人たちは苦悩している。
この食事会は荒れるであろうと……。
まず、料理は心和ませるものでなくてはならない。
過酷な環境の北方民族は血の気の多い連中が多いとも聞く。
下手な料理を出せば、首が飛ぶかもしれない……。
一方で温暖な気候で平野が南方民族は気位が高い。
こちらの機嫌を損ねるようならば、どんな嫌がらせを受けるかわかったものではない。下手すれば首だけでは済まないかもしれない……。
また、この食事会はもう一つ、風雲急を告げかねないのっぴきならぬ事情もあった。
故に料理人たちは手を取り合うことを決めた。
厨房という戦場には北も南もない。
むしろ、協力してこの窮地を脱する為に呉越同舟の思いを強く抱いている。
そして、その解決法を考えることにした。
それは北方と南方の料理を一つづつ交互に提供することで、どっちの料理が多くでたという難癖を回避することだ。
表面上はこの争いは双方手打ちという形で、丸く治めたように見えるが、その机の下では忸怩たる思いが渦巻いている。
穏健派はいいとして好戦派はいつ何時でも再び剣を振りかざせる時を狙っているのである。
自分たちの料理で、それが引き起こされてはとてもかなわない……。
当初の難題は、一旦解決したかのように思えた。
北方の川魚の前菜に、南方の瓜を使った酸味のあるスープ、北方の羊料理に、南方の怪魚の蒸し物、北方の酒に、南方の果物と……ここまでは良かった。
そう…ここまでは……。
最後に締めの主食を食べるのが我らのいる国のマナー
しかし、その締めの主食は北方と南方で大きく違っていた。
それは小麦料理か、米料理かということ
一見するとどうでもいいように見えるが、これは根深い問題である。
南方は米の産地である。
温暖な気候、豊富な水資源、肥沃な大地、それらの条件が程よく揃い、収穫期には辺り一面を金色の絨毯で覆い尽くす。
それ故に食事会の締めは米料理であることが南方での常識であった。
しかし北方では寒冷な気候、水資源も限られ、土地も肥沃とは言い難い……。
故に、北方では麦を栽培する。
そうなると必然、食事会の締めは点心や麺料理が常識となる。
しかし此度の食事会ではわけが違う。
どちらか一方を出してしまえば、立ち所にムードは剣呑なことになることは間違いない。
侮辱された、格下と思われた、そう難癖をつけて再び戦乱の口火を切ることになるだろう。
料理人たちは苦悩した。
どちらを出すべきか………。
どう言い訳をしたものか……。
どう取り繕うか……。
どうしたらいいのか………。
そして、彼らは考えることをやめた……。
どちらか一方を出して一方を怒らせてしまうのならば、
どちらも出してしまえと……。
彼らの運命は、果たしてどうなったのか……。
それは歴史を見れば明らかであろう。
なぜならば今でもその習慣は現代でも生きているのだから
嘘だと思うなら中国のレストランのコース料理を見てみるといい。
彼らの苦悩の跡がメニュー表の中に今も息づいているはずだから……。
初投稿してみました。
いろんな人のお話を見ているだけの人でしたが
これを機にもっと色んな話を書けるようになったらいいなぁ
後書きの書き方もよくわからず手探りですが……(汗)
何はともあれまたどこかでお会いしましょう