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43 恍惚のミランダ

 遠く聳える赤い山々に太陽が登り、庭で鳥が囀る頃。

 ルシアンは寝室に用意されたお茶を淹れている。


 ミランダはその背中を眺めながら、ベッドから起き上がれずにいた。

 ルシアンが茶碗に注いだお茶を盆に乗せて持って来てくれたのに、ミランダはのそのそと掛け布団を捲るだけで、やっぱり起き上がれない。


「無理しなくていい。ほら」


 ルシアンはミランダの背中に枕を2つ差し込んで、身体を起こしてくれた。渡された茶碗から立ち上るジャスミンの香りが心地よく、ミランダは湯気を吸い込んで目を瞑った。


「はぁ……いい匂い」


 ルシアンは申し訳なさそうにベッドに腰掛けて、ミランダの乱れた髪を直している。


「大丈夫か? どこか痛いところは?」


 ミランダは恍惚とした顔で首を振った。

 茶碗を返して無言のまま手を広げると、ルシアンは盆をサイドテーブルに置いて抱きしめてくれた。

 竜王式の結婚式を終え、明け方に結ばれてからミランダは何度もルシアンに抱きしめてもらっていた。

 心も身体も余韻が残って幸せに満ちていたが、眠さとだるさでベッドの住人のままだ。


 ルシアンは抱きしめたままミランダの背中を摩っている。


「今日はここに朝食を運んでもらうから、ゆっくり過ごそう。湯あみの用意もできているぞ」


 離れた場所にある浴室の宮とは別に、寝室に面した中庭には小さな露天風呂があった。こんこんと湧き出る温泉の湯の音がここまで聞こえてくる。


「ルシアン様は?」

「ミランダが眠っている間に入ったから」


 ミランダは亀のようにゆっくり起き上がって、素朴な疑問を呟いた。


「私はもう不死なのでしょうか。怪我も治ってしまったり?」

「いや、人間がすぐに不死になるわけではないぞ。その……こんなふうに交わって何年もかけて身体が変化していくと……竜王の書には記されていた」


 説明しながらルシアンは赤面し、さらに慌てて付け加えた。


「それに治癒力が多少強化されたとしても不死身ではないのだから、くれぐれも怪我には気をつけてくれ。風呂場で転んだりしたら大変だ」


 ミランダはクスクスと笑いながらベッドから降りた。


「はい。充分に気をつけますわ。愛しい旦那様」


 戯けて露天風呂に向かうミランダを見送りながら、ルシアンは小声で反芻した。


「い、愛しい……旦那様……」





 すっかり明るくなったリビングでは、アルルがプルートと一緒にお茶を飲んでいた。


「あ、ルシアン様。おはようございます!」

「おはよう」


 アルルはキョトンとした顔でルシアンを見上げている。


「どうしたんです? そんなににやにやして」

「え? う、うむ。気持ちの良い朝だな」

「お妃様は? まだ眠ってらっしゃいますか?」

「ああ。アルルよ。ミランダは昨日の件で疲れているし、今日はここでゆっくり過ごそうかと思うんだが」

「そうですね。大変な一日でしたから」


 ルシアンはアルルの近くに置いてある剣を手に取った。


「ふむ……せっかくだから、庭で剣の使い方を教えようか」

「え!? 本当ですか!?」


 アルルは飛び上がって喜んだ。


「うわーい! やった~!」


 プルートはアルルがはしゃいでいる間にパタパタと飛んで、寝室に向かった。

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