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42 つがいの儀式

「竜王が滅ぶ時、一緒に滅んで次代の卵を残す。そして新生竜王の誕生と共に、新たなプルートが生まれるんだ」


 ミランダは大きなプルートを見上げた。

 黄金色の瞳は純粋な輝きを以てこちらを見つめている。ミランダは思わず笑顔になった。


「プルートちゃんは竜王様にとって、本当に特別な竜だったのですね」

「うん。そしてプルートには、もう一つの役割がある。竜王がつがいとなる花嫁を選んだ時に、竜王式の儀式を司るんだ」

「まあ。プルートちゃんが神父役ということですか?」


 ミランダが人間式の結婚式に当てはめたので、ルシアンは少し笑って首を振った。


「ううん。違うよ。プルートは花嫁に、僕と同じ刻を生きる命を与えるんだ」


 ミランダはその意味を飲み込めず、首を傾げた。


「竜王様と同じ刻を生きる……ということは、永遠の命を?」


 ルシアンは頷いた。寂しそうな顔になっていた。


「僕が命を終える時、花嫁もまた一緒に……それは何百年後になるかわからないんだ」


 ルシアンは金色の瞳を潤ませてミランダを見上げた。


「怖いよね? 僕は貴方が花嫁になってくれただけで嬉しかったし、人間式の結婚式を挙げられて幸せだった。だからこの竜王式は断ってくれても……」

「お受けします」


 語尾を被せたミランダの即答に、ルシアンは驚いて目を見開いた。


「ちょ、ちょっと待って。これは大事なことだから、よく考えてほしくて」


 ミランダはニッコリと笑顔になった。


「竜王様と永遠の刻を過ごせるなら、私は何も怖くありません」


 ルシアンは唖然としている。


「ど……どうしてそんなに強いの? 永遠が怖くないの?」


「ルシアン様が十四歳の時に孤独を恐れたお気持ちは、痛いほどわかります。ご家族である先代竜王様とお別れしたのですから。でも、私は今、ルシアン様と一緒です。ずっと一緒にいたいという気持ちは、永遠の刻への恐怖よりもずっと強いのです」


 ルシアンの怯えていた瞳は、希望の煌きに変わっていた。

 茫然とこちらを見上げる可愛らしい少年にミランダは微笑んで、プルートに向けて両手を広げた。


「プルートちゃん。私は竜王様と永遠の命を歩みます。ずっと一緒に。永遠に愛することを誓います」


 宣言したミランダにプルートは近づき、ミランダの胸元に首を下げた。プルートの少し開けたピンクの口内から光の玉が現れて、それはミランダの胸の中に注がれて、消えた。ミランダの身体は眩しいほど発光して、周囲の白い空間も光で満ちた。


 光とともに薄れゆく意識の中で、少年の声が届いた。


「ミランダ……愛してる。ありがとう」




 ミランダが瞳を開けると、そこはベッドの上で、朝焼けの明かりに包まれた寝室の中だった。あれはやはり夢だったのだ。


 目前には、端整な顔の大人のルシアンが眠っている。


 夢の中のプルートから受け取った光の玉はミランダの身体に吸収されたような感覚だったが、現実のミランダの身体には何も変化はなかった。


 ルシアンもそっと目を開けて、二人は言葉を交わさないまま、じっと見つめ合った。

 夜明けを待つ朝日がルシアンの夜空色の髪を美しく照らし、ミランダの薔薇色の髪も艶やかに輝いていた。黄金の瞳も、ルビー色の瞳も互いを映して煌めいて、まるで惹きつけ合うように距離を縮めると、二人は神聖なキスを交わした。


 蕩けて溶けて、ひとつになってしまうような優しいキスの後に、竜王と花嫁は暁の中で互いの身体を重ねた。

完結まであと8話!次話から金・土・日の週末更新になります。

「生贄にされた私を花嫁が来た!と竜王様が勘違いしています」2巻電子書籍をよろしくお願いします!

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