40 緊張の夜は再び…
ルシアンとアルルが湯から上がり、リビングには豪華な夕食が運ばれてきた。
今日は踊りも演奏もなく落ち着いた食事の席だが、ミランダにとっては心安らぐ時間となった。
いつも竜王城では対面で食事をするルシアンとの距離も、ピタリと隣にくっついているし、プルートもミランダの膝の上で寛いで寝転がっている。反対側の隣にはアルルがいて、楽しそうに料理を食べている。
ミランダは心がジンとして、思わず呟いた。
「家族って……いいですね」
その言葉にアルルがパッと顔を上げて、ルシアンもこちらを向いたので、ミランダは思わぬ注目に赤面した。
「えっと、竜族の……その、竜王城のいつものメンバーというか……」
口籠るミランダに、ルシアンは応えた。
「うむ。家族で囲む食卓はいいな」
「はい! 僕も家族と食べるご飯が好きです」
「ウム~!」
続けてアルルとプルートにも援護してもらって、ミランダは嬉しさがこみ上げた。と同時に、涙が溢れていた。
「カシュカさんは……ご家族も拠り所も失って、寂しい思いをしないでしょうか」
ルシアンはそっとミランダの肩を抱き寄せた。
「大丈夫だ。ガレナ王は熱りが冷めた後、宮殿で引き続きカシュカの面倒を見ると約束してくれた。俺もガレナ王国を訪れて様子を見るし、それにいつだって、こうして家族で旅行できるのだから。ミランダもまたカシュカに会えるぞ」
ミランダはルシアンを見上げて瞳を輝かせた。
「新婚旅行の次は家族旅行に? 本当ですか?」
「ああ。ミランダが望むなら、ガレナ王国でもどこへでも。いつでも連れていくよ」
「ルシアン様……嬉しいです」
二人が寄り添うのを横目に、アルルは次なる旅行の希望に舞い上がって、飛んで来たプルートとハイタッチをした。
♢♢♢
穏やかで温かな夕食の時間を終えて。
ミランダは再び、緊張の夜を迎えていた。
アルルがプルートを連れて「おやすみなさい」と自分の寝室に向かった後で。ルシアンとミランダはまた、あのムード満点の寝室の入り口に佇んでいるからだ。
妖しいほどに美しいランプの灯りに、天蓋の透明なベール。散らされた花々とお香の煙……。
ゴクリ。
昨晩のルシアンの嵐の如く情熱的なキスと抱擁を思い出して、ミランダは思わず生唾を飲み込んだ。はしたないと恥じ入りつつも、鼓動は躍るように勝手に跳ねている。
柔らかな月光に包まれた庭に目をやると、昨晩のような風は吹いていなかった。静かな寝室は布擦れの音さえ大きく響く気がして、ミランダはその場で動けないまま硬直していた。
「ミランダ」
ルシアンの落ち着いたバリトンの呼び声に、ミランダは不自然に勢いのある反応をしてしまう。
「は、はいっっ」
「今日は疲れただろう。ゆっくり休むんだ」
見上げるとルシアンは優しく微笑んでいて、昨晩のような情熱はそこになかった。
「ル、ルシアン様こそ……お疲れですから、今日はちゃんとベッドでお休みなさってください」
労いの発言が図らずともベッドに誘う文句になっていて、ミランダは赤面した。
そんな慌ただしい反応のミランダの手をルシアンは握って、キングサイズのベッドの横に誘導した。
布団をめくってもらってミランダは素直にベッドに上がると、ルシアンはそっと布団を掛けてくれる。
ミランダは不安になってルシアンの寝衣の袖を摘んだ。このままリビングに行ってしまいそうな雰囲気だ。
「あ、あの、ベッドでちゃんと……」
「ミランダの隣で眠ってもいいか?」
「えっ、も、勿論です!」
上擦った大声の返事と同時に、ミランダの鼓動はまた躍り出していた。
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